ダンジョンマスター
ダンジョンに潜り始めて一週間、その間に紅達の実力はメキメキと伸びた。
朱は道具の扱いと更なる小型化に成功し腕時計型の地図をもう少しましな素材で作製した。結果としてダンジョン約半分を地図として起せるようになった為最短距離を突き進めるようになり攻略速度が上がった。
藍はケロとの高度な意思疎通と連携が出来る様になった事によりケロの勘や些細な違和感を感じられるようになったことから罠を無視できるようになった為攻略速度が増した。
最後に紅は力の使い方と体の使い方がさまになってきたことによりダンジョンモンスター相手に無双できる様になったので攻略速度が速まった。
結果として、一週間後には初日ですでに半分ほどまで下っていたダンジョンの最深部にまで降りるに至ったたのだ。
そうして辿り着いたダンジョンの最奥には大きな両開きの扉があった。
「よく来た攻略者よ」
巨大な扉の向こうは大きくだだっ広い部屋で床には真っ黒な石畳が敷き詰められその奥には王座の様に数段の階段とその上には立派な装飾の椅子に真っ赤なクッション、その上には男が座っていた。
その男は野生の狼を思わせた。屈強な体を動きやすい様に生地の少ない黒服に身を包み、端正な顔や見える肌には大小さまざまな傷跡が残る。武器の類は持っておらず身一つで紅達の前に座する姿は堂々としていた。
男は厳かな雰囲気の部屋の中で堂々とした佇まいで迎えの言葉を口にし、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰れ」
沈黙の後に出口を指さしてそう言った。
「「「だが断る!!!!」」」
「だーーーー!!!なんでだよ何なんだよお前らさあもう!なんでガキだけの力で下ってくんの??ここは初心者向けダンジョンじゃねえんだぞ?!天才かよ!それとも天災か??ふざけんなよ勇者じゃあるまいに!?それとも実は勇者ですとか??勇者なんですか??!!まだ死にたくねーわ!!!!!」
それに対して堂々と声を揃えて胸を張って言い返した兄妹に対して男はさっきまでの堂々たる佇まいを崩して一息に捲し立て、最後に本音を叫んで脱力した。
「勇者?」
「ドラ〇エ的な?」
「〇ト?」
「あー、ゲームってヤツだよな、ちょっと興味あるんだが設備的に難しいってちげえよ!!」
「神話的なやつじゃない?竜殺しとか」
「バウバウ」
「ねーよ。竜殺しとかやちゃいけねえタブーだよ。おっかないわー。世界の理が捻じれるわー。勇者ってのは余計な事しくさる象徴だよな。ってちげくね?てかソレがまかり通る世界とか怖いわ!!ゲホッ」
?マーク飛び交う兄妹と分かっていてしらっと恍ける人外にどうも突込み体質らしいそのヒトは全力で突っ込み咽た。
紅達の目的としては話し合いだ。問答無用で出口を指されたのにはイラっと来たがいきなり攻撃してこないことは安心だ。後ノリも良さそうなので取りあえず落ち着いてから話に入る事にしよう。
一通り喚いて咽て冷静になったか、男はため息を一つ付いてからパチン!と指を鳴らす。すると紅達の前にふかふかの絨毯とちゃぶ台の様な足の短い机、その上には湯飲みと煎餅や饅頭が置かれている。
それに瞠目した紅達には目もくれず、男は王座ぽい物から降りて絨毯の上に座る。きちんと靴らしきものも脱いでいるので土足厳禁らしい。
胡坐をかいて煎餅を口に咥えた所で向かい側を顎で指されたので座れという事らしい。
一瞬どうしようか迷った如月兄妹を尻目にカレンは躊躇なくそこに座り、湯飲みをひと啜りして饅頭に手を伸ばした。
それを見た兄妹はアイコンタクトで席順を決めてそれぞれ座る。席順としては男の真正面にカレンその左に紅、右に藍、朱と並んだ。ケロは藍と後ろに寝そべり朱に尻尾をもふられている状態で落ち着いた。
そうして全員が落ち着いたところで男が口を開こうとして、
「如月朱だ!長男だぞ!」
如月家長男の元気のいい自己紹介に口を閉ざした。
「妹で姉の藍、こっちはケロちゃん」
「バウ!」
「初めまして末の紅です」
「付き添いのカレンです」
「・・・ダンジョンマスターだ。名前は忘れたからダンと名乗ってる」
我が兄が出鼻を挫いた気がしたが特に問題は無いようでダンさんは軽く頭を抱えながら自己紹介してくれた。
名前忘れるってどういう状況だと思わなくはないがそこは置いておこう。話したくない事の一つや二つ誰だって持って、
「何でダンは名前忘れたんだ?」
「忘れる物なの?」
「兄ちゃん姉ちゃん・・・」
確かに気になるけど聞いちゃだめだと思うんだけど?
「数百年単位で生きてっと色々忘れんだよ。誰も呼ばないし必要なかったし。だから忘れた」
「おふぅ、重い話だった」
「ダンじいさんなのか?」
「ダンおじいちゃん?」
「兄ちゃん姉ちゃんそれ以上だ駄目だと思うんだけど」
グイグイ行くなあウチのご兄妹様は、それ傷だったらどうするつもりなんだ?塩の塗り込みですか?話合いどころじゃなくなんねえ?てか何で普通に呼び捨てなの?
