番外編(猫の耳 1)
これも私の妄想なのだろうか。目の前に広がる光景を信じきれない私はこの現実から逃避するためか、それについて全く触れることをせず近所の店へと買い物に向かった。
私は高校生では珍しく一人暮らしをしている。その理由は簡単で、実家から遠い場所にある高校に受かってしまったのは良いものの、その学校には寮がないからである。その学校を受験したからには一人暮らしをする覚悟も多少はあったのだが、いざ体験してみると中々寂しいものであると最近気づき始めたのだ。両親は私がこうなることを予見していたのか、私が中学入学と同時に飼い始めた猫を私に預けてきたのだった。私は一人で暮らす事で精一杯であると何とか説得しようとしたのだが、私の両親は楽観的なのか、それとも大人にしか分からないことでもあるのだろうか、命を預かっているほうが己の身一つで生活するより健全であれるだろうと判断した。そんな経緯で私は一人と一匹の暮らしをし始めて、とうとう半年というところであった。
日が傾き始め、電灯が目立つようになってくるころ、スーパーに到着したのだが何か欲しいものがあって来たわけでもなかったので、一応かごを持ちつつも通り過ぎてゆく商品に手を付けることなく店内を巡っていた。ふと先ほど見た光景が頭をよぎる。そこで私は何かほかのことを考えようとしたが、間に合わなかった。
足りない物があることに気が付いた私は、食材を一人分と猫用の缶詰を一つをかごに入れ会計をする。一つずつ、あの聞きなれたバーコードを認識する音が鳴っていくたびに、私は少しずつ冷静さを取り戻し始め、やはり私が見たあれは幻だったのではないだろうかと思い直すようになってしまった。しかしそれなら友人にしてやれる面白い話ができたではないかと、少しだけあれを見たことに感謝までしてしまいそうだった。今日はたいして疲れてはいなかったのだが、友人に話す際にはあの日はなんだかとても体が重く感じられていた、といった冒頭で話し始めようかなどと考える。そんな風にしていると、この買い物で支払わなければならない金額が言い渡される。今日はたまたま小銭が多く財布に入っており、そのおかげで金額ピッタリ支払うことができた。レシートのみを受け取り、商品を袋に詰める。そうして私は帰路に就いた。時期的に日は長いはずなのだがもう月が出てしまっていた。青白いその円はたまにぼやけたり隠れたりしながら、ずっと私を見守っているようだった。
ようやく家に到着し、玄関前までゆっくりと歩いてゆく。夜の涼しく澄んだ空気が薄着をした私の腕を通り過ぎ、その空気の動きが近所の晩御飯が揚げ物であると告げていた。




