恋バナしましょ!
「のう、カレン」
「ん?なにアンさん?」
「おんし、結婚せんのか?」
「「「ぶっ!!」」」
「あら?みどりちゃんアリスちゃんカガリさん大丈夫?」
唐突なエーデルワイドの話題にその場にいたアリスと緑の魔女、カガリは飲んでいた紅茶を噴出した。
※ ※ ※
「おはようカレン結婚して下さい」
「おはよう紅、今日は登校日なんだから早く食べちゃってね」
「ん、いただきます」
「はい、召し上がれ」
いつかの様にカレンに起こされる事なく自力でベットから這い出した紅は朝食をテーブルに並べていたカレンに何時ものように挨拶をし、これまたいつもの様に華麗なるスルーを受けつつも幸せそうに手を合わせた。
雑穀米と豆腐の味噌汁、鮭と卵焼きと海苔、ひじきの煮物と本日もおいしそうな朝食に舌鼓を打ちつつカレンをチラリと見やる。
カレンの今日の服装は仕事着として使っている物の一つだ。
深紅の生地に金糸で全体的な刺繍が施された着物と同じ配色の帯とベールは一見豪華なよそ行きに見える。確かに美しい深紅の生地にふんだんに金糸で刺繍が施された着物や揃いの帯、ベールは目を奪われるほどに美しく豪華だが、その実それは全て機能の為だけ施されたものだ。
着物の形ではあるが動きやすい様に足元にはスリットが入り、肩回りにも切れ込みが入り、帯も半幅でベールも短めで動きを阻害しない。
極めつけは服の材料と見事な刺繍だ。
着物に使われている布は糸の段階から対物理に優れ特殊な方法でないと加工すら困難な強度を誇り、それを特殊な織り方で布にすることによって下手な鎧よりも防御力に優れた布となる。それで仕立てられた服など全身鎧だ。しかも軽くて動きやすい。
さらに染料に使われている材料は対自然に効果の有るモノで赤い色は耐火性に優れ、対魔法効果の有る糸で施された刺繍によりその能力値を大幅に増大することによって炎無効にまで行たっており、ほかの魔法に対しても耐性がある。その耐性はマグマの中で汗一つ流さないほどに強く吹雪の中でも肌寒い位だ。
そんなラスボス用の装備にしか思えない見た目を裏切る性能の仕事着を着ているカレンに紅が何も思わないはずがない。
「カレン何でそんな重装備なの?」
「んー・・・恩売り?」
「はい?」
「みどりちゃんがマグマ付近でしか採れない火硝石が欲しいんだって、でも火硝石が採れる近くのマグマって50層じゃない?あそこ生身で入るのは辛いのよね」
「ああ」
カレンの嫌そうな声に納得の声音が出るのは仕方ない。
ダンジョンの50層は言うなればマグマ地帯だ。そこかしこ火口があり、池のようなマグマ溜まりがいくつも転々としている。そこから間欠泉の様に不定期に噴火するので生身のままその中を歩くのは無謀だ。
最初にダンジョン攻略するときは急ぎなのもあって周囲に結界を貼って熱を完全遮断し、最短距離で通り過ぎてしまったので特に苦にならなかったが、その階層を探索しようと思えばそれなりの準備が居る。
カレンが今着ている着物はその探索用に仕立てた着物で、ついでにとあれこれ機能を付けている内に今のラスボス決戦仕様にまで性能が上がったものである。
「今日は特に用事もないしみどりちゃんにはお世話になってるしね。ついでに薬に使えそうな物もいくつか採ってきて卸そうかなって、万屋に所属してる魔女も結構いるから有ればあるだけ売れるしね」
「違いない。50層だと火硝石と火花、焔の欠片あたりか?」
「そうね。あとは適当にモンスターでも狩って魔石と肉と皮かな?」
「んー、サラマンダー獲れそうだったら獲って来て欲しい。あとは火マンドラゴラ」
「分かったわ。獲れそうだったらね。態々探さないわよ?」
「ああ、それでいい。ごちそうさま、美味かった」
「はい、お粗末様でした」
話しながらも確りと食べ終わった紅は食器を片付け少し急ぎ気味に用意を終わらせた。
「じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
玄関まで見送りに出て来たカレンの頬に唇を落とすと、クスっと小さく笑ったカレンも同じように紅の頬に唇を落として見送った。
※ ※ ※
紅を見送って片付けて自身も用意を済ませた後、カレンはダンジョンの50層に数時間潜り、目的の物と紅の希望品をしっかりとゲットして解体所へ行き、何時ものようにカガリに指名依頼で解体してもらってそれを引き取り、折角だからとそのまま一緒にランチをしようと万屋本舗へ向かった。
