ちょっと良く分かんなくなってきた
「ダーン!!!緊急って何!?ついに死んだ!!??」
「るせぇぇぇぇ!!!死んでたら連絡もいかねーよ!!!」
「それもそうだな!!」
バーン!!!っと扉を壊さんばかりの勢いで開けて中に入ってきたのはウサギだった。
ウサギの耳が生えたヒトだとか獣人という二足歩行するウサギとかそんな比喩表現ではなくまさにウサギ、四つ足で跳ねて野を駆け回る感じのつぶらな目が愛くるしいごく普通の茶色のウサギである。
・・・人が乗れそうなほどの大きさであることを除けばの話ではあるが。
そしてそのウサギの背から飛び降りて大きな声でダンに話しかけたのは獅子の頭を持つ甲冑姿のヒトであった。
え、大丈夫?
「いやー『緊急』なんてメッセージが来たからてっきり死んだのかと思って、惜しかったな!!」
「おめぇよ。なんでそんな明るく俺の死亡を期待してんだよ。ふざけんなよ?ある事ある事言って回るぞ」
「心の底からごめんなさい」
明るくからりとダンが死亡でない事を惜しんだ獅子頭はダンの一言に食い気味の謝罪と流れるような美しい土下座を送って謝る。そんなに醜態晒したことあるのかこのヒト。
「ダンさん?」
「ああ、候補者だ。そのウサギを番にするんだと」
「ほう」
「ダンこの人間なに?」
「かくかくシカジカ」
「ほう」
ぎゃいぎゃいとしたやり取りがひと段落したとみて紅が遠慮がちにダンに声を掛けるとダンは紅に獅子頭を紹介し獅子頭に経緯を軽く説明する。
互いを紹介された紅と獅子頭はじっと相手を見つめること数秒、
「「よろしく!!」」
ガシ!!っと勢い良く互いの手を握りしめて握手を交わした。どうも今の数秒で二人は意気投合したらしい。
「男同士って便利ね」
「ん。わかる」
「バウ」
「俺も男だが弟が分からん時もあるぞ?」
「俺もあの獅子やろうは理解できん。あとアイツは雌だ」
「「「え」」」
「バゥ?」
意気投合しまくって話が盛り上がっている二人を放置してダンは何処からか草を取り出してウサギの目の前に置き頭を撫で、その横では朱と藍がウサギの横腹に突撃しようとしているのをカレンが重力操作と気流操作でケロの上に戻すのを繰り返していたが、ダンの発言に全員が固まった。
「ミスターダン」
「お、おう?なんだミスターって驚くな、どうしたよ。えーミス?カレン」
「うん、あってる。あの獅子頭は雌?」
「おう」
「そのウサギは?」
「雄」
「へー」
種にもよるがウサギは繁殖期を持たない動物で、年中繁殖することが可能、多産で繁殖力が高い動物である。
・・・・・・うん。深く考えないことにしよう。
可愛らしくつぶらな目でこちらを見てくるウサギににこりと笑いながらも少し身を離してしまったのはしょうがない事だと思って欲しい。あと藍は絶対に近づけない事に決めた。
「ところで彼女は何なんですか?」
「て言うと?」
「随分と強いヒトです。しかも候補として真っ先に呼びつけるぐらいですから実績や地位もあるようです。何者ですか?」
「ああ、ヤツは」
「私から説明しよう!!!」
「はぁ?」
話をそらす意図もあるが実際に気になっていた事でもあるので獅子頭の事を聞くことにしたカレンにダンも意図を察しつつ答えようとしたが、それを遮って渦中の人物はこれまた大声で芝居がかった声を上げた。
多分言いたかっただけだと思われる。思わず生返事になってしまうのも仕方がないと思う。
「俺は冒険者ギルドの本部ギルドマスター獅子王ことオール様だぜ!!」
「「「「へー」」」」
「バウ?」
そうして意気揚々と告げられた言葉に帰った反応は全員そろって首を傾げるものだった。
「反応が薄い!!!!」
「るっせーな。此処広いし無駄に反響すんだから大声出すなよ。お前のダーリンの耳にも響くぞ」
「む、それはいかんな。大丈夫か?マイダーリン」
「きゅ」
「うむ、大丈夫か、ならノープロブレム!ワハハハハハ!!・・・・知らんの?ギルドマスター、俺割かし有名なんだが」
響かない大声という器用な声でテンション高く笑ったオールは、しかし一転してテンション駄々下がりの声音と表情の分かり難い獅子頭でも分かるぐらいにあからさまにショボーンとした表情で紅達を見てきた。
それについての返答は、
「知らんな!」
「ごめん」
「ギルドってもんが無い」
「ファクションの中にだけある空想上のものだね」
「バウ!」
元気いっぱいの肯定と本気の謝罪と存在否定と現在の認識と鳴き声だった。
「マジかよ」
「昔々の海の向こうではそういった組織があっても不思議ではないけど現代社会には残ってないね。ファンタジー要素の有る物語では作中の職として名前が出てくるだけだよ。えーとそういった中での役割は、
世界中に支部がある大きな組織でそこに所属する者を力量ごとにランク分けし、ランクに応じた仕事を紹介する。
怪我、死亡は自己責任となり、不達成や問題行動の積み重ねは所属の取り消しやランクダウンにつながる。
って感じだったかな?」
「大体あってる。細々としたところは違うんだろうけど概ねそんなん」
「へー、人間の想像力ってすごいね」
知りえない事なのに概要を掴めちゃうんだから人間はすごいわ。或いはどこかの誰かが他の世界を夢とかで垣間見て世に出してるのかな?次元が複数ある事は世界統合ですでに証明されたようなものだしありえなくもない?
