直接ダメージ
ノアは思考の奥にいた。
暗闇の中で光る人と向き合う。
「目覚めれば君はレベル6だ、HPは60とスキルに悪あがきが追加された。」
「悪あがき?」
「悪あがきはどんなダメージもHP1で一日一度だけ耐えることが出来る。」
「一日一度……勘違いも妄想もできるならそれでOKです。」
「0時になればリセットされる。」
「23時59分に妄想で落ちずに、0時1分の妄想でも落ちない!さいこーです。」
「…自動発動に甘えず精進することだ。」
光の人は消え去り意識が切れる。
目が覚め、体を起こす。
テーブルを見ると、スマホとメモとプリンの入れ物が置かれていた。
ベッドに座り、メモを見る。
「晶さんの字は丸いんだ。」
スマホを見ると晶からメッセージが入っている。
「私が一番好きだからね。」
ノアはプリンの入れ物が二つ重なっているのを見る。
「晶さんはプリンが一番好きだったんだな。女性の好きな物を知るって大事だよねぇ。」
ちょっと近くに寄れた気がして喜ぶ。
風呂ミッション、鍵ミッションを難なくこなす。
「靴がボロボロだし、今日は靴を買いに行こうかな。」
アパートの敷地を出る所で止まる。
ポケットのスマホを出して靴屋と入力すると、大型ショッピングモールが表示される。
行き方も見る。
「なるほど、大通りを昨日とは逆方向に行けばいいんだ。」
脇道をすんなりクリアーする。
「松葉杖に結構慣れた気がするぞ。」
大通りの入口に立ち、昨日とは逆方向に目をやる。
建物側に置かれた自転車は少ない、電柱と走る自転車は同じぐらいに思えた。
「やっぱり建物側…いやここは車道側…。決め手がほしいなぁ。」
目の前の車道側を電動キックボードが走っていく。
「はい、やっぱり建物側!」
ノアは建物側にそってゆっくり歩きだす。
自転車を難なく避け進むと、引っ越し屋さんのトラックが車道に寄せて止まる。
助手席から二人降りてきてトラックの後ろを開ける、中には大量の家財が見えた。
運転手も入り三人体制で荷が運ばれていく、隙間を狙うように歩く。
「次、冷蔵庫いくぞー。」
嫌な予感が後ろを見た瞬間に的中する。
「えー、何でこうなるんだよー。」
急いで冷蔵庫から逃げ、一瞬後ろを見る。
「ヤバイ、冷蔵庫の方が昨日の籠台車より速いじゃないかぁ!」
冷蔵庫は大きなマンションに方向をかえて入っていった。
「はぁー、はぁー、もっとゆっくり行こうよ。」
ノアは呼吸を整えゆっくり歩く。
脇道を三本ぐらい越え立ち止まり、スマホを出して場所を再度確認する。
「信号二つ目の角だから、あの信号だな。」
ポケットにスマホをしまい、杖を持ち直し歩きだそうとする。
一つ前に越えた脇道から女性が曲がって歩いてきた、やり過ごしてからにしようと待つ。
しばらく見ていると女性の後に子供が曲がってくる。
「えー、何でそうなるの!?」
女性の後に続く子供の烈、綺麗に一列の為、一向に終わらない。
「こんにちは、こんにちは…。」
礼儀正しい子供の挨拶の嵐。
子供の集団行動に、笑顔で手を振り挨拶を返す。
……子供の流れは途切れなく続く。
最後の引率者と思われる三人の成人男性が過ぎていく。
「…どうなんだよね、…歩く先にはみんな目的があるから自分のペースでいいんだよ。」
「にしても、喉が渇いた。」
同じ角を曲がってくる女性を見る。
「えっ!?」
慌てて松葉杖を持ち、車道側に出て女性の後を見る。
「……誰も来ないのか。」
建物側に戻りゆっくり歩き一つ目の信号を越える。
前だけ見て一生懸命歩く、後50mほどの所で軽い音のクラクションが後ろで鳴る。
横に避けて立ち止まると、シニアカーが横を通過し、運転している男性から言葉を投げられる。
「そんな体で無理するなよ!」
ノアはどう受け取っていいかわからない言葉に、小さく返事した。
「……、…はい。」
シニアカーの男性が見えなくなるのを待ち、無性に吠えたくなる。
「うおおおおおっ!!」
ノアは後少しを無心で歩き、ショッピングモールの前に立つ。
ドアが鏡の役割になり頭の上のHPが見える。
