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橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ ー日常編ー

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第47話 エルザ・ブラックフォード編 7

 仕事の報告を終えたエルザは、久しぶりに袖を通した私服に着替え、軽い足取りで外へ出た。

 向かった先は、惑星エイト最大のショッピングモール――グラントロピカ。

 南国の陽光を浴びた白いドームが、青空の下に堂々とそびえている。

 エントランスへ近づくにつれ、軽快な音楽と人々の笑い声が聞こえてきた。ガラス張りの自動扉が開いた瞬間、色鮮やかな光と甘い香りが一気に押し寄せてくる。



 吹き抜けのロビーには、色とりどりのフラッグが吊るされ、天井からは南国を思わせる装飾がいくつも下がっている。

 ファッション、グルメ、エンターテインメント。

 いくつものフロアから流れてくる音楽と話し声が混ざり合い、モール全体がひとつの祭りのような賑わいに包まれていた。


 ファッションフロアには、惑星エイトの職人たちが手がけたリゾートウェアが並んでいる。

 トロピカルカラーのサンドレス。

 鮮やかな水着。

 風通しのよさそうな薄手のカーディガン。

 どれも、常夏の惑星によく似合っていた。


 グルメフロアからは、焼きたての魚介料理や南国フルーツの甘い香りが漂ってくる。

 さらに奥では、イベントホールの舞台設営が進められていた。他の惑星から来たらしいパフォーマーたちが機材を運び、スタッフが慌ただしく行き交っている。

 エルザは歩きながら、あちらこちらへ視線を向けた。


「こんなときにしか来られないし……たまには、いいわよね」


 昨夜までの任務が嘘のようだった。

 そう思った途端、足取りが少しだけ軽くなる。


「地球のアーカイブのみんなにも、お土産買って帰っちゃお~っと♪」


 鼻歌交じりに向かったのは、お土産フロアだった。

 トロピカルな雑貨に、惑星エイト産の食品。色鮮やかなアクセサリーや服飾小物まで、棚という棚に商品が並んでいる。

 エルザはカートを押しながら、楽しそうに店内を見て回った。


「カナトちゃんとモルガちゃんには……」


 水着売り場の前で足が止まる。

 ラックには、レースのついたフリルタイプからシンプルなスポーツタイプ、水彩画のような柄のものまで、色とりどりの水着が並んでいた。


「うーん……」


 エルザは腕を組み、しばらく品定めする。


「モルガちゃんは、こういうの絶対喜んでくれるわよね~」


 一着を手に取る。


「でも、カナトちゃんは照れて着てくれなさそう」


 別の水着を手に取って、首を傾げる。


「まぁ、私の趣味も半分入ってるけど、三人でプールに行けたら楽しそうだし」


 少し考えてから――


「えいっ! 買っちゃえ!」


 エルザは二着をカゴへ放り込んだ。

 次に目に入ったのは、お菓子のコーナーだった。


「あっ、そうだ」


 棚を眺めながら、エルザは才原の顔を思い浮かべる。


「才原ちゃんには、前にいろんな味の綿あめが個包装になってるやつを持っていったら、やたら喜んでたっけ」


 そこで、ふと首を傾げた。


「……食べてるところ、一度も見たことないんだけど」


 くすっと笑い、大容量の個包装菓子をいくつかカゴへ入れる。

 さらに歩いていると、派手なフラワープリントのアロハシャツが目に飛び込んできた。


「あっ」


 エルザはシャツを手に取った。


「これ、ジーノにぴったりじゃない!」


 胸元に当ててみる。


「これ着たら、ますます『トロピカルなチンピラ』って感じね」


 しばらく眺めてから、にっこり。


「うん。決定~」


 そのままカゴへ。

 次は東郷のお土産だった。


「東郷ちゃんは……」


 エルザは立ち止まり、腕を組む。


「う~ん。何がいいかしら」


 視線を店内へ巡らせる。


「いつも飲んでるのは安いインスタントコーヒーだし……あんまり物欲もなさそうなのよねぇ」


 しばらく悩んだ末、水着売り場へちらりと目を向ける。


「……水着なんか贈ったら、本気で睨まれそうだし」


 想像したのか、エルザは肩をすくめた。

 そのとき、カウンターの隅に並んだ商品が目に入る。


「あっ」


 足を向けると、シンプルな灰皿がいくつか並んでいた。


「これ、シックでいいじゃない」


 手に取って裏返し、値札を確認する。


「ちょっとだけ高級感もあるし、きっと使ってくれるわ」


 灰皿をカゴに入れる。

 気づけば、カゴの中はかなり賑やかになっていた。

 それでもエルザの足取りは軽い。

 次々と商品を選びながら、ふと足を止めた。


「アルスちゃんとソノラちゃんには、何を買ってあげよう……」


 その視線の先に、一枚のポストカードがあった。

 普通のポストカードではない。

 角度を変えるたびに、埋め込まれた映像がゆらめき、惑星エイトの海中林が淡い光をまとって揺れている。

 エルザはカードを手に取り、左右へ傾けてみた。

 海藻が揺れ、魚の群れが光の中を泳いでいく。


「これだわ!」


 即決だった。


「アルスちゃん、地球以外の惑星って行ったことないって言ってたし……」


 ポストカードを眺めながら、エルザは微笑む。


「この海、きっと喜んでくれるわよね」


 絵柄の異なるカードを二枚手に取ると、今度は隣の棚へ移動する。

 また二人に可愛らしいパッケージのお菓子もいくつか選び、そして服売り場へ目を向けた。


「ジーノとお揃いにならないように、二人にはちょっと派手なアロハシャツも買っちゃおう」


 またしてもカゴの中へ一着、二着とアルス達に選んだアロハシャツを入れ、満足したのかレジへ向かい、商品をまとめてカウンターに置いた。


「お会計、お願いします。全部、地球のこの住所へ配送で」


 エルザが端末に住所データを転送すると、店員が慣れた手つきで処理を進めていく。


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

「はーい」


 手続きが終わるのを待ちながら、エルザは両腕を上へ伸ばした。


「ん~~……!」


 ぐっと身体を伸ばしてから、ふうっと息を吐く。

 そして会計が終わると、エルザは身軽な足取りで店を出た。


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