第56話 才原誠編 5
昼食を終え、テーブルが片付けられると、才原は紙袋から丁寧に包まれたお菓子を取り出し、一人ひとりに手渡し始めた。
「はい、どうぞ。今日のおやつです」
「わぁ〜、ありがとう、マコトお兄ちゃん!」
嬉しそうな声をあげた少女が、包みを両手で抱えるように受け取る。
「えっ!見て見て、惑星エイトのお菓子も入ってる!」
別の少年が、袋の中をのぞき込み、目を輝かせて声を上げた。
「だから言っただろ、マコトお兄ちゃんはいつもお菓子くれるって。でもさぁ、リボンはやっぱ変な形してるなあ」
少年はいたずらっぽく笑いながら、ラッピングをくるくると眺めた。
「そこはお手柔らかに。器用じゃないんですよ、こういうの」
才原は肩をすくめて、照れたように微笑むと、そっとカイトの前にもお菓子の包みを差し出した。
「はい、君にも。特別な詰め合わせですよ」
「……ありがとう。お兄ちゃん」
カイトは少し戸惑ったように受け取ったが、その頬には照れ隠しのような笑みが浮かんでいた。
「また……また、ここに来てくれる?」
彼は視線を落としたまま、小さな声で尋ねた。
「もちろん。また来ますよ」
才原は静かに微笑み、優しく頷いた。その一言にカイトの肩がほっと緩むのが見えた。
お菓子を配り終えると、子どもたちは三々五々、遊びに出たり、自室へ戻って勉強を始めたりと、それぞれの午後を過ごし始めた。
「さて、そろそろ僕は失礼します。また時間ができたら寄らせてもらいます」
才原がそう言って立ち上がると、ルイーザがゆったりと微笑んで頷いた。
「ええ、ありがとうね、マコちゃん。来てくれるだけで、みんな嬉しいのよ」
「俺、門まで送ります」
英が手を止め、軽く上着を引っ掛けて立ち上がった。
二人で門へと向かう途中、才原がふと思い出したように立ち止まり、紙袋からもう一つ、子どもたちのものより一回り大きな包みを取り出して英に差し出した。
「そうだ、英くんにも。これは大人用」
「ありがとうございます」
英は少し驚いたように目を見開き、それから少しだけ頬を緩ませて、他の子より大きな袋を丁寧に受け取った。
「片付けまでありがとう。今日の食事、本当に美味しかったですよ」
「いえ、子どもたちもなんだかんだ言いながら、けっこう手伝ってくれるんで。助かってます」
英はそう言いつつ、渡された包みを胸の前に抱えながら歩き出した。門をくぐり、才原が帰ろうとすると、英がふとその背中に声をかけた。
「仕事、忙しいのは知ってますけど。ちゃんとご飯は食べてくださいね」
その何気ない一言に、才原は思わず足を止めた。背中越しに目を見開き、それからふっと表情をゆるめる。
「はい、もちろんです。自分の上司があまりにも健康を顧みないもので、おかげでいい反面教師になってます」
「なら、いいんですけど」
英はそっけない口ぶりでそう返しながらも、どこか少し安堵したようだった。
才原は軽く笑みを浮かべ、ひらりと片手を上げて別れの挨拶をし、誠華舎を後にした。




