プレイヤーの覚悟
ノアの手を握りしめる紗也、通話の切れたスマホの待ち受け画面に女性の写真があった。
スマホを持ち画面を見る。
「この人がさっきの電話の人?」
10分経たないうちに晶がやってくる。
紗也は待ち受け画面の人と同じだったのですぐにわかる。
「ノアさんの反応はまだない?」
「はい、私は大槻紗也って言います、ノアさんを骨折させたのは私です。」
「私は江崎晶です。ノアさんの彼女…候補です。」
「そうなんですね、彼女さんで晩御飯に誘ったのを怒られると思いました。」
「あなたがノアさんといるのは骨折させたことの罪悪感?それとも他に理由はある?」
「どういう意味でしょうか?」
「あなたがノアさんに好意があるのかを聞いてるつもり、好意はあるの?ないなら後は私に任せて帰っていいよ。」
「罪悪感だけではありません。好意って言われると正直わかりません。ただ帰れません。」
「あなたがノアさんのことを、どれだけ知っているかわからないけど、目が覚めたノアさんは晩御飯をさそったことを覚えてないよ。それでも耐えれる?」
「…そんなこと…あると思えません。」
「私はあなたをいじめるつもりはないよ、あなたがここから先に踏み込む意思と覚悟がないなら、入って来ないでほしいの。」
「ノアさんの発作の持病のことですか?」
「…持病…まぁそうかな。」
「ノアさんの意思はどうなんですか?」
「あなたが聞きたいと言うなら、自分から言うと思うよ。だからあなたの覚悟しだい。私は出来ることならライバルは増やしたくないの。だからノアさんを知る人を増やしてほしくないの。」
「そろそろ目が覚めるから、言っとくけど興味だけで聞く内容では無いよ。それと傷つくのはあなただけ、だから耐えれないなら帰っていいよ。」
ノアの指が動く。
「くれぐれも触らないでね。ノアさん、ノアさん。」
晶がノアから少し距離を置いたところから声をかける。
紗也はソファーから立ち、晶の横に並ぶ。
「ノアさん、おはよー。」
ノアが目を開け、周りを見る。
HP1回復(残り1)
「あれ、晶さん!?もしかして落ちてたんですか?」
「そうだね、どこまで覚えてる?」
「紗也さんが床に膝をついたので、隣に座ってもらうとこまでです。」
紗也は両手で口をふさぎ声を殺す。
「何で?」
紗也の目から涙が溢れ出てくる。
晶の言葉を信じていなかったわけではなかったが、記憶がない事実がそれ以上に大きく、『耐えられる?』と言った晶に負けた気がした。
「紗也さん、俺が記憶無くして傷つけているならごめんなさい。」
口から手を離し冷静に対応する。
「いえ、そんなことありません、大丈夫です。」
紗也の意思と覚悟が込められた『大丈夫』は晶に向けられていた。
晶が紗也の顔を見て、意思と覚悟を受け取り喋り出す。
「ちょっとびっくりしただけだよね、三人で晩御飯食べよっか!?」
「はい、食べ…また、落ちるかもしれないです。」
晶がノアを見て答える。
「私がいるから落ちても大丈夫!理解はしているつもりだよ。家に帰る方がいい?」
「三人で食べたいです…ただ迷惑かけそうで…。」
「私はプレイヤーだから、落ちさせないようにがんばるっ!ノアさんの行きたいところ行こうよ。」
「何もわからないので、昨日の店とか食べ物もありますか?」
「あの店の名前はクランね、オムライスとか焼きそばがおいしいよ。」
「紗也さんはそこでいい?」
「…は、はい。」
「ノアさん、ダメージの関係上、手は貸せないけど立てる?」
「はい!ちょっと不格好になるけど、手は借りません。」
晶は紗也の腕を掴みノアと距離を広げる。
ノアが一生懸命に立ち上がろうとする。
晶が前に出ようとすると晶の掴む手に力が入る。
「行かないでっ!さっき覚悟を決めたんでしょ!!」
「でも…あんなに苦労してるのに…!?」
「あなたが触れるとノアさんはダメージを受けるの。また失神させたい?記憶無くすよ!」
紗也は晶の言葉に込められた覚悟の差を受け止める。
「何をでそこまで…。」
「私はノアさんが好きなだけ、どうにか振り向かせたいから。でもあの人を守りながら攻めないと無理なの。」
「意味が分かりません!」
「ノアさんがクランを選んだ時点で自分で言うと思うよ、その時あなたは私と同じになる、ノアさんの意思だとね。」
「そこに行けば聞くことになるんですね。」
「そう、だから聞かないならここで帰ってもいいの。」
「あなたほどではないですけど、覚悟はしました。私はあの人を守りたい。あの手の安心感を私が返したい。」
ノアがようやく立ち上がる。
晶が紗也を見る。
「あなたの好きとはちょっと違うけど、ノアさんは簡単では無いよ。」
紗也も晶を見る。
「もおうどんなことでも受けて見せます!」
ノアは松葉杖を取り、二人に近づく。
「あのぉー、靴の袋を手に持たせてほしいのだけどいいかなぁ?」
紗也がノアの向こう側に見える袋を見て話そうとするのを、晶が割って入る。
「私たちで持つから、ノアさんは入口まで歩いて。」
「はい。」
晶は紗也の腕を引き、二人で袋を取りに行く。
「ノアさんに優しい言葉をかけないでっ!あなたが守りたいって言ったのが本気なら、喋りかけずに黙ってついてきて。」
晶は袋を持ち上げ、紗也に持たせる。
晶はノアの三歩後ろをついて行く、紗也は晶の後ろに続く。
館内は人が減って歩きやすくなっていた。
入口に向かう最中、晶はタクシーを手配する。
HP1回復(残り3)
5分ほどでクランの前につき、ノアはポケットからお金を出して払う。
「ノアさん、ごめんね、ありがとう。」
晶は感情のこもらないようにさらっと言う。
三人は静かに店に入る。




