お互い様のようで
「壮絶だったわね」
「うぅ隅々まで覗かれた・・・」
それがカレンの術により目が覚めた二人の第一声だ。
「壮絶ね!心底重たいし結構エグイ思考も満載で、もし世界ルールが無かったら一人二人の死亡じゃぁきかないわ。ヒト殺しになっていない現状を世界に感謝なさい」
「二度も言わなくてもいいじゃん?!あと世界ルールには心底感謝してるって!」
目覚めてから言いたい放題のカレンに涙交じりに返す紅は中々にダメージが深いらしい。
なんせシクシクと泣きながら両手で顔を覆っている現在の体制は術を掛ける前と変わらない。つまり紅は頭をカレンに抱きかかえられている状態だ。
擬きとはいえ体型の分かり辛い和服を身に纏っていても尚豊満と分かる胸に半ば顔を埋めてその鼓動を聞いているにも拘らず動揺の色が無いのだ。そのダメージの深さが知れる。
「まさかそこまで嫉妬深いとは思わなかったわ。本当に私を世界から隔離したいのね」
「うう」
「しかも紅以外の事を考えるのもダメで思考をあなた一色にして、他にチラリとも興味を持って欲しくないなんて、クソ重いわ!」
「だから嫌だったんだよ!!怖いだろ!引いただろ!でも知られたからには逃がさねえからな!!縛り付けて雁字搦めにして絶対に逃げられない様にしてやるぅ」
「別に嫌じゃないし引かないけど?」
「え?」
「ついでに逃げるつもりもないから縛らなくても大丈夫よ?」
「・・・え?~~~っ!!!」
グサグサと容赦なく自身の願望を滅多打ちにして来るカレンに紅は自暴自棄気味に言い放ったが、カレンはそれをケロリと全否定し全肯定した。そのあまりにも軽い言葉に紅はようやく顔を上げ、自身がカレンの胸に埋もれている現状を認識して声にならない悲鳴を上げた。
「あははは、紅ったら初心ねぇ。夢の中では散々コアなプレイを要求してたのに!」
「な、あ、そ、忘れろ下さい!!!」
「イヤ♡」
「かわいい!好き!」
「ありがとう。私も好きよ」
可愛らしく否定したカレンに勢いのまま好意を伝えるとほとんど同じ温度の言葉が綺麗な笑顔と共に返ってきた。
・・・・あれ?
カレンに隅々まで見られたっという事実とその後の容赦ない滅多打ちでごちゃごちゃしていた頭がふと冷静になると違和感を覚える。
「なあカレン」
「ん?」
「カレンて俺のこと好きなの?」
何か会話の節々にそんな感じの言葉?というか雰囲気が有るんだけど、そもそも俺が自覚してた方のああいた行動も普通に受け入れるのは難しいよな?さらに追加で無意識下の願望やら欲望を軽快に笑い飛ばすとか難しいんじゃないか?
あと、さっき寝る前の話でプロポーズを断った事ないって言ってたような?カレンは断る時は堂々と容赦なく断るから流すこと自体可笑しい。今現在に至るまで断ってないって事はもしかして、脈あり?
「好きでもない人と一緒に暮らせないと思うけど?」
「ラブorライク?」
「ラブ&ライクかな?親愛も友愛も恋愛も含めて好きよ?」
「~~~っ!!」
マジかよ!!!徐々に囲って囲って外も内も埋め尽くして二進も三進もいかなくなってから口説こうと思ってたのに!!!すでにする必要が無いだと?!
むしろ今口説かれてる気分なんだけど?!
「顔真っ赤ね」
「はz!!」
「初めて聞いたって?そりゃ初めて言ったし」
「なnぃ!!」
「何で言ってくれなかったのかって?だって聞かれなかったし」
「け、結婚して下さい!!!」
「二年後に来やがれだよ」
「結婚前提でのお付き合いは?!」
「別に良いよ。てかプロポーズする前にまずそっちじゃない?」
「付き合ってください!!!」
「おk~。ハロー私の恋人様よろしくね」
「イエス!!!ハローマイディア!!よろしくお願いします!!」
かっっっる!!!?軽いけどよっしゃ!!!
