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遭遇

「取りあえず自己紹介ね。私はカレン、しがない人外でとある知人の頼みでミノタウロスの心臓を取りに来たの、短い間だろうけどよろしくね」

「おう!よろしくカレン。俺はこいつらの兄貴で如月朱(きさらぎしゅう)だ」

「真ん中、(あい)

「末っ子の(こう)だ」

「よろしく、朱、藍、紅」


 カレンの自己紹介に続いて三人も名乗る。


 ん?朱ってマッジク処の『シュウ』かって?そうだぞ、魔道具界そして宝石魔法界の革命男児って呼ばれてるやつだ。


 マジック処とは魔道具を売り買いする専門の店で店主の名前はシュウしかし本人は奥に引き籠って作るのが殆どで表には出てこない。

 表で店番をしているのはラミアの少女で警備員代わりのアラクネが店先で微睡み、魔道具の合間に付喪神がウロウロしている。っといった何ともアレな店だ。

 マッジク処は奇抜な見た目でありながら効果抜群と有名な店でもっとも有名なのが宝石魔法をその辺に落ちている石ころで再現できてしまった事だ。


 宝石魔法とは宝石に魔法を込めてそれを任意で発動させる技法で通常は込める魔法の属性によって使用する宝石の種類や質を変える。

 使用する宝石もそれ相応に加工が必要で魔道具屋とは切っても切り離せない、しかも発動するごとに宝石は砕け散るため大変金が掛かる魔法だ。本来であれば。


 マッジク処のシュウという男はその常識を打ち破ってその辺に落ちている何でもない石を宝石の代用品としてしまったのだ。

 曰く『宝石も所詮石ころ』と言い放ちその場で拾った石に爆撃魔法込めてダンジョン壁を破壊したらしい。


 只の木の棒でも壊せるんだから木よりも硬い石なら余裕だろ。って理屈の元に起こした現象で宝石魔法界と魔道具界に激震を走らせた男だな、俺の自慢のお兄様だぜ。


「三人は仲が良いのね」

「悪くは無いな!」

「普通」

「一緒に風呂に入れるくらいの仲だな」

「…仲が良いのね!」

「「「普通」」」


 一緒にお風呂が入れるって相当仲良いと思うんだけど?今も歩き疲れて足が遅くなってきた妹の手を引く良いお兄ちゃんに見えるけど?足が遅くなった妹の手を引くのは兄として普通?そう、仲が良いのね!


「ところでカレン」

「ん?何?紅」

「アレなんだ?」

「犬よ」

「わんちゃん!」

「お、デカイ犬だな!!」


 あらあら、さっきまで疲れてたのに今は大きなフワフワそうな犬を見つけてはしゃいじゃって可愛いわね。


「犬?」

「ええ、犬よ」

「毛が青いのに?」

「ええ、そうよ犬よ」


 例え毛が青くて首が三つあって人間の大人を丸飲みできるぐらいにデカくてお腹に開いた穴から黒色の血を流しながら辛うじて生きていようが犬なのよ。だって、


「地獄の番犬ケロベロスだからね!犬以外の何者でもないわ」

「番犬か成る程確かに犬だな。近づいて良いものなのか?」


 そう聞きながら目線を向ける先には兄の手を離してケロベロスに駆け寄る姉の姿、成る程確かに血の気が引く光景ね。でも心配する必要はあまりない。何故なら、


「ケロベロスは知的生命体だから襲ってこないのよ」

「そうなのか?」

「ええ、明確に心の底から傷つけられても良いって思わなければ大丈夫」


 殺す気の相手に殺されに行かなければ問題ない。見たところ二人とも殺される気がこれっぽっっっちもないから大丈夫だね。


「わんちゃん怪我してる?」

「うわ、痛そう」

「治す」


 威嚇の声を出すケロベロスを丸っと無視して怪我に手を伸ばそうとするが尻尾と右端の頭を降って手を遠ざけ唸り声を上げる。


「ガァ!!」

「わっ!」

「!びっくり、動かれると見えない」

「なら、動けないように押さえよう」

「どうやって?」

「力ずく」

「りょーかい」


 触らせまいと抵抗するケロベロスの正面に回った朱が両側の首の側面の毛を鷲掴み頭同士を押し付け合うようにして押さえ込み、いつの間にか後ろに回った紅が尻尾を鷲掴みその尻尾ごと足を押さえ込んだ。


 ・・・さっきまで隣に居たのにいつの間に回り込んだんだろう?っと言うか押さえ込みの方法と力加減にケロベロスから困惑と痛みの悲鳴が上がってるよ?治療するための押さえ込みだよね?止めじゃないよね?その首の押さえ方は落ちるよ?


 力業で大人しくなったケロベロスの右脇腹に藍が近づき傷口を確かめる。


「水筒使って良い?」

「いいぞ!」

「口付けてるから綺麗じゃない」

「むぅ、カレンちゃん水出して」

「ん、はい」

「ありがとう」


 水筒の中身を使おうとして紅の言葉に思い止まった藍はカレンの方を見て手を洗っていたときの水を出して欲しいと頼む。

 藍の言葉を受けてカレンは即座に周辺の水を集めて一度沸騰させ、温度を適温に戻してケロベロスの傷口に少しずつ掛ける。


「グルルルルゥ」

「我慢」

「あー、結構深いね。藍は治癒魔法使える?」

「小さいのだけ」

「使えるなら良いよ。大事なのはイメージ」

「イメージ…」

「そう、今から言うようにやってみて」


 傷口が深いなら中に余計なものが入ってるかもしれない。それを知りたいと思うこと、具体的には魔力を中で反射させて変な反応がないか調べる。正常が分からないなら正常と比べる。今は自分で良いよ。ついでにどこの血管から出血してるか調べようか。


 …血が出てる場所は分かる?うん、じゃぁ余計な物はないけど血の塊があるのは?

