第51話 エルザ・ブラックフォード編 11
翌朝。
白い朝靄が転送ゲートの周囲を包むなか、エルザは地球行きのプラットフォームへ向かった。
すでに到着していたテイラーが、彼女を出迎える。
「見送りに来てくれたのね。ありがとう。ボイルドさんの様子は?」
「昨夜は、ずっとお写真をご覧になっていました」
テイラーは目元を和らげた。
「ディーネ様とエルザさんのお写真を机に並べて、何か話しかけておられるようでした。……今朝は、久しぶりにゆっくりお休みになっています」
「そう……。なら、よかった」
エルザは髪を耳にかけ、ふっと息をついた。
胸の奥に残っていた重いものが、ほんの少し軽くなった気がした。
やがて彼女は顔を上げ、テイラーに向き直った。
「それで、あのエックスの件だけど。引き続き、よろしくお願いするわ」
「承知しております。地球の研究機関とも連携を進めておりますので、解析が進み次第、詳細なデータをお送りします。現物の輸送についても、厳重な管理のもとで手配いたします」
「ありがとう。頼りにしているわ」
エルザは微笑み、それからふと空を見上げた。
惑星エイト特有の、薄い青緑色の空。
朝靄の切れ間を、一羽の白い鳥が悠々と横切っていく。
「次に来るときは、白い花束を持ってくるわ」
テイラーが彼女を見る。
「海に流せるものをね」
その言葉に、テイラーは静かに目を伏せた。
「はい。ボイルド様も、ディーネ様もきっとお喜びになるでしょう」
エルザは小さく頷いた。
やがて転送ゲートが淡い光を放ち始める。
「それじゃあ、またね」
「お気をつけて、エルザさん」
二人は最後に一礼を交わした。
光がエルザの足元から広がり、やがて全身を包み込む。
その姿が薄れていく直前、彼女はもう一度、惑星エイトの空を見上げた。
次にここを訪れるときには、新たな白い花束を携えて。
その約束を胸に、エルザの姿は光の向こうへと消えていった。
朝靄の向こうでは、波が穏やかに寄せては返していた。
――惑星エイトに、静かであたたかな朝が訪れていた。




