乙女ゲームと育成ゲーム
晶がクランに入る。
店の中を見渡すとカウンターに女性が二人、カウンターに近づく。
女性二人が振り返り、晶を見る、歩み寄る足がゆっくりになる。
カウンターに両手をつき、中にいる制服女性に声をかける。
「昨日の女の子、来てない?」
制服女性は首を横に振る。
「そう…。」
晶は昨日と同じ所に座り、大きく息を吐く。
店の扉が開く、晶は立ち上がり扉を体に向ける。
入って来たのはスーツ姿の男性二人、そのままカウンターに向かう。
晶は二人を目で追いかける。
また扉が開き紗也が入ってくる。
「すいません、お待たせしました。」
「今来たところ、それよりその目…。」
美咲が入ってくる。
「はぁはぁ、晶さんと紗也さんでいいのかな?」
晶が紗也の背中に手を添え座らせる。
「そうです。あなたは?」
美咲がテーブルの横に立つ。
「北原美咲です。よろしくね。座っていい?」
「どうぞ。こちらも話したいことがあったので…。」
美咲と晶が座る。晶と紗也は昨日と同じ位置、ノアが座っていた壁側に美咲が座った。
しばらくの沈黙、妙な緊張感が紗也と美咲にあるのを晶が感じる。
沈黙を崩すように制服女性がメニューと水を持ってくる。
晶はメニューを見ずに注文する。
「私はアイスラテ。紗也ちゃんは?」
うつむきながら答える紗也。
「同じ物を下さい。」
美咲はテーブルに肘をつく。
「私はいつもの。」
「!」
制服女性はメニューを持ち戻っていく。
晶が美咲に顔を向ける。
「ここには良く来るんですか?」
美咲はテーブルから肘をおろす。
「たまにね、仕事を時々ここでしてるから…。」
紗也がモジモジと会話に入ってくる。
「あっ、…私、…ノアさんにキス…しちゃいました。」
紗也の顔は赤くなり、今にも泣き出しそうな表情をしている。
美咲の容赦ない一言が紗也を追い詰める。
「ごめん、最後良く聞き取れなかった、しちゃいました?されちゃいました?」
紗也は美咲の顔を見て答える。
「しました!」
紗也は後ろめたさから晶の顔が見れない。
美咲は目を見開いて言う紗也の宣戦布告だととる。
一瞬の沈黙の後に晶が紗也の背中に手を回す。
「それでその目なんだね…。大丈夫?」
紗也はうつ向く。
「大丈夫です…、私がずるかったんです。」
晶はうつむいた紗也を真横から覗き込む。
「そんなことないよ。あなたが気づいてなかっただけで、私は最初っから気づいてたよ。傍にいたいってそういうことだから。」
美咲が喋りたくてウズウズしている。
「…だから、あの…馬乗りか?」
「違います!あれは湿布薬を貼っていただけです。」
紗也は再びうつ向く。そこに容赦ない美咲のダメおしが入る。
「あぁ、気を失ってる感じだったもんな。一撃喰らわしたんだ!?」
晶がすぐに反応する。
「ん?…美咲さん、ノアさんの特異体質のこと聞いたの?」
「女性に弱いって話は聞いたよ。気を失って記憶を無くすっていうのも。」
「スキルとレベルアップのことは?」
「そんなことは言ってなかった気がするけど…、意識と記憶はなくしたくない、とは言ってたね。後、…二人は優しいってね。」
今の紗也に一番刺さる無情な言葉に、晶は冷静な判断を見せる。
「ねぇ、今日一日外に出てないノアさんが、何で気を失うの?」
スキルを理解している紗也にもピンとくる。
「…!?」
晶は美咲に問いかける。
「美咲さん、もしかしてノアさんに迫った?」
「…何で私が!?」
「ノアさんには『悪あがき』って冗談じみたスキルがあるんだけど、知らないんだよね?」
「何それ!?」
「ちょっと熱くなってるようだから飲み物でも飲んで。」
晶は飲み物を運ぼうと待っていた制服女性に合図する。
テーブルにそれぞれの飲み物が並ぶ。
「いつものってアイスミルクなんだ。」
「…そうだよ、…煮詰まるとスッキリ飲めて冴えるんだよ。」
三人は揃ってストローに口をつける。
晶は美咲を見て優しく聞く。
「ちょっとクールダウンできた?」
「まぁね。少しだけど…。」
「私はあなたのことを知りたいだけなの。」
美咲は構えたせいで少し肩すかしをくらう。
「…ん?どういうこと?」
「あなたがノアさんをどう見ているのか、私はノアさんが好き。あなたは?」
美咲は直球で飛んでくる問いにうろたえる。
「なっ、なんでそんなこと聞くの?」
晶は美咲の目を見て逃がさない。
「…はっきりわからないよ、まだ会ってそんなに経ってないし…。」
「でも気になる?」
「…そうだよ。二人がプレイヤーって聞いたから、乙女ゲームの対象って思ってるけど!?」
晶は表情を崩さない。
「そうだね、半分はそうなんだよ。」
「…後は何があるって言うの?ノアさんを取り合ってるだけでしょ。」
「また熱くなるから、飲んで。」
美咲はストローの先を向けられ、口をつける。
「それだと私たちはただのライバル、でもね、それだけだと私たちは進めないの。」
「なんでよ、お互い好きにしたらいいんじゃないの?」
「それだとノアさんがずっと気を失って記憶を無くすの。」
「…そうなの!?」
「あなたはノアさんがどのぐらい女性に迫られると弱いか知ってる?」
美咲の顔が下を向く。
「…知らない。」
「HPをどうやって見るか聞いた?」
「…聞いてない。」
「私たちは攻めたいけど守らないといけないの。だから私はあなたもその一人って受け取ってる。」
「…。」
美咲の肩が質問毎に下がっていく。
「お互い好きにしたらって言ったよね?それって好意があるって言ってる。」
「それは…、友達から…。」
「…から…何?」
美咲が顔をあげる。
「まだ興味だって!」
「それでいいよ、ノアさんにダメージを与え続けないならね。できる?」
また顔が下を向く。
「…わからないよ。」
「でしょ、だから同じ立ち位置でいて欲しいの。育成ゲームとして。」
「!?」
「意味がわからないよね、ノアさんはレベルアップするんだって、理由はわからないから、まだはっきりと言えないけど。HPが増えてるみたい。」
「それが半分って言ったこと?」
「そうだよ、ライバルであり協力する。あなたの為でもあるの。」
「記憶を無くすからってことでいいのかな!?」
「そうだよ、傷ついても前に進めないの。」
下を向いて聞いてる紗也の体が一瞬動く。
「例え友達って言っても、あなた一人が独断で行動されるのはこっちも困るの。」
飲み物の氷が音を立てて崩れる。




