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橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ

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34/117

第34話 150年前 とある軍事施設の会議室

「これで政府軍は安泰だ」


 腹を無理やりスーツへ押し込んだ男が、満足げに口角を吊り上げる。


「……いや」


 窓の外へ目を向け、言い直した。


「地球そのものが安泰になる」


 その言葉には確信というより、自らの野望に酔う者だけが持つ甘い響きがあった。


「その通りです」


 白衣の男は待っていたように頷く。


「この兵器が完成すれば、クンストンはもちろん、他の宇宙生命体も我々には逆らえません」


 そう言って壁一面のモニターを示す。

 そこには、巨大兵器《アンビジブル》の設計図が映し出されていた。

 白衣の男は、それを愛おしむように見つめる。


「つまり我々が、この宇宙の頂点に立つということか」


 男は窓際まで歩き、灰色の空を見上げた。

 見ているのは空ではない。

 自らが支配する未来だった。


「残る問題は一つです」


 白衣の男が静かに口を開く。


「操縦者です」


 その一言で空気が張り詰めた。


「人手不足は深刻だ」


 スーツの男は腕を組む。


「候補を集めるだけでも骨が折れるだろう」

「条件は多くありません」


 白衣の男は即座に答えた。


「身体が丈夫であること。それだけです」


 一拍置いて続ける。


「年齢も性別も問いません。候補者を連れてきていただければ、適合するかどうかはこちらで判断します」


 スーツの男は顎を撫でた。


「……いいだろう」


 低く笑う。


「一か月やる。その頃までに数人連れてこい」

「ありがとうございます」


 白衣の男は深々と頭を下げた。


「必ず、ご期待に応えてみせます」


 スーツの男は満足そうに肩を叩くと、そのまま研究室を後にする。

 重い扉が閉まり、足音が遠ざかった。

 それでも白衣の男は頭を上げなかった。

 やがて誰もいなくなった研究室で、小さく肩を震わせる。


「……ついに、この日が来た」


 ゆっくりと顔を上げる。

 その口元には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。


「これで私は歴史に名を刻む」


 一歩、また一歩。


 巨大な設計図へ歩み寄る。


「いや……歴史では足りない」


 モニターへ手を伸ばし、恍惚とした表情で呟いた。


「宇宙中の誰もが私を知り、私を恐れ、私を称える」


 指先が《アンビジブル》の設計図をなぞる。


「ようやく……完璧な世界が始まる」


 研究室には、男の笑い声だけが静かに響いた。

 だが、その野望を打ち砕く歯車は、すでに回り始めている。


 《アンビジブル》の操縦者。


 ――ナタル・エルピディア。


 その存在こそが、男の描いた未来を、栄光ではなく破滅へと塗り替えることになる。

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