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ブラック

蘭がカウンターの中でコーヒーをたてながらお皿を4枚準備している。

フライパンに熱が入り2個ずつ卵を落とす。

カウンターでは澪と紗也が両腕に顔をうずめたまま眠っている。

紗也のスマホに晶からメッセージが入る。


晶

朝だよー

起きてるか?


紗也は眠たそうな顔をしながら返信する。


紗也

おはようございます

今起きました


晶

ノアさんどうした?


紗也はカウンターの椅子を降りてテーブル席を見に行く。

壁際の席に仰向きで眠っているノアを見る。

紗也はノアの横顔をカメラで撮りアップする。


晶

おk、みんなに送っとくよ。


澪のスマホにノアの写真が届く。


真帆

澪ちゃんまだクラン?


澪がスマホを見て返信する。


澪

はい、カウンターで寝てました。


真帆

無理させてごめんね


澪

いえ、私が望んだことですから


真帆

紗也ちゃんと仲良くやってね


澪

はい、大丈夫です


蘭がトーストを焼き始める。

「紗也さん、そろそろノアさん起こしてくれる?」

「はい。」

紗也がノアを揺さぶる。

「…ん!?……紗也さん……、あれ……クラン!?」

紗也はノアと目を合わさないように目をつむっている。

「ノアさん、おはようございます。」

「あれ……俺ここで……。」

「はい、ぐっすりでしたよ。」

「紗也さん、おはようございます。」

「蘭さんがパンを焼いてくれたので…みんなで食べましょう。」

澪が近づいてくる。

「ノアさん、おはようございます。起きれますか?」

ノアは上半身を起こしながら答える。

「澪さん、おはようございます。起きられます。」

「ここで食べます?」

「あっ、カウンターに行きます。」

澪がノアに松葉杖を渡す。

「なんか二人とも怒ってます?」

澪が横を向きながら答える。

「別に…怒ってないですよ。目が合わせられないだけです。」

「…ほんとだ…確かに…。」

ノアが立ち上がり、ゆっくりカウンターに向かう。

「蘭さん、おはようございます。」

「おはようございます。」

蘭は軽く頭を下げ、ノアからうまく視線を外す。

ノアが座ると挟むように紗也と澪も座る。

「みんなブラックは飲める?」

「私はラテがいいです。」

「私もラテをお願いします。」

「…俺は…ブラック…飲みます。」

蘭はノアの飲み物を先に出す。

「どうぞ。」

ノアは蘭がカップの持ち手を右に寄せて置いてくれたのに気づく。

「こういうのいいですね。」

「どうしたの?」

「朝は紗也さんと澪さんに起こしてもらえて、蘭さんが朝ごはん用意してくれて…。」

紗也は寝起きの髪を触り、澪は鏡を出して顔を見る。

「…。」「…。」

「ノアさん…家族は?」

「…その辺りが全然記憶になくって…、気がつけば今のアパートで一人でした。」

「私も一人だから、一緒に住む?」

紗也と澪がカウンターから身を乗り出す。

「蘭さんっ!」

「まぁ、仲良く声が被っちゃって…。」

「…そうですね、紗也さんや澪さんもみんな一緒がいいですね。」

紗也と澪がノアを挟むように座る。

「すごく嬉しかったですよ。毎朝起こしてほしいって思いましたから…。」

紗也と澪の顔が少し赤くなる。

「みんなで…か…それいいわね。」

ノアがブラックを飲む。

「にがっ!」

「砂糖とミルク入れたらいいわよ。」

蘭がミルクを用意する。

3人の前にモーニングセットが並ぶ。

「蘭さんは立ったまま食べるの?」

「この仕事してるとこんなものよ。」

「クランにずっと一人も大変ですね。」

「そうねぇ…朝6時の仕込みから夜11時までだから、ほぼ立ったままだからねぇ。」

「えっ、15時間…一人でよくやってますね。」

「たまに晶さんも手伝ってくれるから平気よ。」

「蘭さんに倒れられてもみんなが困ります。」

「心配してくれてるの?ありがとう。」

「みんなで住めて…蘭さんが倒れないように…。」

「私はこの仕事楽しいから気にしないでいいわよ。」

「…はい…。」

「澪さんは夜勤あるし、紗也さんは教育学部だっけ?中高の部活も時間外だから大変よ。」

「そうですね、私たちは交替勤務なので休みもありますけど、夜勤は長いですよ。」

「…私は…教員免許はとる予定ですけど実際に仕事できるかは…。」

「そういえば教員は採用募集が少ないって聞くわね。」

「…俺はみんなのこと全然見えてなかったですね。」

ノアがカップにミルクを入れる。

紗也と澪が同時に反応する。

「ノアさん…。」

「あら、また声が被っちゃってるわよ。」

「澪さんから…どうぞ…。」

「…ごめんね、じゃ、私から…ノアさん、みんなはノアさんにもっと見てほしいって思ってますよ。」

澪が紗也に続けと手を向ける。

「はい、私も見てほしいと思ってます。」

「そうですね、今まで自分のことでいっぱいいっぱいだったし、少しずつでもみんなのこと見ます。」

ノアが紗也の顔を見た後、澪の顔を見る。

「二人とも少し目の下に陰がありますけど、寝不足かな?」

二人が顔を外向きに反らす。

「そんなとこは見ないでください。」

「そうだ、昨日ここで寝ちゃったんですね。」

「そうですよ、だから私たちもここで寝たんです。」

「ごめんなさい。あー!銀行員さんとのデート…9時の待ち合わせだったかも…。」

澪がピクッと反応する。

「デート…。」

「そういえば昨日もそんなこと言ってましたね、まだ8時前ですよ。」

「ここから近いコンビニ前だから余裕ですね。」

「コンビニ前…。」

「みんなで一緒にデートしましょう。」

紗也と澪は何も言わずに時計を見る。

「…。」

「うーん、私はお店あるから3人で行っておいで。」

「はい、ところで蘭さん、デートって何するの?」

「…四人で決めればいいのよ。」

「…。」

紗也と澪は一気に食べ進め、席を離れトイレに入る。

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