てか衝撃の事実なんだけど!?プロポーズじゃなくて交際を申し込んでたらもっと早くに合法的にカレンが手に入っただなんて、なんで気付かなかったん俺は!ってそういえば好きって最初の時しか言ってないじゃん!お付き合いしてくださいも姉ちゃんに物理で遮られて言いきれてないし言質が無い!!!やっぱりあの時取っておくんだった?いやでも惚れてもらわないとっていう兄ちゃんと姉ちゃんの言葉も分かるから勇み足はダメだよなぁ。
そうなるとこの10年でもう一回告白しなかった俺が原因だな。それにしてもカレンて何時から俺の事本気で見てくれてたの?そして俺はそれに気付かなったの?恋は盲目を地でやっちゃたの?いや意味が違うか、にしても鈍ちんかよ。
・・・・チラリともそんなそぶりも見せずに10年間隣に居たカレンを凄いと思おう。そうしよう。
「そう言えばご感想は?」
「え?」
「私の無意識も見たんでしょ?私だってそんな軽くないよ?」
そう言って笑うカレンはいつもと少し違う顔をしている。いつもの穏やかで優しいホッとするよな顔でも悪戯を思いついた楽しそう顔でもない。少しドロリとして冷たい。どちらかというと俺が浮かべることが多い笑い方だ。
「俺に比べたら可愛いものだったような気がするけど」
「そうかな?紅とは違う方面で重いと思うんだけど・・・」
そう言って首を傾げるカレンにさっきまでの冷たさは感じない。それでも自身の内情を思い浮かべてはしきりにそうかなぁっと呟く声には何時もよりも温かみにかけた。
紅の内情はひたすらにカレンへの執着だ。世界からカレンを隔離して紅だけを見て欲しいという独占欲や支配欲、所有欲等をドロドロのぐちゃぐちゃになるまで混ざてぐつぐつと煮込んで固体にして、人型に形を整えた後に人間の皮を被せたものが如月紅という個人と言えるほどまでに恐ろしく底冷えするほどの執念で構成されている。
対してカレンのそれは愛情と呼べるものだ。外から見た時は分からないが此方もドロドロのぐちゃぐちゃになるほど混ざり合った情を内側に持ってはいる。しかし紅と違ってそれを表に出すことは殆どないし場合によっては綺麗にスッパリと心の奥底に沈めて二度と出てこれない様に蓋が出来てしまう。
だからと言ってその愛情はけして軽いものではない。なんせカレンは人間と比べ物にならないほど長い時を生きれる長命種だ。長命種は高々100年生きるかどうかの人間とは時間の感覚や感情の持ちが違う。たった一度の出会い、たった一時の触れ合い。それだけで心を満たし死ぬまで忘れる事は無い程に一度情を注いだものを愛する。
カレンは自己申告の通り100年も生きていない若い個体だ。その心や感情の動きはある程度生きた長命種と違いまだ人間と感覚が近いため人間の様に鮮明で瑞々しく鮮烈に感情を感じられる。
強烈な愛情を生の初期に抱いたことによりカレンの中で如月紅という人物は何にも替えが利かない確固たる地位を築いてしまった。それは100年生きるかも怪しい個人を愛し慈しみ、そのヒトの死後も自分自身が死ぬその瞬間まで情をたった一人に注いで思い続けられるほどにその情は深かった。
その深すぎる情をもってしてカレンは自身を『重い』と称したのだが紅からしたら相手の事を慮って自分の感情を殺してしまえる辺り自分より可愛いものである。個人的なことを言えば隠さずに見せてくれてもいいとは思うが・・・。
紅は隠す事も殺す事も出来ないし相手の――カレンのために諦めることなど到底出来ない。
片や相手を縛り付ける方向に重く、片や相手に愛情を注ぎ過ぎる方向に重い。要するに二人とも方向性が違うだけで情の掛け方が重いのだ。
「カレンを重いとは思わないな。寧ろ愛されてるって感じがして嬉しいよ」
「そっかー、そんなふうに言われると歯止めが利かなくなってバレンタイン以上の惨事を引き起こしかねないから程々にしてね」
「え、バレンタイン以上とか嬉しいんだけど、寧ろ嫉妬心とか独占欲とかはもっと出してくれた方が安心するから見せて欲しい」
「何事にも限度ってものがあると思うけど?」
「えっと、それは遠まわしに俺は度が過ぎると?」
単純な嫉妬心と牽制の為に垂れ流した諸々の事を言われてるんだろうか?確かにちょっとやり過ぎたかな?と思わなくもないけど、でもそういうの制限ていうかコントロールできるとも思えないんだけど・・・いやカレンが言うならどうにかするけれども!
「別に紅はいつも通りで良いと思うよ。だって制限できないでしょ?ならそのままか別の方向に発揮するかしかないじゃない?」
「別の方向に発散って、例えば?」
「んー。例えば周り当たるんじゃなくて私に言うとか?可能ならその行動を取らない様にするしそれが出来ないなら紅に愛の言葉の一つでも囁く?」
「あ、あいのことばとは?」
カレンからの言葉に発音が平仮名オンリーになりながらも聞き返した紅にカレンは悪戯っ子の笑みを口元に浮かべて未だ抱えたままである紅の耳元に唇を寄せて甘ったるく囁いた。
「好きよ、あなたが特別、紅だけを愛してるわって」
「~~~っ!!すきぃ」
「ありがとう。私も好きよ」
「やだカレンめっちゃかっこいい」
「惚れ直しそう?」
「毎日惚れ直してるから!でも今なうで惚れ直したわ」
「あらあらそれは何よりだわ」
俺の言葉に笑って答えるカレンマジ可愛い。
いやもうホントかっこよくて男前で綺麗で可愛いなんて最高なんだけど、恋人が可愛すぎて愛しすぎて死にそう。可愛い恋人がいるから生きるけど。




