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非人間的で人間的

「オッケー。じゃ次の質問ね。紅君が死んで統一者に戻っても完全になくなる訳じゃないでしょ?面倒臭い事にはならないの?」


 死んだ直後の()()との縁が切れた瞬間に自分を再構成してどこの世界にも属さない存在に戻る。とは言うが今までの縁が無くなる訳ではない。何故なら世界の縁とヒトとの縁は別物だからだ。しかし根底から別のモノに変わることは大なり小なり影響が出る。それの後始末までさせられるのはごめん被りたいものだ。そんな心情を含んだリーダーの問いかけに対する紅の答えは簡潔だった。


「問題ない」

「と言うと?」

「さっきリーダーが自分で言っただろ?『人間から別の種に転化するやつは少なからずいる』ってこの世界は転化に対する反発が少ない様に調整してある」


 それは単純にカレンを転化させるのに邪魔だったから、というのもあるし、己で人間をやめることを願う人間がけして少なくないというのもある。故にこの世界は一定以上の思いで人間をやめることを願えば抵抗もなく簡単に堕ちるように出来ているのだ。


「マジか」

「マジだ。だから俺の転化による面倒事はない」

「そっかー。なら安心だね!てか表向き転化する事は決定なんだ」

「リーダー・・・・俺がカレンを置いて死ぬたまか?」

「ナイね!」

「当たり前だな」

「あら、ありがとう。紅が死ぬまでに転化するか死者として残るかするまで誑し込んでおくって周囲に言っておいたかいがあるわ」


 リーダーの断言にどや顔で頷いた紅にカレンがさらりと爆弾を投げつけると、紅は顔を真っ赤にしてしばしば固まる。

 そんな紅の様子を見てきょとりと首をかしげるカレンの様子を見る限り特に意識した言動ではないらしい。

 色々なアレコレが混ざった感情をなんとか無理矢理紅は飲み込んで話を続けた。


「と、とかく俺は死ぬ直前に堕ちた事にする。そうすれば堂々とヒトとして外を歩いても無駄に騒がれないで済むし、行き成り居なくなっても人間でなければ特に騒がれたりはしない。なんせ人間に比べれば他の種族は頑丈な者ばかりだ。大方人間の時の行動範囲外に旅に出たと思われるのが落ちだしな。実際、界を越えて他の世界を旅してまわる予定だからハズレではないし」

「界を越えてって、もしかして統一に巻き込んでない世界を旅するの?」

「ああ、元々オレは色んな場所を渡り歩いていたからな。壮大な暇つぶしでしかなかったが、中々に楽しかったのも事実だ。カレンとも色々と見て回りたいんだよ」


 元々二人の寿命問題を解決したらいろんな場所を見て回るのが目的だったのだ。カレンが転化し、紅が人間としての良識を学んだ今、二人の当初の目的である旅をする事に何の問題もない。その辺を簡潔に説明されつつさっき語ったられた馴れ初めでもそんな話しを聞いたなぁと思い出してふと疑問。


「カレンちゃんは大丈夫なの?世界が変わると常識も変わるし中々大変だと思うよ?」

「ん?契約の時もその話はあったし彼は慣れてるから大丈夫じゃない?もしその世界の常識が合わないなら」

「なら?」

「水〇黄門でもすれば良いんじゃないかしら?」

「水戸〇門?!あの、超長寿創作の?!てか諸界漫遊して世直しするの?!他世界の常識をぶった切る気なの!?」


 流石に自分の常識を他世界に持ち込むのはいかがなものかと抗議の声を上げようとしたリーダーを制してカレンは口を開いた。


「私はねリーダー理不尽が大嫌いなの。見た目とか文化とか伝統とかそういったその場所特有のものを否定する気はサラサラ無いわ。でもそういった物とは別に理不尽な常識や暗黙のルールが存在しているのも確かでしょ?」


 例えば肌の色、身体能力、性別、生まれた場所、障害、言葉、訛り、教育、貧富の差、種族。そういった本人の努力ではどうしようもないものや環境を指して嘲笑う事が嫌いだ。

 それが当たり前とされ、それに疑問を持つことすらできないのは理不尽で不条理だ。


「その世界に気付きの切欠を蒔くことを、一石を投じることを私は悪い事だと思わないの。だってその世界で生きる全ての者にはどう生きるかを決める権利があるべきだと思うから。一部の上層階級だけが得をする世界ならいっそのことって思うのよ。私の感性はおかしい?」

「そんな事無いよ。でもそれは理想論だ。全てのヒトにどう生きるかの選択肢を与える事は出来ない」

「知ってるわ。でも生きるか死ぬかの選択だけは自分の物よ。私はその最低限だけでも守られる世界であって欲しいの」


 生きたいか死にたいか、それは、それだけはどんな時でも自分で選ぶべきものだし自分で決めるべき事だ。

 今居るこの世界ではエーデルワンド・スリンプ・アンドロダスの様に目覚めた古代者に今を生きるか死に逝くかを当然のように尋ねる。それは生きるも死ぬも本人が決めるべき当然の権利だからだ。その当然すら与えられない世界などあってはいけない。


