世界は
「これで、寿命問題にいっても良いか?」
「自己紹介って感じじゃなかったけど、お互いの名前が分かったのなら良いのかしら?」
「よしそうしよう。寿命は俺に合わせる。いいな?」
「ええ良いわ。そう言えば――はどのぐらい生きるの?」
「ん?死なねえよ?」
「不老不死?」
「おう」
「へー、私の精神が心配になるわね」
――の言葉を受けた△は一瞬目を見開き、考え込むように左手指を口元に当て、握られたままの右手を――の指と指を絡める様に繋ぎ直しにぎにぎと弄りながら呟く。握り直された手に随分と気をやりながらも――はその呟きを聞き逃す事なく、問題が有っては困るので確りと聞き返した。
「△の精神?」
「うん、人間は寿命がある生き物でどれほど長く生きても120歳が限界だと言われてるわ。精神もそれに準ずる。だから生き続けると精神が摩耗するって言われてるの。もちろん実際にそれを検証できる訳ではないから本当か嘘かは分からないわ。でも、生きる筈の無い年月を生きるんだもの、そうであっても不思議ではないと思うの」
「ふむ。精神の安定と保護か、確かにただ不老不死にするの駄目だな」
「どうにかなる?」
△の言葉に――はすぐさま自身の中にある知識の中から使えるものを選別し、高速思考を並行で動かし実施不可能なものを切り捨て、少しでも危険の有るものも再検討し、改善されないのであれば切り捨てる。そうして99.9999…%に至るまで安全性の保証できるものを弾き出した。
「・・・ああ、これでどうだろう」
「?」
「魂を混ぜる」
「?????」
――の言葉に△は大量のクエッションマークを飛ばし始めた。△の世界は魔法とかないし分からんわな。
「少し座るか、説明するのも長いしさっきからずっと立ったままだろ」
「ん、そうね。私の世界だし家具とかは出せるわ、えーとソファーとテーブルとあ、お茶でも飲む?」
「ああ、紅茶とかは出せるか?」
「ええ、暖かいの?冷たいの?」
「冷たいので頼む」
「ん」
――の言葉に△はコクリと頷いた。と同時に何もない空間に若草色のやわらかそうなソファーと白いテーブルが出現する。
出現したソファーに△が手を放して座ろうとしたのを――が手を繋ぎ直して阻止し、自分が座ってから△の手を引いて自身の足の間に座るように促した。
△は突然の事に多少の戸惑いを見せつつもモゾモゾ体を動かして居心地良い所を探して落ち着いた。その体を抱き込んだ――の肩に頭を置くように見上げながら△は目を合わせる。
「重くない?」
「問題ない」
「そっか」
それだけ確認するとテーブルの上にアイスティー2つと軽食を出現させる。出現させたグラスに手招くような仕草を見せるとグラスは宙に浮き手元に引き寄せられる。現実ではないからこそできる芸当だろう。
一つを――に渡しもう一つをは手元に持ち、口を付ける。
「さてと、魂の説明だがまず最初に俺の魂は不変だ。性格が変わらないとか、学ばないとかではなく、在り方が変わらない」
「えっと、根が変わらないってこと?」
「おう、俺以外は俺の魂に手を加えられない。それが神や世界、時間でもだ」
「時間・・・。摩耗しない?」
「そうだ。察しが良いな。俺の魂に△の魂を混ぜて二つに分かつ、もちろん自我は混ざらないようにする。自我を混ぜたら意味がないしな。これで△は魂単位でほぼ同一の存在になるから俺と同じ不変の魂になる」
「足して二で割るってことね。――なら出来るでしょうけど、手を加えて不変の部分が変わったら?」
「それはあり得ない。此処で△に出会うまでの長い年月で自分の魂に死を付与できないかってのは何度か試したことはあるが成功した事は無いし、他の物を混ぜることもしたが多少の変化は有っても基本の不変さは全く変わらなかったんだ今更△の魂と混ぜても変わらんだろ。それに二つに分けると言っても実際は魂を細い糸で繋いだ状態だ。変形した一つの魂と見なされるから不変さに支障はない」
「そっか、――が大丈夫と言うなら問題ないわね。魂を混ぜるとどういった事が起こるか分かる?」
「予想で良ければ答えられるが?」
「お願い。心の準備の為に聞いて置きたいわ」
「分かった」
その後も△の質問に答えるようにして相談していった。基本として二人は不老不死になるだろう。もし死が付与されるとしても寿命を均等にして輪廻転生を利用し、転生を繰り返して様々な世界を一緒に生きる。
