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話は唐突に始まる

「ところでさあ」

「ん?」

「なんです?」

「二人は統一者がどんなヒトか知ってる?」


 唐突にリーダーがそう切り出したのは万屋本舗でのお祭り騒ぎが始まってからだいぶたち、日が傾いて酒が出始めることにより元々のカオスさに輪を掛けて混沌した頃だった。

 あいも変わらずイチャイチャしてる紅とカレンの真ん前で平然と飲み食いできるリーダーの神経に誰もが敬礼しつつもドン引きしているが、そんなことは気にも留めず――或いは気付かず――にリーダーは話しかける。


「統一者?」

「どんな?」

「うん」


 にこにこと楽しそう――多分楽しそう――に笑っているリーダーの意図はだいぶ読めない。

 しかしリーダーの意図が読めないのはいつも通りなので二人は気にすることなく言葉をそのまま受け取った。


「知らんな」

「そうなの?」

「だってどこの誰かも分からないヒトじゃない。知ってたら知ってたで可笑しくない?」


 質問に簡潔に答えた紅にリーダーはキョトリと首を傾げて聞き返す。そんなリーダーにカレンも少しの呆れを混ぜて返せばリーダーは残念そうにシュンと項垂れた。


「そっかー二人は知ってると思ったんだけどなー」

「あんでだよ」


 中々に自信があったらしいリーダーに此方は盛大に呆れを混ぜた紅が聞くとリーダーは首を先程とは逆側に傾げ直してこともなげに告げた。


「だって二人は当事者でしょ?」


 そうリーダーが口にしたとたん空気が止まった。

 いつの間にか張り巡らせてあった結界に阻まれてリーダーの声は周囲に響くことなく二人に届く。

 結界の外からの音は聞こえるし周囲も不審に思うことなく彼らはそこに居るがまるで三人が居る場所だけを切り離したかのようにが喧騒が遠い。


「幻術が組み込んである。周囲には私たちは今まで通り会話を続けているように見えるのね」

「そうだよー。カレンちゃんは優秀だね。どんなに騒いでもこの中でのことは外に漏れないし僕の実力が有れば数日間二人を投影し続けることも可能だよ」

「つまり私たちは今ここで死んでも数日間生きていたことにしてダンジョン内で死亡したように偽装できるって事?」

「うん!」


 ニコニコと笑顔に見える顔で元気のいい良い子の返事を返してくるが、考え自体は中々穏やかじゃない。


「どうやって俺らを殺すんですか?」

「此処に猛毒がございまして」

「毒なんて検査すれば一発じゃね?」

「数時間後には無毒になるんだよ!すごいでしょ?作ったの!」

「ほぉそれは凄い暗殺にはぴったりだな。でも持ち運びには向かないな」

「うん。使う直前に生成するしかないんだよねぇ不便」


 しかしそれに対峙する二人には特に緊張感はない。

 猛毒だと言って取り出した小瓶を見ても特に騒ぐこともなく普通に話してイチャつきながら飲んで食べてを繰り返す。

 カレンに至っては紅がすねる位にはリーダーが作った結界の観察に夢中で会話に参加しないし小瓶にも意識を割かない。

 そんなカレンにすねるのは紅だけでなく興味を向けてもらえないリーダーも同じだったようで頬を膨らませた。


「ぶーぶーカレンちゃんもうちょっとこっち興味持とうよぉ」

「ん?んー。じゃぁその小瓶の中身はいつ作ったの?」

「今朝!」

「じゃぁもう薬効ないね」

「・・・てへ☆」


 それによって小瓶の中身が無毒であるとペロってしまうあたりリーダーには真剣みが足りない。そもそもリーダーの脅しの様な話にふたりが全く意に介さないのは殺意が皆無であるためだ。

 リーダーは脅しというポーズをとって内容を聞かれないために結界を貼り、周囲に邪魔されない様に幻術を混ぜているが実質さっきまでと同じ世間話の乗りだ。


「それで?」

「ん?」

「二人は世界統一の当事者でしょ?なんで統一したのかとか聞きたいんだ」

「何でそんなこと聞きたいんだよ」

「だって気になるじゃん!おかげで副リーダーに会えたから全然いいんだけど!寧ろ感謝してるんだけど!!でもある日行き成り世界が変わるのって衝撃的だよ?だからなんで統一したのか、どんな基準で混ぜる世界を選別したのかとか聞きたいんだよね」


 ひょいっと肩をすくめるリーダーにはそれ以上にもそれ以下にも見えない。本質が掴めないたちなので他にも色々と考えがあるのかもしれないが、それを推し量るだけの力量を持ち合わせていない二人には探ることは難しい。


「といってもなぁ。何で統一したのかとか気になるってのは分かるけど実際そんなに細かく決めてないんじゃないか?」

「なんで?」

「なんでってそんなことが可能ならもっと都合のいい様に造り替えてるだろ、差別とかあると面倒臭いんだからその辺調整するとかさ」


 実際10年前からの努力で大分マシになったとはいっても今も世界中で種族差別は起こるし異種間恋愛もまだマイナーだ。今の日本とかは大分いいけど外国なんてまだまだ酷い。新婚旅行に世界一周とかしたいのに今のままじゃ出来なさそうなんだよなぁ。


「え、世界一周旅行するつもりなの!?その間の仕事どうするのさ?!」

「休業だな」

「いーやーだー!二人とも居なくなったら仕事量増えて副リーダーが私に構てくれないぃ!!」

「どんまい」

「他人事だっと思ってぇ(泣」


 べそべそ情けなく泣き喚くリーダーは安定だ。

 実際二人は中々に優秀で副リーダーの仕事の手伝いをしており、居ると居ないとでは事務処理のスピードが変わる。具体的に言えば副リーダーが一人でこなせば二日かかるところが一日以内で処理できるぐらいには効率が上がるのだ。