「HP60って、生命力的には後5ぐらいまで削られたと思うけど…。」
一枚目の扉を入った所に自動販売機があったので、水を一本買い、その場で3分の1を飲む。
二枚目の扉を入ると広い空間、幼児が走り回り、カートをおす人やスマホを見ながら歩く人が行き交う。
「また違った難易度だな。」
入ってすぐ横の立て看板に館内マップがあった、靴屋の場所を探す。
「二階の端か…、まぁそんなもんだよね。」
通路は幅が広く、左右にテナントが入っている。
中央の人の少ない所とテナント前の人の往来が多い所が見てわかる。
「子供の動きだけを気にしていれば、間違いなく中央だよな。」
自分の選択を信じて中央を歩く。
テナントから子供が飛び出してくる。
「やっぱり正解だよな。」
飛び出してきた子供はそのまま走って向かいの店に入る。
「いやいやいや、それは無理だよ。」
別のテナントから5人組の家族と思われる男女が、中央を同じ方向に歩きだす。
会話しながら歩く5人組に追いつくと、一人がテナントに目を向け指をさす。
それに反応した4人が立ち止まり、壁が出来る。
「あまい、それはさすがに想定済みだ!待てばいいんだから。」
立ち止まり、進むのを待つが一向に動かない。
左側から避けようとした瞬間、突然左端の男性が振り返って走ってくる。
「おわっ!」
間一髪でかわす。
「…なるほど、そういうこともあるよね。」
壁になった四人の左側を抜け、前にでる。
前の見通しが良くなり、それほど人が乗ってない上りエスカレーターが見えてくる。
「ほほー、前後に人がいないなら余裕でしょ。」
エスカレーターに近づいた所で立ち止まり、周囲を確認する。
さっき抜いた5人が横を抜けてエスカレーターに乗る。
「よしっ、今だ!」
エスカレーターにうまく乗る、前との距離は6段ほどでさっきの5人、後ろには誰も乗ってない。
「これなら余裕じゃない!?」
二階の床が目線と同じぐらいまで来たところで、前の5人がエスカレーターをおり、手すりが途切れる所で立ち止まる。
一人が館内マップを片手に話すのを、他の4人が円陣を組むように囲む。
「えー!?ギリ抜けれる!?」
一瞬で隙間を見抜き、松葉杖の幅を狭め脇を抜ける。
内心ドキドキしながら広いスペースに設置されたソファーに座る。
大きく息を吸って、吐き、水を飲む。
「ふぅー。」
深く腰掛けしばらく人の動きを見る。母親に抱かれる子供、両親の真ん中で手をつなぐ子供、ベビーカーに乗る子供、子供が無敵に見える、
上を見上げると星型の風船が等間隔につられている。
「俺もアレ使えればいいのにぃ。」
ソファーから立ち上がろうとするが左足のギプスで立てない。
「えっ、これ……立てない……。」
ソファーの前ギリギリまでお尻の位置をかえ、立ち上がろうとする。
「んっ!……なんで!?……無理っ!!」
ノアは心の中で叫ぶ。
『誰かー、まじで助けてー。』
目の前を楽しそうに人が通過していく、必死さを誰も気づかない。
「いや、俺の顔はトイレを我慢してるようにしか見えない気がする。」
ひきつった笑顔をしながら体を右足がソファーに着くとこまで斜めに向く。
右手で背もたれの一番上を持ち、腕の力と右足の踏ん張りで体を持ち上げて膝を伸ばす。
体を背もたれの方へ向きをかえ、左手で背もたれを掴む。
上半身を手すりの方へゆっくり移動する。
右足で片足ジャンプをしながら上半身と下半身を近づける。
くの字に折れた体を伸ばして立つ。
「はぁはぁ、脱出…成功…。」
ソファーに立て掛けていた松葉杖が横滑りして倒れる。
「……マジか…相棒っ、今助けてやるからな!」
片足でジャンプしながら杖に近づく。
勢いをつけて体を曲げ、右手で杖を一本をすくいあげる。
杖を左手に持ちかえ、再度勢いをつけてもう一本をすくいあげる。
「はぁはぁ、ここって休憩場所なんだよなぁ!?」
松葉杖を両脇に挟み、立ったまま呼吸を整える。
水を一気に飲み干し、空になったペットボトルを近くのごみ箱に捨て、振り返ることなく靴屋に向かう。