その際に生じる転生時の記憶に関しては少しづつ自然に思い出すように、無理やり思い出させるのは精神や体に負担がかかるので禁止だが自力で思い出すのは良い。
もし転生時、離れた場所で生まれて育とうが必ず再開するように魂の縁を調整する。これに関しては絶対、世界の強制力とか知った事ではない運命も必然も偶然も奇跡も何でも使う。
人間の――には人外としての記憶や力は封印、人間としての死又は必要時に封印を自動解除し、使用後に再封印するがもし自力で思い出した場合は再封印はしない。
などなど色々と話し合って決めていく、しかしそれも今の段階での話なので不便を感じた場合は随時改良していくことになるだろう。
「私の代わりに人間として生きてって言ったのは私だけど、どうやって私の代わりに生きるの?」
「△の存在を俺の存在で上書きする。ただの上書きだと周りや記憶の無い俺が違和感を持つから△が生まれた時点から世界を書き換える」
「私じゃなくて――が生まれたって事にするってこと?交友関係とか変わってくると思うけど」
「ああ、だから過去に遡って上書きするんだ。俺は赤子からやり直すってことだな」
「あー、現在から入れ替わるんじゃなくて過去そのものに干渉するのね」
「そう言う事だ。あとは、俺の人間名か」
「んー。私の名前使う?音読みすれば男でも大丈夫だと思うし」
「音読み?」
「うん、コウって読むの、私がいた場所に――が入るのなら同じ字の方が違和感ないかなって」
「ふむ、一理ある。ではそうしよう」
家族となる者たちも変更点が少ない方が違和感を感じないだろう。名前の形をそのままにするのはそういった意味でも都合がいい。
「あと、――が人間をしている間私は何処に居ればいいのかしら?」
「ふむ・・・いっそ世界ごと変えるか?」
「え?」
ふむ、そうだ。そもそも世界を変えてしまえば妙な違和感も隠れるし、△の様な人外が普通に闊歩するのが当然であれば堂々と一緒に居られる。
俺が連れまわせば必然的に家に連れ込む事にも成るのだから△も家族と共にいられる。△は家族が好きなようだし、今までの友人とも会えるのだし良いのでは?
「っと思うのだがどうだろう?」
「ごめん話が分からない。10じゃなくて0から話して?」
「ああ、すまない。さっきまでは△の世界に合わせていく方針だっただろ?しかしそれだと制限があるし何より△の転化がやり辛い。だから俺らがやりやすい様に世界を変える」
「ふんふん。要するに私たちの都合のいいように世界事作り変えようってこと?」
「おう。そんだけ様変わりすれば強制力も働き辛くなるからな、△を完全な人外に出来る」
「強制力?それって行為を強制するやつ?国とか組織とかにある」
「ああ、世界にもある。それがあるから多少の誤差はあれど世界は概ね同じ方向に進み、似たような世界が集まる」
世界は無数に存在する。しかし一つの世界から観測出来る世界は似たような世界ばかりだ。それは似たような流れをくむ世界が集まっているため隣を覗いても異差が見受けづらいのだ。
例えるのなら似たような家が立ち並んでいる住宅地の様なものだ。多少の異差はあれど殆ど変わらない。しかしそこから離れると少しづつ、或いは急激に景色は変わる。
それは世界も同じだ。世界が変われば世界法則が変わる。極端に言えば人間が居るか居ないかで世界のありようは変わるのだ。
世界の有り様が変われば世界に流れる大きな流れ、強制力すらも変わる。△の人外化は△が所属している世界の強制力によって阻止される可能性があった。故にゆっくりと時間をかけ、場合によっては何度かの転生すらも考慮に入れて少しづつ造り替える心積もりでいた。が、
「複数の世界を統合して強制力を弱め、その間に△の体を一気に造り替える」
「それって可能なの?」
「可能だな、だから話している」
「そうして人外の私は――の側に居ればいいの?」
「ああ」
「死ぬまで?」
「そうだ。嫌か?」
少しの不安を滲ませそう聞くと△は小さく笑って首を横に振った。
「そんな事ないよ。人間の――には私が見える?」
「見える人間ばかりになる。そう調整するからな、それなら△は家族に会えるし友人ともう一度友人になれる。当たり前の様に人間以外が闊歩する世界、異常が日常になる世界にする」
