晶の理解
コップの外についた霜がコップをつたい、コースターの上にのる。
「ノアさんは記憶を無くしたくないって言ったんだよね。あなたが傷つけてそうなってしまうことを、本人は望んでないんじゃないの?」
「…うん…わかるけど…。」
「ノアさんが私たちに話したのは、迷惑をかけたくない、傷つけたくない、そう言ってるけど、紗也ちゃんは助けて欲しいってとったんじゃない?」
下を向く紗也の目は、涙がこぼれそうになっている。
「…。」
「でも感情が先にでちゃった、気持ちを抑えられない時は誰にでもあるでしょ。」
テーブルに一滴の涙が落ちる。
「美咲さんあなたには、ノアさんが打ち明けづらそうに見えなかった?話を聞いてどう感じた?」
「……あぁー、わかったぁ、わかったよ。別に紗也ちゃんもノアさんも傷つけたい訳じゃないし、あなたたちがどこまで進展しているのか興味があっただけだし。」
晶がにっこり笑う。
「よかった。」
「…でも、何を協力するの?結局はライバルじゃないの?」
「…そこはねぇ、…ノープラン!」
美咲がストローに口をつけようとしたが笑ってしまう。
「ぷっ、そこまで理解して無策って…、確かに…どう攻略するかは難しいよね。」
「だから知恵を出しあう仲間が、頼りになるかもなんだよね。」
晶がストローに口をつけ、飲む。
美咲は首を傾ける。
「それってライバルが増えることにもなるんじゃ…!?」
「…それ…勝手に増えてく…ノアさんって人を惹きつける所あるし…。」
「あぁ、あぁー、わかるよそれ、まっすぐだからじゃないの!?…ん!?」
「どうかした?」
「女性を知りたいって言うから…友達から入れば良いって煽っちゃった。」
「…言った限りは仕方ないけど…片っ端から友達になりましょうって言わないでしょ。」
「まっすぐだから…ちょっと不安。」
「そういえばスマホ登録した人がもう1人いるんだよね、…たしか…柿崎…澪だったかなぁ…あぁー、紗也ちゃんの名前と電話番号書いたメモと同じ紙だった!」
紗也が目を拭き、顔をゆっくりあげる。
「だとすると入院の時にいた看護師さんかもしれません。」
晶は少し考える。
「…距離感はとっても近い…よね。…ダメージ与えまくる人か、…仕事柄包容力がありそうだよね。」
美咲はまた首を傾ける。
「危険人物ってこと?」
「うーん、どっちかと言うと強敵になる可能性が高い人かぁ。」
紗也と美咲の目が大きく開く。
「…そうだね。」「…そうですね。」
晶が二人を見て笑う。
「ぷっ、かぶってたよ…、意外と気があうんじゃない!?」
紗也と美咲が顔をあわし、互いに恥ずかしそうにする。
「ほぉら、そういうとこ。」
晶が笑顔で突っ込む。
「なんかいいパーティーになりそう。」
紗也はストローに口をつけ、美咲は晶を見返す。
「…もう入ってるんだ。」
「あれ!?違った?」
美咲がそっぽを向く。
「いいえ、私はプレイヤーですっ!」
「よろしくね。」「よろしくお願いします。」
晶は紗也に目を合わせ微笑む。紗也は晶の目が美咲を懐柔目的だったと察する。
美咲がゆっくり視線を晶に戻すと、晶がにんまり笑う。
「今日はほんとは美咲さんを引き入れて終わるつもり…だったんだけどぉ。なんでノアさんが『悪あがき』が使用済みだったのかを、詳しく聞かせてもらおうかな。」
美咲には晶の顔が恐ろしく見えた。
「…その『悪あがき』が何なのか、私は知らないもん。」
「じゃぁ、情報共有の意味も含めて説明するよ。私が理解しているのは…。」
紗也は手帳を出してメモをとる。
・HPはノアさんだけが見える。頭の上に出ていて鏡を使わないと見えない。
・ダメージは1とは限らない。
・自分でも削れる。
・触れることもダメージになる。
・昨日時点でHPのマックスは60。
「えっ?自分でも削れるの?それって自滅?」
「まぁ自滅だけど…、防衛本能かもよ!?…ごめん、今のは想像だから確定してない。」
「ふーん、防衛本能の線…ないこともないよね。で、HP60って高いの?低いの?」
「かなり低いんだと思うよ。昨日は…紗也ちゃん…何て言ってたかな?」
紗也は書いていた手が止まる。
「あっ、えっ!?…人に見せられないものを見せる…。って言って5減ったとかですか?」
「そうそれ、一発で5だった。しかも自分で…。」
美咲が笑い出す。
「あははは、ノアさん面白い。」
つられて紗也も晶も笑い出す。
「ふっ、ふふふ。」「ふふふ。そうだよね。普通に見たら面白いよね。」
美咲は笑いが止められない。
「あは、あは、…でも…自滅は厄介だね。」
「その後の方が接し方を考えないといけないのよ。他には…。」
紗也はメモをとる。
・HP0だと意識を失って、記憶が10分ほど無くなり、10分で意識は戻るがHPは1しかない。
・HPは10分で1回復する。
美咲は意識せず口にする。
「なるほど、それでか…。」
「ん!?…それでスキルってのが…。」
・スキル
・女性耐性:女性を意識すると触れなくてもダメージを受けHPが減る。
・主夫耐性:弱った人を助ける。
・悪あがき:一日一回だけ0になるダメージを受けても1で耐える。24時にリセットされる。
「ここまでがわかっていること。で、わかってないのが美咲さんがさっき言った『それでか…』って今日のこと。」
「え?そんなこと言った?」
晶の口元は笑っているが目は笑ってなかった。
「言ったよ!今日のことを教えてくれる?」
晶は飲み物を口に含む、コップにはまだ半分残っていた。




