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なん、だと!?


「・・・・・・・・・咄嗟に目くらましをしたのは良かったのかしら?」


 目の前で繰り広げられる恋人同士のじゃれあいに咄嗟に反応して目くらましを蒔いたのはエーデルワイドの言葉で意識が飛んでいたカレンだ。

 独り身の前でっというのもあるが、人の溢れる昼を少し過ぎた人気の店で繰り広げていい事でもない。

 緑の魔女からしたら普段ホールスタッフとして働いているときにアリスにちょっかいを掛けてくる常連客への牽制の意味も込めて見せ付けたかったのかもしれないが、それ以上にあとで我に返ったアリスの羞恥心を考慮したカレンの思いやりである。


「うむ。とっさの機転ご苦労だのう。しておんしはどうなのじゃ?」

「んーそうねぇ。初恋をしたことが無い訳じゃないわ、ただどんなんだったかは忘れたわね。そんな淡い思い出と紅への感情が一緒とは思え無いわ」

「ふむ。おんしは長生きであるが故に区別が付いておらんと思っておったのじゃが違うのか?」

「えーとね?確かに私は長い時を生きる長命種だと言う自覚があるわ。でもね?そもそも私はそんなに歳とってないの」

「「「「へ?」」」」


 少し困ったようにそう言ったカレンにその場にいた四人は皆一様に一瞬固まった。


「ソ、そうなノですカ?」

「うん。100生きてないわ」

「なんじゃと?!」

「嘘!?」

「まさかの年下ぁ?」


 あっさりと二桁だと白状したカレンに長生き組があんぐりと口を開けた。唯一生まれて50年にも満たないカガリだけは困惑気味だ。


「アレだけ卓越した魔法技術を持ちながら三桁に届かんのか?!」

「知識量も半端じゃないのにぃ?」

「ドラゴンを片手間で瞬殺するのに?」

「「「二桁なの?!」」」

「えー、そこまで驚く?そんなに年増に見えるかしら?逆にショックよ」


 驚きを前面に出す吸血鬼と魔女に口元に手を当ててショックを表すカレンはただの演技なのか本当にそう思っているのか判断に困る。

 しかしこの話が本当であるならだからこその疑問点があった。


「カレン様」

「ん?なにカガリさん」

「何故紅様のプロポーズをオ受けに成らなイのでスか?」


 そう、そこだ。恋を知らないわけではなく、長寿故の感情の摩耗もない。殆ど普通の人間と変わらない感性であるのであれば何故あそこまで露骨にアピールされているのに返事をしないのか?YESもNOも答えないのは何故なのか疑問になる。


「そうじゃ!おんしの態度を見とれば如月が特別な相手であることなど一目瞭然じゃぞ?!」

「そうよ、今年のバレンタインだって酷い有様だったじゃない。如月にチョコを渡そうとした女子を射殺しそうな目で睨みつけて気絶させたり」

「行ク先々に仕込まれタ紅様宛のチョコを回収シて送り返しタり」

「しまいにはぁ群がる公衆の面前でぇ如月を抱きしめてほっぺにチューまでして置いてぇ?なんで受けないのぉ?」

「?だってあの子まだ子供じゃない」

「「「「はぁ?」」」」


 キョトリと首を傾げて言い放ったカレンの言葉に四人は何言ってんだコイツ?っと言いたげな声と顔を向けた。

 その反応にカレンは何でそんな反応されるんだ?っと言いたげに傾げた首を反対側に傾け直した。


「だって紅は今年で16歳よ?今の日本の人間の結婚可能年齢は一律18歳に固定されてるわ。本人の気持ちがどうとか世間の風潮がどうとかは置いといて社会ルール的にはどう頑張っても不可能でしょ?」

「・・・年齢的な問題以外は無いンですカ?」

「?感情とか心構えって事?」

「ハイ」


 動きを止めた四人の中で一番早く動き出したカガリが辛うじて発した質問にカレンはそんな事っと言いたげに言葉を発する。


「だってもう十年よ?あの子と初めて会った時から結婚してくれって言いわれ続けてるし実際その為に必要だからって根回しまで完璧にこなしてるのよ?流石に本気だって言うのは解るわよ。ただあの子と私が人間と人外であることに変わりはないし生きる年月の違いやら年齢差が有るのも確か、そう言う事を色々うだうだ考えた時期が無い訳じゃないけど、それでも世界の在り方すら変えてまで私が欲しいって言うならあげても良いと思ってるわ。だからまぁ受けるのは二年後ね」