「戦争とか起きそうね」
「問題ない。出来ないようにルールで縛ればいい。魔法や神罰が当たり前に存在する世界なら可能だ」
「そう、なんだか楽しそうだわ」
「ああ、楽しいさ、楽しそうな世界を統合して楽しそうな世界にする。あとは多少先を行く先導者が必要だが、それが出来そうな奴らがいる時代で統合すれば勝手に率いてくれる」
「本当に問題がなさそう」
「当たり前だ。全知全能を形にした俺が考えたんだからな。それに、問題があればその都度修正するだけだ」
「じゃあ大丈夫だ」
――の力強い断言に△は胸を撫で下ろして微笑む。
――にとっては何よりも価値のあるその微笑みが曇らぬように何度も頭の中で計画を見直す。統合する世界、時代、タイミング、世界法則、強制力の強さ等々誤差もない程に計算しつくした。
決めるべきことは決まった。あとは共に生きるための契約を実行し、世界を書き換えればそれで済む。
契約は魂を混ぜるものだ。混ぜるには、
「△」
「なに?――」
――に身を預けた体制のまま△は男を見上げる。
その目には信用と信頼が詰まっている。時間の経過も曖昧なこの場所で長い様な短い様な時を話し合い続けた為かは分からないが、心の底からの信頼を感じるし、――自身も△が自分を裏切り怖がる事は無いと確信していた。
故に口にした。
「魂の混ぜ方なんだが」
「うん」
「一番手っ取り早くて安全で、安定してる方法がな」
「うん」
「アレなんだ」
「うん?」
「・・・性行為だ」
抱き込んでいた体を更に抱き込んで繋いでいた手に力を入れてギュッと握り、△の肩口に自身の額を押し付ける様な不様な有様で盛大に羞恥と戸惑いを含みながらも口にした。
自分の欲がないと言ったら嘘になるので目線を合わせられないが、伝えるべき事は確りと伝える。
「え、えーと、それは、男女の営み、セッんん゛的な?」
「的な」
△は――の言葉を一拍おいてから理解した。と同時に心臓が早鐘を打ち初める。安心しきって身を預けていた体の座り心地を悪く感じ、全身に震えが走る。
「・・・・・ぃ」
熱い、熱い、熱い、熱い。耳すらも熱くなるほど顔に血が上る。
「・・・・・い」
煩い、煩い、煩い、煩い。耳元で煩い程自分と、
「・・・いいよ」
彼の鼓動が聞こえる。
「△、他にも方法はある。無理は」
「無理じゃない」
「しかし震えている」
「別に怖いとかじゃないし!いや初めてだから怖いけど、――が怖いんじゃなくて、き、緊張とか、初めてだからとか、あと」
ドキドキと痛い程に高鳴る心臓は、繋いだ手が震える程の力は、耳まで真っ赤になる程顔に集まる血は、要するに、
「は、恥ずかしさと羞恥心と緊張だよ!あ、あなたが、嫌でないなら良いよ!寧ろ役得、って今のは無し!!!」
「役得とは?」
「言わないよ!?」
「俺に抱かれるのは嫌でないと?」
「言わないで!?!」
「俺を憎からず思っているのか?」
「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
つまりはそういう事なのだ。
心の底から信頼する相手だ。さっき出会ったばかり?関係ないね。終わりのない一生を共に生きようと誓って契約するのだ。付き合いの短さなど気にしていられない。寧ろこの短期間に此処まで信頼した相手に何の感情もない方がどうかしている。
そう、つまり、有りたいに言って惚れたのだ!しかもどう考えても一目惚れに近く、話すうちに心底惚れたのだ。惚れた男から抱くなどと言われても見ろ!役得以外の何だというのだ!!しかも初めてでドッキドキとか、乙女か!!!
持っていたグラスを手放す。グラスは虚空に消え空いた左手で顔を覆い隠す。冷えたグラスを握っていた手は冷たく火照った顔には気持ちがいいが、駄目だ片手で隠し切れない。右手は・・・離してもらえない。寧ろ確りと握り直された。鬼か!!
握り直された右手が熱い。圧し掛かってくる背中が熱い。いつの間にやら腰に回された腕が熱い。
肩口に顎が乗っているせいで耳元に吐息が当たる。擽ったい。ゾワゾワは、してないし!!そうとも、していないったら、していない!!
「△」
「く、擽ったい」
「△?」
「ひぅ」
囁くように甘く名前を呼ばれる。息が耳に掛かる。く、唇が耳にあ、当たって・・・わざとだ!!!ゾクゾクなんてしてないし!!
