第42話 エルザ・ブラックフォード編 2
エルザは、惑星ファイブの出身だった。
表面の九割以上を海が覆うその星には、海上に浮かぶ島々を利用した都市と、海中に築かれたドーム都市が広がっている。独特の文化を育んだその星を、エルザは幼い頃に離れた。
行き先となったのが、常夏の惑星エイトだった。
そこで彼女を迎え入れたのが、当時からアーカイブの幹部を務めていたボイルド夫妻である。
夫妻に実の子はいなかった。
とりわけ病弱だったボイルド夫人は、屋敷にやってきた幼いエルザを我が子のように迎え入れた。ボイルドもまた、父親代わりのように彼女を見守った。
庭で転んだと聞けば大慌てで駆けつけ、少し熱を出しただけでも医者を呼ぼうとする。
そんな二人に囲まれて、エルザは屋敷で穏やかな幼少期を過ごした。
あの頃の屋敷には、いつもボイルド夫人の好きだった白い花が飾られていた。
だが、その人は二年前、静かにこの世を去った。
今も屋敷の窓辺には、彼女が好んだ白い花が飾られている。
そして裏庭には、小さな墓がひとつ。
エルザは惑星エイトを訪れるたび、そこへ白い花束を手向けていた。
ボイルドの傍には現在も、忠実な執事テイラーが控えている。
屋敷には彼の部下やスタッフたちもおり、日々の暮らしから仕事まで、さまざまな場面でボイルドを支えていた。
ボイルドは、生真面目で心優しい男だ。
重職に就いているにもかかわらず、人を威圧するようなところはない。むしろ、少し頼りなく見えることさえある。
困っている住民を見かければ、立場などお構いなしに声をかける。
相手が誰であろうと態度を変えない。
そんな人柄を慕い、彼のもとを訪れる住民は少なくなかった。
ただ、その裏表のなさが仇になることもある。
以前、善意につけ込もうと近づいてきた者がいた。
ボイルドは相手の言葉を疑うことなく耳を傾け、危うく騙されかけた。
だが、その裏でテイラーはすでに動いていた。
相手の身元を調べ、話の裏を取り、屋敷のスタッフたちと連携して問題を表沙汰にすることなく片づけていた。
そんな光景を、エルザは何度も目にしてきた。
人を疑うことを知らないボイルド。
その危うさを察し、黙って支えるテイラー。
そして、そんな二人の姿を知るエルザ。
ボイルドには、脆さがある。
けれど、それを欠点だとは思わない。
誰かを信じようとすることを、彼女は幼い頃から知っているからだ。
だからこそ、エルザにとってボイルドは、アーカイブの上司というだけの存在ではなかった。
父親のように見守ってくれた人。
妻を失った今も、昔と変わらぬ笑顔で迎えてくれる人。
その距離感は、あの頃から少しも変わっていなかった。




