対策は大事
「ど」
「ど?」
「どうしてそうなったのだ・・・」
がっくりとテーブルに項垂れたエーデルワイドにカレンは首を傾げる。
紅とカレンがお付き合いを始めた翌日、一応リーダーと副リーダーには報告しておいた方が良いだろとの話し合いの結果、昨日のうちに姫鬼、狂、ライの三人との約束によりダンジョンに行くことになっていた紅を――たいへん駄々をごねられたがそこはダンジョン産のお土産のおねだりとキス一つで――無理矢理送り出してカレン一人で万屋本舗に訪れ報告し、ついでだからとランチを取る事にしこれまたランチを取りに訪れたエーデルワイドを捕まえて一緒に食事をした食後、昨晩の事をかいつまんで説明したカレンへの言葉が冒頭である。
「どうしてって何が?」
「いや、昨日の今日で急展開すぎるというか、そもそも如月は昨日の話を聞いておったのか?」
「マンドラゴラの話あたりから聞いてたらしいわ。因みにアンさんが泣き止んだ後の質問は私が意図的にかき消したから聞いてないわよ」
「そ、そうか。あー、とにかく昨日の我達との話がきっかけで如月とは恋仲になったと」
「ええ」
「それは、取り敢えずはおめでとう。しかし本当に大丈夫か?」
「ありがとう。大丈夫って?」
「いや、話を聞く限りお互いに相当な情を抱いておるのだろう?如月が生きとる間は兎も角あやつが死んだあと一番辛いのはおんしじゃ。耐えられるのか?」
異種族間恋愛で何が一番問題になるかというと互いの寿命の長さだ。
ほとんど変わらなければ特に問題はない。存分にイチャついて死が二人を分かつまで共にいればいい。
しかし、しかしカレンや紅の様に明確に生きる時間が違い過ぎる者達はそうもいかない。どれだけ愛しても、どれだけ想い合っても寿命という絶対的な終わりからは逃げられない。
特にカレンは100歳未満という若い個体だ。これから何百年下手をすれば何千年もの長きにわたり生きねばならないのだ。その精神状態を心配するのは長年吸血鬼と人間の恋愛をまじかに見てきたエーデルワイドには当たり前のことだった。
そんなエーデルワイドの心配をよそにカレンはキョトリと首を傾げハッキリ言っと言い切った。
「無理ね」
「ハッキリじゃな!?」
「偽ってもしょうがないじゃない。大体本人が気付いてないからアレやこれや抑えが利いてたのよ?その壁を昨日取っ払っちゃったからこれからは酷くなるでしょうね」
「今までも酷かったと思うのじゃが?」
「今までは紅一人だったでしょ?これからは私の分も追加よ?」
「あ、ヤバい気がするのじゃ」
「うん、覚悟しておいて。でね?歯止めもなく紅への情を際限なく注ぐのが当たり前状態からその注ぎ先を無くしてみなさいな」
「ヤバい気どころではなく、ヤバいのう」
「そういう事。だから紅には覚悟してもらおうと思って」
「覚悟?」
「そう覚悟、死者か転化する覚悟をね。だって私に未練たらたらで死んでくれたらあの子は死者としてここに留まるじゃない。だから今のうちに誑し込んでおくの」
「そ、そうか。勝手に頑張ってくれ、此方を巻き込んでくれるなよ?」
「うふふ、保証しかねるわね」
幸せそうに、けれどどこか冷たさを感じる笑顔で言われてエーデルワイドの顔は盛大に引きつった。
コレ見たことある。番を愛しすぎて狂う一歩手前の竜の顔だ。情が深すぎる事で有名な竜の中でも極一部にみられるやつ。
もともと竜種は情が深い。竜同士であれば特に問題にならないが他種族だと竜からの情に息苦しさを感じて逃げ出してしまう者もいるぐらいに相手を窒息させかねない情の深さを持つのが竜だ。
番に逃げられた竜は悲惨だ。深く愛しただけ注ぎ先を失った思いは暴走する。