 そう締めくくってカレンは手元の冷えかけた紅茶を適温まで温め直してから口を付ける。そんなカレンに習うように手元の紅茶で口を湿らせてからアリスが口を開いた。


「そんな悠長なこと言って、鳶に油揚げをさらわれる事に成るかもしれないとは思わないの?」

「運命的な出会いでもして他に好きな子が出来るならそれもまた良しって思ってるわ。流石に変なのに捕まるのは頂けないから相手を見せてもらうけど感性が会えば良いんじゃない?もっとも紅の事をちゃんと好きで紅もちゃんと好きでいられる子であればどんな子でも良いけどね」


 ひょいっと肩を竦めて答えるカレンに気負った様子はなく本当にそう思っているらしい。それに眉根に皺を寄せながら声を上げたのは緑の魔女だ。


「それでカレンさんは悔しくないのぉ?」

「愛は真心恋は下心ってね。悔しく思うかもしれないし泣くかもしれないけど、紅が幸せであるなら良いのよ」


 そう答えるカレンに緑の魔女は頬を膨らませて納得がいかない!!っと言いたげにカレンを見るが本人は気にしていないらしい。

 そんなカレンに緑の魔女はさらに頬を大きくして不満を表す。だって彼女には納得が出来ないからだ。自身がアリスに恋心を自覚してすぐにもう一つ自覚したことがあった。それは自分は案外心が狭く独占欲と嫉妬心が強いと言う事だ。取られても良いだなんて口が裂けても言えない。自分がアリスに向ける想いは、執着はそんな軽いものではなかった。


 だから誰にも取られない様に必死になってアリスとの距離を縮めて周囲を牽制し、色よい返事が返ってくるまで口説いて口説いて口説きまくった。さらに同時進行で外堀だって埋め続けたのだ。

 その甲斐あってアリスとは晴れて両想いに成れたしアリスの周辺の人物も緑の魔女の味方だ。誰憚ることなくアリスの隣に居ることができる。


 しかし両想いになって少しは収まるかと思った執着心は収まる処か年々増えるばかりで留まる事を知らない。大きくなっていく想いがいつかアリスを傷付けるのではないかと恐れてそれをアリスに告げて詫びたこともあったがアリス本人は気にしない。好きでいてくれるなら良い。むしろそんなに想ってもらえのは嬉しいっと言ってくれたので心置きなく好きでいられる。

 故に緑の魔女は好きな人に好きだと伝え同じ想いが同じ重さで返ってくるのがどんなに幸せかを身をもって知っている。だからこそカレンの言葉に賛同する事は出来なかった。

 しかし、まったく理解が出来ない想いでも無い。


 だって好きな人の幸せに自分が邪魔なら私は私を殺せるから。


 そんな複雑な心中もあって顔を歪める緑の魔女を横目に次に口を開いたのはエーデルワイドだ。


「おんしのそれは恋でないと?」

「んーん。ちゃんと恋よ?ただ10年も一緒に居るんだもの好いた惚れたの恋心より遠くても笑って幸せであれば良いって愛情の方が強いのよ。アンさんは共感できるんじゃない?」

「確かに出来る。我もシオンを育てた時そう思っておったよ。あの子が幸いであればそれで良いと、しかし恋愛と親愛は違う。同じ愛情でも向けるベクトルが違うのだ。おんしのそれは本当に恋か?」


 腕を組んで真剣な表情で問い詰める様にエーデルワイドは、愛情の薔薇の創設者エーデルワイド・スリンプ・アンドロダスは問いかける。


「ええ、恋よ。断言するわ。だからこそちゃんと独占欲も嫉妬心も持ち得ているしそれをちゃんと周りにも出してるでしょ?現に今年のバレンタインにやらかしたしね。でも私は紅を傷つけてまで紅が欲しいんじゃないの、私は紅に幸せであって欲しい。それでもし幸せになるために一緒に歩むヒトが私ならとても嬉しくて幸せだってそれだけ」


 愛情深き薔薇の創設者の顔をしたエーデルワイドにカレンはにこりと自然に笑い、当たり前の様にいつもの声でそうきっぱりと言い切った。

 それは既に決めた者の話し方である。


「はぁー。覚悟決まり過ぎなんじゃが、では何故恋人ですらないのだ?そもさっきの反応ではおんしは如月への恋心を自覚している様には思え何だぞ?」


 エーデルワイドの言葉に意識を飛ばしていたあの態度はどう見ても何か衝撃を受けている様に見えた。それは自覚していない如月紅への恋心だったのではないかと思ったのだが、違うらしい。実際カレン本人はちゃんと恋をしていると断言しているのだから当たり前だ。ではなぜあんなに固まっていたのか?