――は混乱に混乱を重ねる△の頤を左手で捉えて左側に向けさせ様と力を入れる。すると△が物凄い勢いで逆側に逃げようとするのでその力に逆らわずそのまま右側に首を向けさせ、それ以上動かせないように確りと固定する。
「ぎゃ、って近い近い!顔動かない!!鬼か!!」
「随分話し方が崩れたな」
「大分矯正できただけで小っちゃい頃はこんなんだったもん!別に猫じゃないし――に猫被る必要ないし、ってか本当に顔が近い!!」
今にも唇同士がくっ付きそなほどの近さにある事に気づいた△は繋がれていない手で――の顔を剥がそうとして気が付いた。右手は繋がれ顔は右側を向いている。左腕は――の腕が左の二の腕あたりを通って△の頤に手を掛けているせいで左腕が上がらない。よって右側にある――の顔に手が届かない。
(こ、こいつ全部計算ずくだな)
「まあ、そうだな」
「え゛(何も言ってない)」
「うん、心位は読めるさ、特に△はそういった耐性が無いんだ。読心術が通りやすい」
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
み、見られた?今までの全部?結構アレな想い浮かべたりしてた気がするの全部?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死にたい。
「死ぬぐらいなら俺にくれ」
「・・・・・・・・こんなの欲しいの?」
「ああ」
「――に最初に声をかけたから?」
「ああ」
「そう・・・」
惨めっとでも言おうか?
惚れた相手を刷り込みの様に手に入れるなんて、だってそんなものいつか破綻してしまうではないか、何時だって偽りで手に入れたものは破綻する。そんな物語の定石の様なものを自分がするだなんて、なんて馬鹿でアホで愚かな、
「切欠がそうなだけだ。そんな暗い顔と考えをするな」
「え?」
「お前が俺に最初に声をかけ、手を差し伸べた。それに間違いはない。しかしそれはただの切欠だ。その後お前と話し触れ合い。呼びあった。俺の事を考え思う『相手に何の感情もない方がどうかしている。』だろ?」
「っ!」
確かに思った。そう思った。出会ってすぐの相手にどうかしているが思ったのだ。
『この人が欲しい!』とドロドロの何かを抱えそれを押し込め女優を演じた。なんでも受け入れ、――の望む事を叶える女を演じてでも手に入れたかった。本当は相手の刷り込みに付け入ろうとしたのだ。その先の破綻だって目に見えていたのに!!それでも、それでもっ!!
「それでもあなたが欲しかった!!」
「ああ」
「それを、知っても私で良いの?」
「お前で良いんじゃないお前が良い」
「馬鹿で傲慢でドロドロな、汚い女だよ?」
「そんだけ形振り構わず俺を求めてんだろ?つかお互い様だぞ?なんせ性行為でなくても魂は繋げるんだ。だってのにその方法を使おうってんだから我欲満載だろ?」
「ふふふ、そうね。私利私欲だわ」
「多分どっちが先に告げるかで△が先だっただけだ。気に病む事でもない」
「うん」
「△、好きだ」
「私も、私も――が好きよ」
混乱の名残りでまだ赤い顔を緩め△は笑う。それはそれは幸せそうに微笑む顔は今まで見たどんな女よりも――の目に美しく映った。
その美しい笑みに惹かれる様に――は顔を近づけ、そっと口付けた。
愛らしい唇を啄みながら思う、自身の言葉一つで惚れた女が笑うのならば臆病な自分は隠しておこうと。
見ることができる△の内をさっきまで見れなかった事を、心を覗けながら拒絶が怖くて覗けなかった事を、△の言葉を受けて急速にその思考と心を時を遡って読み、あたかも最初っから読んでいたかのように振舞った事を、本当は△の言葉に舞い上がって逃れられない様に雁字搦めにするために行動したのだと、△が気付くまで隠しておこう。
そして、臆病で心配性で卑怯な――は△の思考を心を考えを、△自身が否と口にするまで見続ける事を、バレるその時まで隠しておこう。
そうして契約はなった。
混ぜた魂は良好、△は無事人外となりカレンを名乗り、――は△の居た場所に収まりコウと名乗る準備が整った。
世界は統合される。上記二人の我儘と好奇心と思い付きによって。
世界は統合される。他者の思惑も思考も運命も凌駕して。
世界は統合される。死した者に新たな生を、死するものに生の可能性を、縛られた物達に解放を、さ迷う者に変革を与える。
二人の独りぼっちが手を伸ばし、繋ぎ、結んだその先で、世界は生まれた。




