困惑
「うぅー。」
体を伸ばすと気持ち良い、筋肉痛も少しましになっていた。
何をするわけでもなく外に出る。
松葉杖は1本でも歩けるようになった。
アパートの敷地を出ると、クランからの帰りが歩きやすかったのを思い出す。
自然と足がクランに向く。
日射しも風も心地良い、行く手を阻む障害物も特にない。
「…なんか面白くない。」
一日がのんびりだと、こんなにも楽しくないとは思ってもいなかった。
あっさりクランの前に着く。
「CLOSED…、へへへ、そんなもんでしょ。」
クランの前でスマホを操作していると横から声がかかる。
「佐藤ノアさんでしたよね。」
顔を見てもピンと来ない女性が立っていた。HP-1(残り69)
「…ん?…んー、ん?」
「自己紹介がいるね、黒崎蘭です。クランの店主です。」
「おぉー、着ているものが違うとわかりませんでした。」誤爆HP-1(残り68)
「今日はお休みなんですよ。朝ごはんでも食べに来てくれた?」
「はい、そんな感じです。」
「私も今からだから入って。」
「お休みでは?」
「店は開けないよ、今日はお掃除するから。さぁ入って。」
蘭はドアを開けてノアを店の中に入れる。
蘭は真っ暗な店の中を奥へ進み暗闇の中に消えていく。
立っているとカウンターの照明がつき、蘭がてきぱきと動いている。
「こっちに来て座って。」
ノアはカウンターの前に立つ。
一段下がったカウンター内では蘭がサイフォンに火をつける。
「コーヒーとトーストとハムエッグ…他に何かほしい?」
ノアは椅子に座り、足置きがギプスでも丁度いい高さと幅が気に入る。
足元を気にして、蘭の言葉が耳に入ってこなかった。
「蘭さん!俺には丁度いいです。」
お尻の位置を合わせてカウンターに肘を付くと、蘭が啞然とした顔をしている。
「冗談が上手いわね、でも嬉しいわ。」
「冗談ではないですよ。」
「そう、ありがとう。」
蘭は聞き流し、サイフォンをかき混ぜる。
コーヒーを二つカウンターに置くとパンが焼きあがる。
フライパンからハムエッグを皿に移しケチャップをかける、パンにバターを塗り二つ同時にカウンターに置く。
「どうぞ、食べて。」
HP1回復(残り69)
もう1セットをカウンターに置き、蘭はカウンターの横から回ってくる。
隣に座りパンを一口かじる。
「ありきたりでごめんね。」
「いえ、熱々で美味しいです。料理はハートですね。」
二人はコーヒーを飲む。
「怪我してるのにわざわざ来てくれたんだもんね。」
「休みとは知らずにすいません。」
「不定期だから、知らなくて当然よ。今日はお掃除の日なのよ。」
二人が食べ終わり、蘭はカウンターの中で洗い物を始める。
「おいくらですか?」
「いいよ、二人で食事も久しぶりだし。お・ま・け。」HP-1(残り68)
CLOSEDになっているはずのドアが開き、外の光が壁の一部を明るくする。
二人はドアの方を見るが、人影しかわからなかった。
ドアが閉まり近づいてくる人影にようやく照明があたる。
「ノアさん、連絡したのに返信ないから来ちゃった。」
「えっ、気づいてなかったです、お仕事は?」
「今日は休みだよ、…蘭さん?」
晶はノアの奥にいる蘭を見る。
カウンターの中から蘭が洗い物をしながら話す。
「表で立ってるノアさんがいたから一緒に朝食を食べただけよ。」
「でも、休みなんでしょ。」
「その足でわざわざ来てくれたのに帰せなかっただけよ。」
晶はカウンターに座ると、ノアのコーヒーカップの向こうにもう一つあるのが見える。
「ふーん、こっちに座って並んで食べてたのぉ!?」
「今日は休みだからね。」
ノアは二人の探りあうような会話が理解できずにいた。
「二人って昔からのお知り合いなんですか?」
晶がカウンターの蘭に向かって話す。
「ここができてからの付き合いだよね。」
「そうね、晶さんは最初の常連さんです。」
またドアが開き、人が入ってくる。
「こんにちは、清掃代行サービスです。」
ノアには聞き覚えのある声だった。
「ん?」
蘭がカウンターから出てくる。
「今日もよろしくね。」
真帆がカウンターから出てくる。
「今日はよろしくね。」
真帆がカウンターまで来て答える。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
真帆がカウンターに座る晶とノアを見る。
「あれ?ノア?何してんの?」
「朝食を食べに来たら休みだったけど、蘭さんにご馳走になりました。」
「お連れさん?」
晶はノアのことを呼び捨てにした真帆に構え、椅子を降りる。
ノアが晶が喋る前に言ってしまう。
「わた…。」「友達の晶さんです。」
晶はノアの顔を見て唖然として言葉がでなくなる。
「真帆さんはどうしてここに?」
「あぁ、仕事のオファーがあったからだよ。」
晶は少しでも真帆を知ろうとする。
「お仕事は清掃代行なんですか?」
「今日は特別で、普段はハウスキーパーしてるよ。」
蘭が店の中の全ての照明をつける。
「真帆さん、どっから始める?」
真帆は蘭と仕事の話を始める。
晶は真帆と蘭に向かって話す。
「私達は邪魔になりそうだし、もう出るね。」
ノアはコーヒーを飲み干し、椅子を降りる。
「蘭さん、ご馳走様でした。真帆さん、またねぇ。」
蘭は優しく笑顔で手を振る。
真帆は振り返ることなく、手を上げる。
外では一人の女性がドアの前に立っていた。
「あれー?今日は休みなんだー。」
ドアを開けたノアに女性が気づく。
晶はノアの後ろをついてドアに向かい、ノアが出た所で振り返る。
「お邪魔しましたー。」
外では先に出たノアと女性が話を始めていた。