 もっともその開いた時間は暇になるかと言えばそうでもなく、別の仕事を入れるなりパーティーメンバーと交流を深めたりするのでやっぱり副リーダーは忙しい。それでも時間に余裕が有ればリーダーに構う余裕があるのでカレンと紅が居れば必然的に副リーダーと過ごす時間が増える。それが無くなると聞いて副リーダー大好きリーダーが泣かないはずがない。


 それでも責任感が強く無意識のうちに無理を始める副リーダーが無理をしないよう入ってくる仕事量の調整をしたり、副リーダーに気付かれないように眠りを必要としない種族のリーダーが副リーダーの睡眠中に頑張るのだろう。

 ここでミソなのが面と向かってリーダーが副リーダーを手伝わない事だ。下手にリーダーが手伝うと副リーダーが上司に手伝ってもらうだなんて!!っと責任を感じてしまうので気付かれない程度に代わりに仕事をこなしたりしてサポートをするのが一番平和なのだ。そうやって副リーダーの平穏が守られるのは分かりきっているのであまり心配はしていない。

 それでも副リーダーが増えた仕事をこなす為に構ってくれないのは目に見えていてリーダーが泣きを見る羽目になる事も分かっているのでそこに不満が出ているのだ。


「二人みたいに四六時中一緒に居られないんだから居れる時間を増やしても良いじゃんかー!」

「そんなこと言われてもな、優秀な事務処理班増やせば?」

「優秀な人材は何処も欲しがるんですぅ!!」


 つまり見つからない。或いは狙ってた人材を取られたと、一応トップとして色々動いていたらしい。ご苦労様です。


「人数の確保は難しくないですけど上に優秀なって着くと途端に難易度上がりますよね」

「そうなの!たいへんなの!だから統一者とかいい人材だと思うの!だから知ってたら吐け」


 結構マジなトーンで言うあたり切実に内勤職員が欲しいらしい。

 統一者が何故世界統一なんぞしたかも気になるが、そんなことできるなら頭の出来も良いはず!うちの内勤になってくんないかなぁっというのが本音らしい。

 うん。何とも豪胆なリーダーだ。


「難しいと思うぞ」

「なんで?」

「結局俺の身体は一つしかないし優先すべき相手はすでに決まってるしな」

「へ?」

「あら?」


 カレンを抱き寄せる力を強めてその頬にキスを落とす男は少しの違和感を雰囲気に滲ませている。

 それに気付いて即座にいつでも動けるように身体に適度な力と緩みを待たせたリーダーとは反対に、カレンはますます身体から力を抜いてくてんとその身を預けた。


「カレンちゃん?」


 それに訝しげに声を掛けるリーダーにチラリと目を向けた後に軽く口元に笑みを浮かべる。

 向けられた視線にも口に乗せた笑みにも警戒の色は無く、どちらかと言うと嬉しさや安堵感を湛えていた。

 特に洗脳や幻術を使われた形跡はなく、カレン本人もいたって正常と合図を送られているので警戒すべきではないとはわかる。

 分かるのだが、


「えー、紅君がなんか別人じみて怖いわー。如月紅本人で間違いなし?」

「おう。別に変って無いぜ?そんなに別人じみてるか?」

「んー。なんか一皮むけた?的な?なんか急激に大人になったんだぜ!的な?本人なんだろうけど何か中身のどこかが変わった感じ?」


 カレンが警戒のけの字もなく安心しきっているならまぁいっか!と警戒を取っ払ったリーダーは即座に順応を始める。今まで知りえている如月紅っという人物との相違点と言うべき違和感の所在を上げ連ねて自分の中で修正を行っているリーダーを見て目の前の二人が思うのはやっぱりリーダーはリーダーだなっだった。


「流石ねリーダー本当に見る目があるわ」

「だな」

「んえ?」

「俺は確かに如月紅本人だ。そこは間違いないしさっきまでと普通に地繋きで認識のずれもない。ただちょっとさっきの今で目線が上がっただけ」

「目線?」

「そ、最初はもっと人間から外れた。神なんかよりも上から物を見ていた者が人間を疑似体験した事により人間的なモノの見かたを獲得したってだけの話」

「はぃ?」


 クエスチョンマークを多数飛ばすリーダーにさてどこからどこまで話すべきかと思案する。

 リーダーの事は信用も信頼もしているのである意味何処までも話せるのだが、さすがにプライベート的な部分まで話す気にならない。さて、どこまで話そうか?


「ねえ」

「あ?」


 それまで積極的に話に入って来なかったカレンが自身を抱きよせる腕に軽く触れて声を掛けると即座に紅の意識が向けられた。

 見上げてくるカレンを一旦抱き上げて自身の足の間に置いてなお抱き込みその頬に唇を落とす。それを当たり前に甘受してからカレンは口を開いた。


「名前と契約方法の詳細以外は話しても良いわ」

「いいのか?」

「うん。リーダー相手だもの心配はしてないわ。一応念のために魔法契約で口外せずとでも交わしておけば安心よ」

「ま、それもそうだな。てことでリーダー。俺らの馴れ初め聞く?」


 さっきよりもさらにひどく甘い雰囲気となった二人からの視線に渡し屋ギルドのパーティー万屋のリーダーは、


「もちのろん!口外はしないけどペロったら不味いしあとで魔法契約書書こうね!」


 何一つ気負うことなくからりと笑って告げた。

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