第37話 150年前 とある軍事施設の会議室
太った男が腕を組み、白衣の男へ視線を向けた。
「本当に天花でよかったのか?」
机の上に置かれた資料へ顎をしゃくる。
「総合成績だけ見れば、ナタル・エルピディアの方が上だったはずだ」
「ええ」
白衣の男は淡々と答える。
「彼女で問題ありません」
そう言うと、ナタルの試験結果を手に取り、何の未練もなくゴミ箱へ放り投げた。
「おいおい……」
太った男は眉をしかめる。
「せっかくの逸材だぞ」
「優秀だから操縦できる――そんな単純な話ではありません」
白衣の男は椅子へ腰を下ろし、くつくつと喉を鳴らした。
「では、何が決め手だった?」
白衣の男は少しだけ目を細める。
「絶望です」
部屋が静まり返る。
白衣の男は天花の資料を手に取り、その名前を指先でなぞる。
「ナタルは陽の気が強すぎる。明るく、穏やかで、人を惹きつける……だが、それはアンビジブルにとってとても邪魔な性質だ」
ふっと笑う。
「そんな人間に、あれを扱うことなど出来るはずがない」
視線を資料へ落とす。
「ですが、彼女は違う」
口元がゆっくりと歪む。
「深い絶望を抱え、破壊願望もある。だからこそ、選ばれました。まぁ少しナタル・エルピディアに感化されそうになっていたが大したことではない」
太った男は黙ったまま天花の資料を見つめる。
やがて小さく鼻を鳴らした。
「……お前の理屈は理解できん」
「理解していただく必要はありません」
白衣の男は笑みを崩さない。
「結果だけ、ご覧いただければ十分です」
そう言って二人は部屋を後にした。
扉が閉まる。
静まり返った部屋には、ゴミ箱へ捨てられたナタル・エルピディアの資料だけが残されていた。