「んーとね?笑わない?」

「?何か笑われるような事なのか?」

「と言うかちょっと恥ずかしいと言うか」

「カレン様に恥ずかしイなどといウ感情が有るんですカ?」

「同感だわ。バレンタイン然りホワイトデー然り、アレだけ公然の前でイチャイチャしておいて恥ずかしいとかあるの?」

「そう言えばぁホワイトデーも凄かったよねぇ。此処で指輪着けてもらってそのまま遊園地デートに行ったんだよねぇ?」


 ふと思い出すのは本人曰くやらかしたと言うバレンタインデーの翌月の事だ。

 先月の事があるので警戒する周囲を他所に、万屋本舗でモーニングを取った二人はその場でなんとバレンタインプレゼントのお返しとして紅から指輪を贈られ、しかもその場で指に嵌められ、そのまま某ネズミの国へと向かったのだ。


「何故それで付き合ってすらおらんのだ。普通にプロポーズの一場面ではないか、という今着けとる右手のは」

「え?あぁそうよ紅にもらったアニバーサリーリングよ。右手の薬指は心を安定させて創造性を刺激るするんですって銀は厄除けで付いてる石はルビーで勝利の石とも言われてるから災難除けらしいわ。朱、あの子の兄のことね。に作り方を教えてもらって作ったそうよ。材料はダンジョンで調達したんだとか」


 カレンは指摘したエーデルワイドの言葉にうなずいて右手を見せながら話してくれたが内容はとんでもない。

 現在、銀は女性を金は男性を意味するが昔はこれが逆転しており、少し調べれば簡単に出てくる知識であることから銀の指輪は男の気配を匂わせ、さらに分かりやすく愛の宝石である真っ赤なルビーで紅自身の存在を匂わせている。

 さらにさらに着ける指は右とはいえ薬指、渡した場所もモーニングとは言え人気店のド真ん中、どう軽く見てもただの牽制だ。

 しかもどうやら材料調達から制作まで自分で行ったらしい。此処までくるといっそ清々しい程に重いあと執着心が怖い。


 銀とルビーを糸状にして編んだようなデザイン、と言うかまんま銀とルビーを魔道具作りの特殊な技法で細く柔らかくして編み、形を整えて固めた手間暇のかかった繊細な銀の指輪が話を聞いた今では物凄く重くおどろおどろしい物に見える。


「何故それデ付き合っていナいのでシょう?ココで指輪を贈られる事は恥ずカしくなイのでスか?」

「?ただのホワイトデーのお返しだよ?」

「ホワイトデーのお返しが指輪って普通は重いんじゃないの?恋人なら兎も角違うんでしょ?普通は渡さないわよ?」

「ん?そうなの?毎年くれるよ?」

「ま、毎年~?」

「うん、最初は紙粘土で作ってたなぁその次はビーズを紐に通して端っこ繋げただけのやつで、その次はちゃんとビーズ細工になってて、万屋所属になってからは素材買って朱と一緒にビーズに加工してそれを使ってたかな?ダンジョンに出入り出来る様になってから素材を自分で取ってきて朱と一緒に作ってたよ。デザインは自分で全部したって言ってた。で今年は作るところまで自分でやったんだよって、いやー成長したよね」

「「「「・・・」」」」


 確かに毎年貰ってれば羞恥心とか無いよ?紙粘土から始まるのは子供らしくて可愛い。ビーズになるのも、うん可愛いで済ませよう。ビーズ()()に至るまでも良いだろう。けれどでもその、途中から可笑しくない?なんで素材買ってビーズに加工するのかな?そのうち素材まで自分で採ってくるようになるし、寧ろ作り始めるし年々重くなってない?それをさも当然の様に手伝う兄も兄ながら受け入れてるカレンもカレンだよ?

 むしろ受け入れられるように徐々に重くしてるの?もしかして10年かけて慣らしたの?

 ・・・・・・・怖っ!!!


「は、話がずれたのう!何故さっきは恥じておったのだ?」

「そ、そうね。そう言えばカレンさんが固まっちゃった理由を聞いてたのよね?」

「そ、うだねぇ。なんか新婚みたいなやり取りしてるぅって話だったよねぇ?」

「ハ、はイ。カレン様は紅様を恋愛感情で好きなのかとエーデルワイド様が聞いて固まった理由ですね」


 行きついた思考が同じなのか一斉に話の筋を元に戻し始めた四人の少々ぎこちない逸らし方に首を傾げながらも話を元に戻すことに異論がないのか、カレンは軽く首を傾げるだけで特に指摘する事はない。その事にホット一息ついて四人はアイコンタクトを交わし『今後一切指輪の話を話題にしない』っと互いに誓い。今の話を聞かなかったことにして闇に放り去る事に決めたのだった。

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