沼
澪と晶は色メガネの影響に混乱していた。
「澪さん、何か変なことはなかった?」
「喉が詰まって背中を叩いてくれた時は、説明で聞いた主夫耐性は感じました。」
「それ以外は?」
「帰ると言った時に、自分の意思とは違う行動をしてました。」
「それ!私も口に入れようとしたのに、自分の意思と違う行動した!」
澪はテーブルのお皿を重ね、端に置く。
「…だからあの表情だったんですね、晶さんがツンデレのような行動したと思ったけど、何か違和感があったんです。」
「ごめん、ちょっと澪さんに…、今朝あった二人に嫉妬したから少しでも距離を縮めたくて…。」
澪はさっきまでノアが座っていたところに移動し、ノアの飲み物と自分の飲み物を取り換える。
「私にも嫉妬?なんで?」
「澪さんが隣に座ったのに、ノアさんがダメージを受けてなかったことが…。」
「それって女として意識されなかったってこと?」
「ん!?」
「それって良いの?」
「…良いのと言われると…確かに距離は近いけど…女として意識されない…か。」
「体の距離は心の距離とは違うんだよ。看護って仕事は…。」
澪が言葉に詰まる。
「そうですね、看護や介護なら…、澪さん?」
澪が鞄からハンカチを出して涙を拭う。
「…私も…どうしたら…良いの?」
「…あなたには仕事柄真逆になるんですね。」
澪はしばらく黙って気持ちを落ち着ける。
「…看護の仕事としては、ノアさんに揺さぶられた時点で駄目なんだけどね。」
「…あの人が異質だからじゃないですか?私も一人では頭が回りきらないので、一緒に考えませんか?」
「さっき言ってた後の二人もってこと?」
「そうです、揺さぶられたこの気持ちの向かう先は同じです。」
「そんな関係だと…嫉妬でギスギスしちゃいそうです。」
「実は…誰も一歩も進めてなくて、ノアさんにとっては友達なんです。」
「だから距離を縮めたかったんですね。」
「色気がダメージって酷だと思いませんか?その上で記憶が飛ぶんですよ。」
「…好き…って言うことすらかなわない。」
澪が言葉が選べず声が小さくなる。
「それは一発で落ちます。」
「落ち…る?」
「あっ、ごめんなさい、好きな相手を落とすことじゃなくて、気を失うことです。ネットゲームではプレイを止めることなんですけど…。」
「そしたら記憶も無くなる…か。」
「もし耐えたとしても1だから自分で複唱したら落ちます。」
「…どこかに道筋でもあれば…。」
「私はレベルアップに期待してます。HPが増えれば…ダメージ量がわかんないんですけどね。」
「接近できる回数が増やせる、さっきの食べさす行為もそれを調べるため?」
「…いえ、…感情が抑えきれませんでした。…70って言ったから行けるかもって思いましたよ。」
澪が天井を見て話す。
「何もかもが手探り…恋が…感情を抑えることも難しい。」
晶も天井を見上げる。
「いっそ誰か本命でもいれば諦めもつくかも知れないけど…。」
澪は天井を見たまま。
「振られてもいないし、告白したわけでもないし、踏ん切りがつけられない。」
晶も天井を見たまま。
「沼ってやつです。」
二人が沼にどっぷりと浸かり上の光を見上げる自分を想像する。
晶が手を天井に向けて突き上げる。
「誰かが引っ張り上げてくれるとすれば、ノアさんでいてほしいけど…。」
晶も澪もノアが自分の手を掴み、引っ張り上げてくれる姿を想像する。
「晶さん、私は…もう抜けられないみたい。」
「手を掴んでくれるとは限らないですよ。」
澪は晶の方を向く。
「他の選択肢って無いよ。どうして良いかもわからないし。」
晶が手を下ろし澪を見て笑う。
「私はゲームのように楽しむことにしました。」
「ゲームなの?」
「ノアさんのHPとスキルってゲームの中にいるみたいだし、自分をプレイヤーって思ってると楽しめます。それにみんなでする攻略ゲームは好きですから。」
「その方がギスギスしにくいし、誰かに取られても悔しいけど、なんとなく諦めもつくかもね。」
「むしろ応援できるんじゃないかなぁ、同じ苦労を重ねた分だけ、共感しあえる気がします。」
「じゃあ、最後は譲ってくれる?」
澪は冗談とわかる笑顔になる。
「んー、私が決めて良いならそこは私自身を選びますよ。」
「私も自分を選ぶだろうね。」
二人が笑顔で会話する。
「でも決めるのはノアさんだからね。」
「まだスタートなら他の二人にも会ってみたいな。」
「情報の共有は必要ですよ。会って間もないけど分かり合えると思います。」
澪は胸のあたりを抑える。
「今からドキドキしてきた。」
「明日の夜でもどうですか?」
「はい、行けます。」
「ではクランで夜9時とか?」
「わかりました。あっ…ノアさんに連絡ってできますか?」
「できますよ。」
「明後日は一週間後の受診日だから、忘れないように伝えてほしいの。」
「わかりました。今入れておきますね。」
晶はスマホを出してノアにメッセージを入れる。
家に着いたノアは肩を落としベッドに腰かける。
スマホを取り出し愛助にメッセージを入れる。
ノア
友達を傷つけてしまいました
ししょーならそんな時はどうしてるんですか?
愛助
落ち込んでるのか?
そういう時はだな、ここに行ってラブエナジーをもらうんだよ
メイド喫茶 ダイナマイト・エンジェル
元気出るから行ってみろ
みるくちゃんがいたら愛助が会いたがってたと伝えてくれ
ノア
ししょーは何でも知っててやっぱりすごいですね
愛助
いつでも楽しくだよ
ノアに晶からメッセージが入る。
晶
澪さんが明後日の受診を忘れないでねって言ってるよ
ノア
はい、ありがとうございます。
今日はごめんなさい、明日はラブエナジーもらって元気になってきます




