表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/25

第15話 10年前 とある田舎町にある黒い森 夕方

 薄暗い森を、冷たい風が吹き抜ける。

 木々がざわめくたび、葉擦れの音に混じって、誰かが必死に名前を呼んでいた。


「アルス……! アルスっ!」


 ――ああ。

 抱きしめられている。

 そう気づくまでに、少し時間がかかった。

 黒髪の幼い少女が、震える腕でアルスの身体を支えている。

 視界の端では、自分の腕から流れ落ちる血が、黒い土をゆっくりと染めていた。

 身体から、少しずつ熱が抜けていく。

 ぽたり、と頬に温かいものが落ちた。

 涙だった。


「ごめんなさい……」


 少女の声は震え、今にも途切れそうだった。


「私が……こんな場所に行こうなんて言わなければ……」


 違う。

 そうじゃない。

 ここへ来ると決めたのは、自分だ。

 そう伝えたいのに、唇は思うように動かなかった。

 意識が、ゆっくりと闇へ沈んでいく。

 怖くはない。


 ただ――。


 泣いている少女の声だけが、胸を締めつけた。

 アルスは力を振り絞り、かすかに口元を緩める。


「シュエ……」


 掠れた声が、かろうじて漏れた。


「……泣かないで」


 アルスの震える指先に、小さな宝玉が握られている。

 淡い緑の光は弱々しく揺れながら、それでも消えようとはしなかった。

 まるで、小さな命がそこに灯っているようだった。


「僕は……大丈夫……だから」


 声になったのかさえ、わからない。

 瞼がゆっくりと閉じていく。

 音が遠ざかり、景色が溶けていく。

 最後まで残っていたのは――

 シュエの腕のぬくもり。

 そして掌の中で静かに脈打つ、淡い緑の光だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