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橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ

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28/118

第28話 4月22日 アーカイブ事務所 正午

 アーカイブ事務所へ戻ると、応接スペースのソファにはすでに先客がいた。

 エルザとジーノ。そして、見慣れない軟体動物のような人物が、ゆったりと腰掛けている。


「カナトちゃん、アルスちゃん、ソノラちゃん、おかえり~」

「よう」


 二人に迎えられ、アルスはほっとしたように頭を下げた。


「こんにちは、エルザさん、ジーノさん。それと……」


 どうしても、その隣にいる人物へ目が向く。

 人型ではあるものの、身体は半透明で柔らかく、ゆっくり水面のように揺れている。どこかクラゲを思わせる姿だった。


「あら、そういえば初対面だったわね」


 エルザが思い出したように笑う。


「こちら、アクセル・金三津さん」


 紹介されると、その人物は穏やかに頭を下げた。


「初めまして。アクセル・金三津と申します」


 落ち着いた優しい声だった。

 見た目とのギャップに少し驚きながらも、アルスは慌てて頭を下げる。


「は、初めまして! 環アルスです!」

「アクセルと呼んでいただければ嬉しいです」

「じゃあ……アクセルさん」

「はい。それでは私も、アルスさんとお呼びしますね」

「もちろんです!」


 アルスは隣のソノラを見る。


「この子はソノラです。本名かどうかは分からないんですけど……」


 アクセルはソノラへ穏やかな視線を向けた。


「よろしくお願いします」


 そう言うと、身体から一本の触手がするりと伸びる。

 ゆっくり差し出されたそれは、まるで人の手のようだった。

 アルスは一瞬戸惑ったものの、おそるおそる握り返す。


「よろしくお願いします」


 ひんやりとしていて、驚くほど柔らかい。

 なのに、不思議と安心する感触だった。

 一方、ソノラは差し出された触手をじっと見つめるだけで動かない。

 アクセルも急かすことなく、静かに触手を戻した。


「アクセルさんも、アーカイブの人なんですか?」

「ええ」


 触手を身体へ戻しながら微笑む。


「正確には準メンバーですね。私の能力が必要な時だけ、お手伝いしています」

「そうだったんですね」

「アルスちゃん、ソノラちゃん。立ち話もなんだし座って座って」


 エルザがソファをぽんぽんと叩く。


「お昼まだでしょ? アクセルが差し入れ持ってきてくれたの」

「差し入れ?」

「『銀シャリ一番』のおにぎりだぜ!」


 ジーノが胸を張る。


「朝から並ばないと買えねぇ超人気店!」

「えっ、本当ですか?」

「本当ですよ」


 アクセルが柔らかく笑う。


「少し多めに買えましたので、皆さんの分も持ってきました」

「ありがとうございます!」


 アルスは嬉しそうに頭を下げた。


「ソノラさんもどうぞ」


 声を掛けられると、ソノラは小さく頷く。

 みんなでソファを囲み、おにぎりを頬張る。

 具材の話をしたり、ジーノが行列の武勇伝を語ったり。

 他愛のない会話が、事務所に穏やかな時間を運んでいた。

 アルスも笑いながら相槌を打っていたが、不意に肩から力が抜ける。

 王との謁見が終わり、張りつめていた緊張が一気にほどけたのだ。

 急激な眠気が押し寄せる。

 瞼が重い。

 視界がぼやける。

 遠くでアクセルの優しい声が聞こえた。


「アルスさん、大丈夫ですか? ずいぶん眠そうですが……」

「あ……すみません。なんだか急に……」


 背筋を伸ばそうとしても、身体に力が入らない。

 抗うことを諦めた瞬間、意識はゆっくりと暗闇へ沈んでいった。

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