 …優秀ね。それに働きかける。破れた血管を繋いで魔力の糸で細かく縫うイメージ、そう。漏れてこないか確認して、大丈夫ね。

 次に血の塊の処理、血に魔力を送って自分で出てきてもらうようにイメージして…そう上手、もう無いね。次は内臓の確認、血が出てないか、不自然な形はないか。

 …そう、特に問題はない。合ってるよ。これで内臓の無事が確認出来た。次は外傷をふさごう。

 筋肉はたくさんの筋の塊だ。今はそれが千切れてズタズタ、それを整えてもとの流れに戻して繋げる。

 そう、自分と比べるの。でも相手は人間じゃないから模倣はしないように、四つ足動物と二足歩行じゃ違うからあくまでも参考ね?

 そうよ。筋が整ったら皮膚をくっ付ける。ここは人間と同じで良いよ。


「うん、上手、ちゃんとくっついた。傷口も分からない」

「おわり?」

「うん、よく頑張ったね」

「おー、藍すごいな!治った!」

「中々ハードな事させてた気がするが上手く行ったな」


 はじめての事をぶっつけ本番でやらせると言う暴挙ではあったが藍は成し遂げた。

 その方法は今では当たり前の様に使われる医学と治療魔法の融合だ。


 統一前の世界では治療魔法は治癒魔法、医学は医学と分けられていた。しかし世界統一が成されてから魔法の概念がなかった世界の医者が治癒魔法に興味を持ちソレを身に付けた。

 人体の知識がある状態で魔法を使うことによって明確に何処をどう直して良いかが解り治療効率が上がった。

 それにともない医療の世界では外傷をただ治すだけなら治療魔法で行われることが多く、医学部では必須科目の一種にもなされた。


 勿論医療魔法が使えない者や場所、場合も有りうるので魔法を一切使わない治療方法も必須だ。

 治療魔法は外傷を治療する際はたいへん便利だがソレ以外のウィルス性の病気や老化による弊害、手術による摘出を必要とする病気にはあまり効果がない。

 なので今日の医学会では技と術を適材適所に使い分ける技術が求められる。

 今回藍はその最先端の技術をぶっつけ本番でやり遂げたのだ。やらせる方もどうかと思うがやり遂げる方もどうなんだ?と思わなくはないがたいへん尊敬に値する行為である。


 あ?アイは沈黙天使アイかって?そう言えばそんな呼ばれ方してるな。死人すら生き返らせる人間とか聖母とか聖女とか菩薩とか言われてるな。


 怪我も病気も黙って治し、うるさい患者は黙らせて治し、喚く外野は黙殺する。

 天使族をはじめとした治癒魔法の使い手を率いて治療し、退院した患者は晴れ晴れとした笑顔で送り出す治療魔法の使い手として有名だ。


 実際には治癒魔法専門じゃないし得意でもない。どちらかと言うと場を回すのが得意な人で、繁華街から離れた静かな場所に大きな病院型の迷い家を置き、そこを拠点として医療ホスピタルの経営者的なものをしている。

 そこでは天使以外にも神や妖精、精霊、悪魔、夢魔、ドラゴン、吸血鬼、スライム、オーク、死神等々…様々な種族の就職先となっている場所だ。

 表に天使を出すのはその方が体面が良いのと患者の精神安定のためだ。だって病院に来て死神に迎えられたら色々問題があるじゃない!!とのことである。


 兄ちゃんと協力して効き目抜群のポーション作り出したり、コンパクトな医療器具入れを作ったり、ポプリやアロマキャンドルを製作販売して生計を立ててるな。


 何で菩薩とか聖母とか言われてるかと言うと種族問わず、目の前で倒れているヤツを介抱するお人好しなせいで一癖も二癖もあるヒトに好かれたせいだな、本人じゃなくて回りのレベルと常識がおかしいことになってる。俺の優しく聡明な自慢のお姉さまだぜ。


 とまあ、俺の兄妹紹介は良いとして、


「グル?」

「痛くない?」

「わふ!」

「ふふ、くすぐったい」


 怪我が治ったことに気づいたケロベロスは藍の言葉を肯定する様にひと鳴きして三つの首それぞれで藍を舐める。

 何も知らなければ食べられるのではないかと慌てるところだがこれはお礼と言うか、懐かれたのか?


「もふもふ」

「あ、俺ももふもふしたい!」

「グル」

「お、いいのか?やった!もふもふ」

「あれ二人とも猫派だろ?」

「「もふもふは正義」」

「もふもふの前には猫も犬も関係ないか、俺も撫でたい」

「わふ!」

「んじゃ失礼して、もふもふだ」

「えーと、しばらく休憩ね」

「「「はーい」」」


 まあ治療で疲れただろうし、そもそもずっと歩き詰めで疲れてたし丁度いいかな?

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