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救いの手、再び

ノアは二日間の歩きすぎによる全身筋肉痛を起こしていた。

「ウゥー、カラダガ…イタイ…。」

意識はしてないし、口まわりの筋肉に痛みはないが、なぜかロボットのような発声になる。

ポケットの中に入れていたスマホを取り出す。

愛助からのメールが来ていた。


俺が時々使う性感マッサージの店だ。『密指サロン・万華鏡」

ちょっとお高いけど、心も体もリフレッシュ出来る抜群な癒しのスポットだ。

今月はもうお金もないから連れていけんが、気が向いたら行ってみろ。


「ウゥー、マッサージはしてほしいけど、トイレもキツイから出れないよ。」

ノアは対話アプリを開いてみる。


昨日は良く寝れた?

ノアさん、骨折してるんだからあんまり出歩かないようにね

私は今から仕事行ってくるからまたね


紗也

心は晴れやかで朝からスッキリ出来ました

私は午後から授業なので、ちょっと靴屋覗いてから行きます

ノアさん、困ったことあったら言ってくださいね。


「俺も打てるかな。」


ノア

ノア体筋肉痛う動けない出ない。


「おぉー出来たー。あれ!?名前が打たなくても出てる。」


ノア

困ったことないけど動けないn

しごともじゅうぎょうも頑張ろう。


紗也

ノアさん、夕方に湿布薬持って行くので、今日はゆっくり安静にしててください。


ノア

アリがとう御座います。


ノアは大の字になり、手からスマホが床に落ちる。

「イテテ、何も出来ねぇ…。」


ノアは体を起こし、ベッドに座る。

床にレシートが2枚落ちているのが見える。

「はぁーっ、うぉー、しゃぁ。」

レシートを1枚取り袋に入れる。

「はぁはぁ、ぬおぉー、うおっしゃー。」

もう1枚のレシートを袋に入れる。

「はぁはぁ、キツイ。」

部屋の中を片付け、ゴミ袋を持って外に出る。

ゴミ袋を右手に持ち、左手で松葉杖を使う。

「松葉杖って1本でも動けるし、ペットボトルも靴の袋も1本だったらもっと楽だったんだ。」

収集場所には周りのアパートや家から出されたゴミが、山積みになっていた。

同じように袋を置き、体の向きを変えようすると杖が引っかかり袋の山に後ろ向きに倒れる。

お尻の下にはかろうじて袋があるが、中身が少なく昨日のソファーより低い。

「あぁー!やってしまった!」

どの袋も柔らかく、背もたれや手摺りのような硬さがない、どれも体を起こすには安定しない。

「へへへへっ、出れん…。」

ちょっとだけもがくが横の袋が崩れてくる。

「無理だ、埋もれる。」

諦めたように空を見る、雲の流れが速い。

「今日もいい天気なのに…、はぁ…。」

しばらく動かずにボーっとする、動かなければビニールの音も気にならない。

それ以上にちょうどいい弾力と、自分の体温が維持される温かさがあった。

「ゴミだけど包まれるって結構幸せかも…。」

空を気持ちよく見ていると、袋が顔の上に落ちてくる。

「うぁっ!」

急に真っ暗になる。

直ぐに袋がなくなり空が見える。

「ノアさん!?」

頭を持ち上げると、退院の後に出会った女性が立っていた。

「えーっと、北原美咲さんだよね。」

「名前覚えてくれてたんだ。やっぱり不思議な人だね。そんな所にいるって酔っぱらってる?」

「…酔っぱらいって、ゴミの中に住んでるんですか?」

「ぷっ、お酒飲んだことないの?」

「はいっ!ないです。」

「…、それで…、何でそんな所にいるの?」

「ここ結構居心地いいですよ。」

「そうなの!?でももうじき収集車来るよ。」

「えっ!?…起こしてもらっていいですか?」

「良いよ。」

ノアは埋もれた松葉杖を探し、持ち手側を美咲に向ける。

美咲は両手で掴みおもいっきり引くが、全然上がらない。

杖の中間部分を持ち引っ張り直すと、ノアの体が少し浮く。

「もう少しです。」

美咲はそのもう少しが引き上げられず、重さに負けノアの上に倒れ込む。

「うわっ。」

二人はゴミの中で密着する。HP-20(残り40)

