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橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ ー日常編ー

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第64話 モルガ・カービー編 11

 カフェ・ラートの開店十五分前。朝の準備を終えた頃、軽やかなベルの音とともに店の扉が開いた。


「おはようございま〜す。……あっ、君が新しく入った子だね?」


 入ってきたのは、すらりとした長身で、スポーツ選手のような爽やかさを持つ女性だった。短く整えられた髪に白い歯を輝かせ、軽やかな足取りでモルガの前に立つ。


「おっ、おはようございます! モルガ・カービーです! よろしくお願いいたします!」

「モルガさんは今日が初出勤なんだ」


 横からアルスが笑みを浮かべながら補足する。


「よろしくね。私は勝比良(かつひら)。キッチン担当してるの。で、後ろにいるのが——」

「……押勝(おしかつ)です……」


 勝比良の背後から、ひょこっと顔を覗かせたのは、小柄でおさげ髪の女性だった。恥ずかしそうにうつむきがちにモルガへ挨拶しながら、胸には分厚い本を大事そうに抱えている。


(……人見知りなのかな?)


 モルガはそう感じつつ、ふとその本に目を留めた。


「あっ、その本……プラン・タジネ先生の本ですよね?」


 その一言に、押勝はぴくんと反応し、ぱっと顔を上げた。


「しっ、知ってるんですか!?」


 さっきまでの小声が嘘のように、押勝の声が一気に跳ね上がる。目を丸くした表情は、まるで子犬のように嬉しさでいっぱいだった。


「はい! こ友達に借りて読んでるんです。まだ途中までしか読めてないんですけどとっても面白くて。今はちょうど、フェリエが幼馴染のルークスをヒロインと一緒に助けに行くところで——」


 熱を込めて話しながら、モルガはふと、自分の手が押勝に握られていることに気づく。細くてあたたかな指が、しっかりと彼女の手を包んでいた。


「タジネ先生、いいですよね! ネタバレになるので控えますが、読み終わったらぜひ感想を聞かせてください! あと、表現が曖昧なところとか、時系列で混乱しやすい描写とか……質問があれば何でも聞いてください! わたし、タジネ作品ならいくらでも語れます!」


 押勝は興奮のあまり、早口になっていて、目が爛々と輝いている。モルガはその勢いに圧倒され、口を半開きにしたまま固まってしまった。


「こらこら、押勝。圧が強すぎるっての」


 勝比良が苦笑しながら手を伸ばし、猫の子を持ち上げるように、押勝の襟首をひょいと引っ張った。


「はっ……!」


 押勝は我に返ると、目を見開いて赤面し、しゅんと肩をすぼめて縮こまる。まるで怒られた子どものように、背中が丸くなる。


「ご、ごめんなさい……急に話しすぎちゃって……」


「い、いえ! 全然大丈夫です。読み終わったら感想伝えますね」


 モルガがそう言うと、押勝の顔にぱっと明るい笑みが戻る。


「では……おすすめのシーンだけでも、あの……」

「はいはい、もう終わり! お仕事始めるぞ〜!」


 勝比良が軽く押勝の肩をぽんぽんと叩きながら、にやりと笑ってキッチンの方へ促す。押勝はまだ名残惜しそうに振り返りつつも、勝比良に背中を押されていった。


「モルガさん、困ったことがあったら、遠慮なく聞いてね。アルス君、雪緒君、今日もよろしく。ソノラちゃんもね」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

「……」

 勝比良はいたずらっぽくウインクすると、押勝と肩を並べてキッチンへ向かった。

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