「爺だぜ、ただ死ぬ理由も意味もないから生きてんだよ。たまにここまで来るのとかは面白いの要るしそれなりに楽しいぜ。お前らみたいなのは正直怖いけど」
「何で怖いんだ?」
「何もしないよ?」
「勇者とかはこっちの事情関係なしに荒らして踏み躙って搾取して殺していくからな。妙に強い攻略者は要注意なんだよ。今回は殺されるかと」
「勇者ってなんだ?」
「悪いのヒトなの?」
「おーい。お兄様お姉さまそろそろ自重してな」
「「えー」」
「傷に塩良くない。あと話し進まない」
何気に答え難そうなことをバンバン聞いていく兄妹に俺は脱帽気味だよ。子供って恐ろしいなおい。俺もガキだけど。
興味津々な二人をケロと一緒に少し離れた所に追いやって自身はカレンと一緒にダンの前に陣取って座った。
「兄と姉が失礼しましたダンさん。しかし軽やかに話しますね。クリティカルでもない感じですか?」
「無邪気に聞かれると怒りずらいだろ。普通のガキはお前みたい冷静じゃねえよ」
「?俺も興奮、てか興味はありますよ?色々聞きたいし探検したいし実験もしたい。ダンジョンとかロマンじゃないですか!只今日は他に目的がありまして自重中です。根掘り葉掘りはまた今度で」
「結局聞くんか、まあいい答えたくないことは答えないからな」
「勿論です。で、今回の目的はですね」
そう切り出して目的を話す。
内容はまあこの間ダンジョン攻略を決めた時に思いついたのだ。それをもうちょっと煮詰めたやつな、だいぶ長生きみたいだから知恵があったら嬉しいな。
「ふむ・・・・・お前本当に子供か?」
「正真正銘の5才ですが」
「じゃぁ天災の類か」
「天才?子供なら神童じゃないんですか?」
「何でもない。んーにしても5年で法を変えるのか、無茶が過ぎねえか?」
「そうですか?変わる時って一気に変わるじゃないですか、波と言うか勢い作らないと難しいですし、何より俺がカレンと結婚するまでに少なくない数の実績が欲しいんで」
「お前最後が本音だろ」
「勿論です!!」
「怖いガキ」
ダンはボソリと失礼なことを言われはしたがそれでも知識は貸してくれた。
まず最初にすることは仲間を増やす事、これには俺も同意だ。ただその相手は一般人よりもさらに上、ヒトの上に立つようなタイプが良いだろうとの事だ。
例えば種族の長とか組織の長とか一国の王様とか群れのリーダーとか異常に交友関係の広いヒトとか、あとは誰もが無視出来ない地位か力のある存在とか果て神様を巻き込むのもありなんだとか、さすがファンタジー神様は巻き込めるものらしい。
次に種族を問わない組織の立ち上げ、これにも同意。理念の拠り所になる場所は必要だ。
ただこれは子供の俺にはどうしようもないので人脈が出来た後に適任者を見繕う方が良い。適任者は何人か候補がいるが説得は自分でとの事だ。
それはそうだな。ある程度同士作りが進んでからっと言いたいが、実は子供の俺には同士集めも結構辛い。なんせ子供だからと舐められるからだ。さらに言えば子供故に親からの制限もあって身軽に動けない。
見た目だけで言えば今カレンから幻術の使い方教えてもらってるから誤魔化せるし、上手くいけば数時間程度なら感触すら誤認させられる様になるだろう。しかしソレでいつまでも誤魔化せる訳がないのでやはり表立って動いてくれるリーダ―的なヒトが欲しいのだ。
だからダンの言う適任者を早々に味方を付けてそのヒトにその辺を丸投げした方が良いんじゃないだろうか?というのが俺の見解、組織のトップと俺の意見が一致なら特に困らないし、トップになったせいで動けないとか、手が離せないとかその辺りは俺が動けば良いしね。
「ってことで候補者に今から突撃してきます。居場所プリーズ」
「・・・はぁー、なああんたコイツの保護者だろ。何とかしろよ」
「保護者ではなく付添人だけど、まあいいわ。そして止めるのは無理よ?だって折れる気が無いんですもの。止めたって表面上は良いお返事でもして見えない所で行動するタイプよ。知らない所で無茶をされるくらいな見える場所で無茶してほしいわ」
「うわぁそういうタイプか・・・・ちっと待っとけ」
紅の見解を聞いたダンは嫌そうに顔をしかめながらカレンに振ったがカレンはソレにしれっと答えて茶をすすった。
その返答にさらに顔をしかめるもダンはため息をついてから横を向いて空をたたく動作をしてから茶をすすって大きく息を吐き出した。
「ダンさん幸せが逃げますよ」
「余計なお世話だ」
ケッといって煎餅をバリバリやり始めて三枚目辺りで紅達の後ろダンの正面にある大きな両開きの扉がバーン!!!と大きな音を立てて勢い良く開かれた。