「だからそれをも縛り付ける理不尽なら不条理なら、私は怒り嫌悪し武器を手に取るのでしょうね。それが剣かペンかは分からないけど」

「ペンも武器なの?」

「そうよ。知ってる?リーダー、この世界にはね『ペンは剣より強し』って言葉があるのよ」


 世界中に類似の言葉はありそれは「言論は暴力に勝る」という考えが世界中のどの時代でも共通しているという事だ。

 絶対者が管理し支配する世界なら問いましょう。生きる意味を、幸せを、幸福を、未来の夢を問いかけよう。

 戦いに明け暮れる疲れ果てた世界なら歌ましょう。小さな幸せ、友と笑い合う日常、退屈で大切な日々を謳おう。

 欲望のままに命を使い捨てる世界なら突き付けましょう。消費される命の嘆きを、無くす事への恐怖を、失った者達の悲しみを知らしめる。


 それでも変わらないならその世界を私は見限るだろう。全ての者がその世界を肯定するなら何もせず、何も言わずに世界を去るだけだ。でももし万が一、億が一その世界の在り方を否定して変革を望むのなら手を貸したい。

 同じ考えのモノを集めて剣ではなくペンで戦い勝利する手助けを、もし理不尽な力に踏み潰されそうならその時は私が剣を取る。


「と、かっこ付けて言いつつも私は脳筋派で難しく考えるのは苦手だけどね。そもそもその世界の事はその世界のヒトが考える事だからガッツリ噛まないようにするつもり、理想としては耳に痛い流れの吟遊詩人かな?」

「あー・・・なるほどね。でもカレンちゃん結構感情移入しやすいし情を持った相手はとことん助けたくなる性質でしょ?甘噛みで済むの?」

「それなら問題ないわ。私ちゃんと俯瞰的視点を持ってるもの」

「俯瞰的視点?」

「えぇ、後付けだけどね」


 俯瞰的視点とは、物事を俯瞰的に捉え公平かつ平等に物事をみる視点だ。物事の片側だけに感情移入したり、情に流されて局面を見誤ったりせず大局を見据え、様々な角度から物事をみる視点、それでいて神の視点ではないので種ではなく個人を見ることが出来る。王や統治者が持ちうる視点だ。


「けどまぁ私は結局人間だったから感情的に成りやすいんだけどね。そのときは紅に止めてもらうつもりだから、その時は宜しくね」

「任せろ。カレンが辛くないように処理しておくから」

「「・・・」」


 カレンに話を降られ輝かんばかりの笑顔で答えた紅に頼もしさを覚えるべきか、それとも言葉の物騒さに突っ込みをいれるべきか悩んだ二人は、


「ま、そもそも技術の発展で殆どの死が根絶した世界もありそうよね」

「そだねー」


 そっと目をそらして話を戻した。


「その世界の在り方が理不尽の上に成り立っていないなら何にもしないよ。そもそも世界を変革しなきゃなんないほど酷い世界とか早々あっても困るし」

「つまりその時の気分次第って事?」

「そうとも言うかもだけど、私は随分柔軟性がある方みたいだから余程の理不尽でもない限り手は出さないよ」


 ひょいっと肩を竦めてそう口にするカレンの言葉はそれ成りに信用性がある。何せ自身の心のなかにひょっこりと入ってきたヒトを受け入れ契約し、人間をやめて肉体が変わっても普通に対応しているぐらいだ。その適応能力は相当高いものと思われる。


「因みに許容範囲ってどの辺りまで?」

「そうね。人権の保証されていない奴隷が当たり前とされるのはないはね。古代アテネが基準よ」


 ※古代アテネでは人口の半数以上が奴隷でありながら奴隷達の立場や身分はしっかりと保証されていたと言われています※


「・・・カレンちゃん基準が高い気がするよ?」

「リーダー、人権て大事よ。ヒトを尊重できない社会、国に未来はないわ。世界も同じだしそんなヒトばかりの世界はいずれ下克上されるわよ。もし私がその場に居合わせたら全力で支援しちゃうわ」


 にっこり笑って言い切ったカレンは本気だ。その後ろでカレンを抱き締めてご満悦の紅が効率の良い意識改革の方法を算段し始めるぐらいには本気だ。

 そんな二人に言えることなどたかが知れている。


「やり過ぎないようにね」

「頑張るわ」

「約束はしかねるがな」


 うふふ。あはは。と笑い会う男女の前で引き吊った顔をするリーダーと言う珍しい現象はしばらく続いた。

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