そこで非番のアリスと緑の魔女、服を卸しに来たエーデルワイドに会ったので知らない中じゃないし5人で食べよう。っという事となったのは普通のことだ。そして食後にデザートを食べならつらつらと話が続くのも女性なら何もおかしな事ではない。しかしその中でカレンが話した今朝の一幕はちょっと普通じゃない。それに対する反応が冒頭である。
「三人とも大丈夫?お水貰ってくる?」
「だ、大丈夫よ」
「オ気遣いナく」
「のーぷろぶれむー」
「そう?ならよかった」
咽込んだ三人が大丈夫そうなのでカレンは気にしないことにして改めて目の前で微妙な顔をしているエーデルワイドに向き直った。
「なにアンさん行き成り、ビックリよ」
「んん、我からしたらカレン達の方がビックリなんじゃが、おんし独身よな?」
「ええ」
「恋人もおらんよな?」
「そうよ?独り身の女とか珍しくないでしょ?どうしたの?」
「うーん。おんしの今の話だと」
「ん?」
「まるで新婚みたいじゃぞ?如月と」
「え?新婚って」
「前から思っておったがおんしは如月が好きなのか?」
「え?ええ、嫌いだったら一緒に居られないし」
「恋愛で?」
「え?なんで!?」
「行ってきますのキスなんぞ新婚やバカップルぐらいでしかやらぬぞ?」
「え!?だって嫌ではないし」
「うむ故に聞いておるのだ。如月を恋愛感情で好きか?と」
「え」
困惑気味に返すカレンにちょっと疲れた風なエーデルワイドが最後にズバリと言うとカレンはポカンっと軽く口を開けて首を傾けて止まってしまった。
そのまま止まったカレン見やりながら他三人はズバリと言ってのけたエーデルワイドに尊敬の視線を送ったのは無理からぬことだ。
「薔薇様ってば大胆~」
「本当ね。今まで誰も指摘しなかったのに」
「指摘してモ流さレると思イ誰もシませんデしたネ」
「もしやそのせいで今まで展開せんかったのでわ?」
「プロポーズ受けても流しちゃうヒトに自覚させるのは難しいのよ」
「遠まわしだと伝わらないしぃ。如月が怖くて恋バナし辛いのぉ」
「紅様ガ囲い込み過ギて手が出せなカッたとも言えマす」
「んー。我からしたらさっさとくっ付いて収まるように収まってほしいんじゃが、如月の視線が痛くてかなわぬ」
エーデルワイドのげんなりとした表情の意味が分かるだけに三人は同情を込めた視線を送るしかない。
カレンとエーデルワイドは現在瞬間移動の研究をしている。どちらも力の使い方が巧みでチョットやそっとの事では怪我をしないのもあり自分たちを実験台に色々な方法で瞬間移動を確立しようと頻繁に会っている。
エーデルワイドからしたら学園の卒業レポートに丁度いいし良い研究仲間なのに紅から視線が痛い。すこぶる痛い。なので出来ることなら収まるところに収まってこっちに迷惑かけないで欲しい。その嫉妬見当違いだから!!と全力で主張したい。のに末恐ろしいまでの執着心を向けられている当の本人はまっっっったくその自覚が無いらしくいつも目の前にいるヒトが悪寒に襲われる。いい加減にして欲しい。
「そもそも何でカレンさんはこんな鈍いのかしら?」
「幼少期かラ側に居るせイでショうか?」
「灯台下暗しってやつぅ?」
「うーむ、初恋がまだなのかもしれぬのう」
「「「初恋?」」」
「うむ、昔国があったころによくあったんじゃが、長く生き過ぎとる者は往々にして感情が気薄じゃ」
それは長い年月を生きているが故の防衛本能でもある。あまりに世界を鮮明に捉えすぎると置いていかれることに耐え切れず精神が摩耗して生きた屍になってしまう。故に長い時を生きられるように時間や物事の捉え方が不鮮明で、そうさのう言い方はちとアレじゃがジジババになると言えば良いんじゃろうか?年を重ねたは故の鈍感さのようなものを身に着けておる。
無論感情が無いわけではないのでな、ある日出会った人間と恋に落ちるなんてこともあったし、我みたいに子供を拾って育てるうち若々しくなる者もおる。
要するに無為に過ごしとる時と充実を感じ取る時の落差が激しいのが長命種のさがじゃ。
カレンも例に及ばず長い時を生きる種族故に如月に会う前は無為に過ごし、出会ってからは充実した生を送っとるとする。そうなると出会ったそれを特別に思うだけでそれ以上にならないのではなかろうか?