「美咲さん、大丈夫?起きれますか?」

「大丈夫だけどちょっと待ってね、手のつく場所探してるんだけど…。」

ノアには顔が良く見えないが、美咲は照れていた。

美咲の両手は周りの袋を抑えようともがくが、どの袋も柔らかく潰してしまう。

捕まえてみるが、袋が近くに来るだけで体の向きすら変わらない。

ノアにはもがくと袋の擦れる音で聞こえないが、美咲の心拍数が上がっていた。

「ノアさん…手のつく場所がないし…全然起きれない。」継続ダメージHP-20(残り20)

「美咲さん、俺の体に手をついてみてはどうですか?」誤爆HP-5(残り15)

美咲はノアの腹筋に手をついて、起きようとするが足が袋の上にあり、踏ん張れない。

ノアは筋肉痛が我慢できず声が出る。

「イタタッ、イテッ。」

美咲は骨折した足が痛いと思った。

「ごめんっ!」

腹筋に置いた手の力を緩め、元の姿勢に戻る。HP-20(悪あがき発動!残り1)

「美咲さん、ゆっくり足の方にズレて行ってみたらどうでしょう?」

「でも、骨折した足の上にいるんだけど…。」

美咲の足は骨折した足を挟む形に開いていた。

「ギプスは硬いから大丈夫だと思いますよ、美咲さんだけでも脱出を…。俺は収集車の人の助けを待ちます。」

「ごめんっ、行ってみるね。」

美咲の手がノアの体のいろんな所をさわる。HP-5(残り0)

………プツン。

ノアの意識がなくなって数分、美咲は必死にもがきながら出る。

「はぁはぁはぁ、やっと出れたぁ。」

少し呼吸を整え、体の周りが汚れてないか見る。

「えぇー、何かついてるし…。ノアさん…、ノアさん…。」

ノアは袋に埋もれて見えない。

美咲は上に乗った袋を取り除く。

「ノアさーん。」

ノアは意識がなく返事がない。ただの屍のようだ。

「収集車の人が来るまで体力温存ってことだね。」

「私はこのままいてもなぁ…、収集車の人が来たら着替えてくるね。」

ゴミ袋の上にあったノアの腕がずり落ち、腕が隠れる。

「動くより返事してよー、動くとまた崩れてきちゃうしー。」

しばらく美咲は腰に手を置き、道の向こうにある収集場所を見ていた。

ゴミ収集車が脇道から曲がってきて一つ前の所に停車する。

収集車から人が降りて、ゴミを次々と入れていく。

車に付けられたボタンを押して、ゴミが収集車の中に押し込まれていく。

「ノアさん、もうじき来るよー。」

運転手が乗り込み、収集車はそのまま反対方向に動き出す。

「えー!?あっち行くのー!?」

車は交差点を右に曲がり、バックで出てくる。

「ん!?向きかえた!キター!!」

「ノアさん、助けが来たよ!!」

収集車はゴミの山を通過した所で止まる。

HP1回復(残り1)

運転手が降りてきて美咲に声をかける。

「ん…酔っぱらいか?」

少し細身で口ヒゲ、緑の帽子にオーバーオール。見た目とは違い優しそうな声だった。

美咲が説明する。

「違うんです。体がはまって起き上がれなくて…。引っ張ってもらえますか?」

「あぁー、骨折してるのか!?それは立てんねぇわ。手を出せるか?」

ノアは右手を広げ差し出す、運転手はその手をがっちり掴み軽々と引き上げる。

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすいません。」

「たいした事ないよ。」

運転手は大きな手袋をはめ親指を立てる。

美咲とノアは仕事の邪魔にならないように離れる。

「ノアさん、着替えてからそっち行っていい?」

「はい!」

「じゃぁーまた後でね。」

二人はそれぞれの家に帰る。

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