あーならアレだ。世の中にあふれるフィクションも実は探せば見つかるかも?ポケ〇ンとかデジ〇ンとか?
そんなちょっとバカなんだか夢が有るんだか分からない事を考えてるカレンの裾を引いて現実に戻したのはキラキラと目を輝かせた藍だ。
「カレンちゃん詳しいね」
「人間の創作物って楽しいのよね。夜の図書館とか認知し辛い私たちは入り放題だから良く行ってたわ。まあ今は認知されるから出来ないけど」
「ダメなの?」
「うん。気を付けないと見つかっちゃうんだ。だから今は普通に昼間に行ってるよ?姿は幻術使えば誤魔化せるし気配の調整すればそこに居るけど気にならない。程度に出来るし、でも借りたりとかは出来ないかな」
「なんで?」
「借りるためのカードが作れないの。あれは身分証明書えーと、自分がどこの誰かを証明するものが必要だけど私は持ってないから」
「カレンちゃんはうちの子よ?」
「うん。でも戸籍がないし今の人間の法律では存在しない事に成ってるから無理なの」
「むぅ」
カレンの話を聞いてキラキラだった藍の目が曇った。
何か少し荒んだ目してるけど大丈夫かな?
「カレンちゃんうちの子なのに」
「それを認めさせようって話でダンジョン攻略しだしたんですがお姉さま?」
「うー、納得できない。カレンちゃんもケロちゃんもピーちゃんもラミちゃんも天使ちゃんも悪魔ちゃんだって良い子ばっかりなのに!」
「んあ?ちょい妹よ何か色々ついてんぞ?なにピーちゃんとかラミちゃんとか天使と悪魔に関しては種族名じゃん。どこで会ったし」
「道で拾った」
カレンとケロは良いとして他は心当たりが無い、と如月家が首を捻っていると帰って来たのはそんな答えだ。道で拾ったって・・・拾えるものじゃないだろうし拾っちゃダメなものじゃないか?
兄弟がそう思っているのをしり目にカレンは少し考える間を置いてからケロと目を合わせる。
「ケロ藍が拾った現場に居た?」
「バウ!」
「何で言わなかったの?」
「クゥン」
「怒らないわよ。でもおば様とおじ様には言わなきゃダメでしょ?心配するから」
「バウ」
「おば様は知ってるの?ならいいや。他には何かある?」
「バウバウ!」
「ふむ。既に契約済みが何人かいるのね。藍はホイホイね。わかったわ。ケロ存在を偽るタイプのヤバいのは問答無用で蹴散らしてね。それ以外は藍の好きなようにさせてあげて」
「バウ?」
「何事も経験だし、ケロみたく藍を守ってくれるお友達が増えるのはいい事だよ。その際の契約内容は一番の先輩としてちゃんと確認してね」
「バウ!」
ちょっと人間には分からない次元――言語的に普通に理解できない――での話し合いは纏まり問題なしという事に成った。つうか今母さんは藍の拾い癖知ってるって言ったか?じゃ確かに問題ない。父さんは知らんらしいがまあいつもの事だ気にすんな。
「うん?今何か衝撃的な何かを聞いた気がするんだが良く分からない。ダン分かった?」
「嬢ちゃんがケロべロスをFTにしたって事と他にも色々なのと契約してるのは分かったな。てかケロべロスがFTって」
「ダンさんFTってなに?」
「んあ?あー、FTってのはファーストテイムの略だ。獣や魔獣、モンスター、精霊とかと魔法契約をしてそいつらを使って仕事をする奴らをテイマーと呼ぶんだ。んでファーストテイムってのは文字通り最初にテイムしたヤツの事、コイツとの繋がりは一番深いから生涯のパートナーになることが多い。だからテイマーは最初のテイムを相当重視するし希少で強い相手と結びたがる。それで欲が出て死ぬ奴も多いけどな」
「へー、姉ちゃんのはなんか問題あるの?」
「いや、ケロべロスをFTにする奴なんて初めて見たって話しだ。契約するには相手に同意して貰わないといけねから普通は懐きにくいケロべロスをFTには出来ないんだが・・・」
「ケロ公は最初っから藍にゾッコンだぞ?なぁ紅」
「うん、ケロは姉ちゃん大好きだな」
「すげぇな」
「へー、アイちゃんて好かれるんだな!」
キョトリとした顔で言ってのけた朱に紅も同意する。そんな二人に対してダンは『マジか』とデカデカと書かれた顔で、オールはからりと軽く言葉を返した。
が、冒険者ギルドの本部ギルドマスターつまり形式上は冒険者ギルドの一番上に当たる人物でもあるオールはその実たいへん顔を引きつらせていた。
だってケロべロスなのだ。地獄の番犬とも言われるその種は存在そのもを疑問視されるほどに珍しく、いる事を知っている者は出会ったが最後と覚悟を決める程の強者でランク付けするならSランクは確実だ。
そんな出鱈目な存在が今目の前に居てさらに幼女のゾッコンなど悪夢でも見ているかのような心地である。
故にオールの言葉が軽いのは無理矢理話を終わらせるために敢えてそうしたのかもしれない。
うん。がんば!