気持ちが醒めたてしまったなら逃げられても仕方がない。でも私はこんなにも愛しているのにどうしてあなたは私を捨てて逃げたの?嫌われたのなら仕方がない。思いが重くて苦しかったなら仕方ない。でも愛おしい。愛してる。愛してるから苦しい。苦しい憎い恨めしい。憎いけど愛しい。愛してる。愛しているのに気持ちが醒めるなんて許せない。今もこれからも貴方だけを愛しているのに何で、何で、何で、何で何で何で何で!!あなたが憎い想いが辛い胸が苦しい泣き暮れるほど悲しい凍えるほどに寂しいそれでも愛しいあなたを愛している。
そう言って竜は泣き注げない想いは溢れながらも愛した相手にその矛先が向く事は無い。だって今も愛しているのだから、番を傷つける事を嫌ったその矛先は番が離れる原因となった己へと向く、自分を傷つけて恨んで憎んで責めて追い込んで最後には死んでしまう。だからこそ竜の愛を受け取る時は相当な覚悟がいる。
これが竜の基本である。
そう、基本だ。この重っ苦しいのが基本、常識、普通、標準。そこからさらに重くなる竜は居るが軽くなる事は無い。
そんな竜の中でも極一部にみられる愛しさが募って狂う手前の表情をしているカレンは存分に重い。よくもまぁ今まで爆発しなかったものだと感心したくなるぐらいにドン引き案件だ。
「・・・」
「あれ~?薔薇様とぉカレンさん?昨日の今日でまた来たのぉ?」
「みどり薔薇の方とカレンさんに失礼よ。二日連続のご贔屓を感謝すべきじゃない?」
「それもそうだね~。ご贔屓有難うございますぅ」
盛大に引きつった顔を隠せずにカレンの向に座っていたエーデルワイドの横をウェイトレス姿のアリスと緑の魔女が通り過ぎざまに声を掛ける。
エーデルワイドとカレンがランチギリギリの時間に食事をとった事もあって昼を大分過ぎたこの時間の店内は閑散としており、ウェイトレスの二人もそこまで忙しくない。故にゆっくりと歩いて知り合いに軽く声を掛ける位は当たり前に出来た。
「「?」」
ガシ!!
そのまま通り過ぎようとした二人の手をエーデルワイドは勢い良く掴み、ランチタイム中の厨房で思う存分腕を振るっていたヒトに聞こえる様に大き目な声を出す。
「おハナ!!この二人休憩まだなら休憩中だけ貸しとくれ!!」
『いいよ~(^^)v 』
「恩に着る!!!」
エーデルワイドの声に素早くプラカードを掲げて返答された快い返事の即答に感謝の言葉と共にチップを弾き渡し、昨日のお茶会メンバーを二人追加してエーデルワイドは気合を入れた。
「さあ二人とも昨日の続きじゃ!!!!」
アリスと緑の魔女の食費をエーデルワイドが出すことで本人たちを買収し、逃がさない様に陣取ったボックス席に詰め込んで簡単に出られない様に結界まで張って止め置く。
如月紅だけでも一杯だったのにそこにカレンの竜種並みの情が加わるのだしかも二人は両想いの恋人同士、今までは互いの事に口を出す権利の無い他人だったのに今では嫉妬心を前面に押し出しても何も問題の無い間柄、事態は収拾するどころか悪化の一途をたどっている様にしか思えない。
取りあえずの処置として昨日を知っている者に今の状態を把握させつつカレンの地雷がどこに有るのかを把握してそこを踏まないようにしながら今後の対策をせねば、制限時間は一時間この二人の休憩が終わるまでに事実の周知と地雷箇所の把握がミッションだ。
未だに状況が分かっていない二人のエプロンの端をギリギリと引き裂かんばかりに握りしめながらエーデルワイドは薄ら寒さは引っ込んだもののいまだ笑みを湛えたままのカレンへと向き直ったのだった。