最初に出会ったから特別、最初から特別だからずっと特別、他と違って当然でそれが当たり前、
「っといった具合に意識しとらんかったのではないかのう?初恋をしたことがないで変に拗れる同族は多かったぞ?」
「成程、恋愛感情ヲ経験してイルかどうかノ差でスか、私にも分かりマせんガ、傍から見てイれば特別視していル事だけは分かりマス」
「普通はそこで恋!?ってなる筈なんだけどなぁ」
「そんな短絡的な」
エーデルワイドの長く生きたが故の推察に感情が未熟であるカガリは分からないなりに納得した。
そうしてこの中で恋愛を知っている緑の魔女の言葉は同じく恋愛を知っているアリスの呆れたようなため息混じりに否定された。が、緑の魔女はぷくりっと頬を膨らませて隣に座っているアリスの腕を抱き込んで下から顔を覗き込んで目を合わせる。
「っ、みどり離しt「私はアリスを見た時にぃ特別だって分かったよぉ?」へあ!?」
「アリスは最初っからキラキラでピカピカでぇ可愛くて綺麗で特別だったのぉ」
「え、あ、うん。あ、ありがとう」
「特別に見える子でぇ一緒に居ると温かくてぇずっっと隣に居たいって思ったのぉ」
「う、あ」
「だからこれが恋だって分かったんだよぉ?」
「うぅ」
ふんわりと笑って甘やかな声を出す緑の魔女から逃げる様に顔をそらそうとするアリスは、しかし緑の魔女が小さく笑って左手を右頬に添える様にして留めるが故に逃げられず目を合わせたままとなる。
緑の魔女は顔を真っ赤にするアリスとそのまま額をコツリと合わせて瞳の中を覗き込みながらとろける様な笑顔を見せた。
「んふふ。アリスぅ好きだよ?」
「わ、私も」
「私もなぁに?」
「うぅ、わ、私もみどりがす、好きよ」
「うん。嬉しいぃ」
「っっ//!!」
緑の魔女からの怒涛の口説きに耐え切れなくなったアリスは真っ赤な顔を隠すように緑の魔女の肩口に顔を埋めた。
もっともポニーテールにしていた髪型のせいで耳から首まで真っ赤になっているのが丸わかりではあるが、そこは指摘してはいけない所だろう。事実緑の魔女によってアリスの髪は解かれ、丸見えであった首も耳も隠されてしまった。
「アッという間に二人の世界でス」
「おお、みどりは随分と熱烈に口説くのう」
「んふふ、まだソフトの方だよぉ。でもこれ以上は私が知ってればいいから教えないよぉ。可愛いアリスは私だけのだもん」
「あぅあぅ」
突然目の前で始まった 百合劇にカガリは目線を逸らしているのに対し、チラリとも動揺を見せずにエーデルワイドは感心したように頷いた。
そんな二人に対して緑の魔女は甘やかで嬉しそうな顔にちょっとの優越感を滲ませた笑顔で返した。




