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初対面

 ミノタウロスの胸に突如生えた白い手は掌を上にして紫色の液体を滴らせている。その手の中には一定の速度で脈打つ『何か』、それが何であるのか認識したからかミノタウロスは口から血をこぼし、戦斧を取り落として膝を地に着いた。


 巨体が膝を着いた衝撃で地面が揺れ唖然と成り行きを見ていた子供たちはたたらを踏んだが、緊張を保ったままミノタウロスの向こうを見る様に構える。

 だって、まだミノタウロスの胸からは手が生えているのだ。ならそこに何かが居るのは当然だ。

 固唾をのんで見守るその先で手は後ろに引かれ巨体は完全に支えを失い前のめりに倒れこむ、今度はその衝撃に足を取られる事なく衝撃をいなし、巨体の向こう側を見やった。


 そこには一人の女性が居た。

 黒地に銀の蓮紋様が入った着物に金糸が織り込まれた赤い帯、白い地に炎が纏わりついたかのような柄の羽織を肩に掛け、真っ白なベールで顔を隠した人だ。


 その人が持ち上げたままの右手の上には先ほどよりも弱いが未だに脈打つモノ、即ちミノタウロスの心臓を持っていた。

 彼女は左手で袖下から取り出した瓶にその心臓を詰めて封をし、瓶から手を離す。すると瓶は落ちる事なくその場に停滞した。

 停滞したままの瓶の栓に何かの紙を張り付けて元の様に袖下に仕舞い。血の付いてない左手を軽く振るうと水玉がその場に出来、その水で手を洗い血を落とすともう一度軽く手をふるって水玉を消した。

 そうして、ふと顔を上げたその時、目があった気がした。

 その時の衝撃は筆舌に尽くしがたかった。

 頭は真っ白になり動悸が激しくなる。そして目の前のベールの女性から目を離せなくなった。

 そんなこちらの事など知らぬ女性はカクリっと首を傾げしばしの沈黙の後、


「・・・・・・・・・・・・・こども?」


 そう呟いた。そうして数秒間子供たちを眺めてから今度は逆に首を傾げ直し、


「迷子?」


 そう問いかけた。


「いな!!違うぞ!」

「目印あるし糸もたらしながら、迷子じゃない」


 そう、俺達には迷宮攻略アイテム帰り道を教えてくれるどこまでも伸びる糸が、


「・・・このダンジョンの内部構造は一定時間で変わるから目印も糸も意味ないと思うよ?」

「「なんっだと?!」」


 使えないだなんて!!


「くっ、なんて裏切りだ」

「糸をたどれば帰れると思ったのに」

「あーアリアドネの糸方式か、普通なら使えるんだけどここは動くから意味ないんだよね。災難だね」

「あ、私たち迷子になった」

「あ」


 妹の一言に自覚してしまった。そう、自分たちは糸を辿れば帰れると思っていたが、それは目の前の女性により否定された。勿論彼女が嘘をついていて普通に糸を辿れば出れる可能性もあるが、それは無いだろう。

 なんせ今気づいたが歩いてもいないのに糸巻きから糸が出ているからだ。


 俺の造ったいくらでも伸びる糸は下に落とした瞬間、下に同化するようにで出来ている。なんせ落ちてる糸に足を引っかけて妹が転んで頭を勢い良くぶつけたからだ。ほんとあの時はどうしようかと思った。

 そしてそれがトラウマになったのでので絶対に引っ掛らない様にしてある。


 なのでその辺を徘徊しているモンスターに引かれて伸びているわけではない。なのに伸びるという事は伸びる必要があるという事で、要するにどこかで引っ張られているのだ。

 その事から考えて彼女の言っていることは嘘ではないだろう。つまり、自分たちの現在位置が不明である。

 気付いたことに気付いたのだろう。ベールの女性は困ったような雰囲気を出しつつも提案をして来た。


「初対面だけど私は帰り道分かるし一緒に出る?」

「う、知らない人に付いて行ってはいけません」

「・・・たとえ名前を名乗ってもしょたいめんはきけんです」

「「う゛ー」」


 学校の教えは偉大なのだ。どうしよう。

 というか、


「紅、さっきからだんまり」

「確かに、どした?」


 そう、さっきから弟がしゃべらない。目の前の人が怖いわけじゃなさそうだがなした?


「・・・ぃ」

「「?」」

「結婚してください!!」

「「「は?」」」


 この時ベールの人と俺たちの心は一つになった事だろう。『行き成り何言ってんだコイツ?』っと、それ位弟の言葉は唐突だった。


「紅?」

「一目惚れしました!結婚してください」

「え、あの」

「白く細い手が可憐です。首を傾げる仕草が可愛らしいです。初対面の俺らを気遣って下さる心根が美しいです。ドストライクです。好きです!」

「あ、う」

「おーい。紅」

「あ、結婚は年齢的に難しか。今の法律だと12年後か?とにかく俺が18才になったら結婚して下さい」

「おい弟よ」

「それまでお付き合いという事で「しずまりたえー(バキン」ぎゃ!」


 怒涛の勢いで口説いて言質を取ろうとする紅を止めたのは姉だった。声を掛けても無駄だと判断したのかその頭に勢いよくチョップをかましたのだ。いい感じの棒で・・・それダンジョンの壁を破壊した武器だよね?大丈夫?


「いっっったーーー!!!何すんだよ姉ちゃん!」

「お、大丈夫だな。お前が止まらないからだぞ紅、そんな行き成り言って結婚できる訳ないだろ」

「そう、手順がある」

「手順?」

「「惚れてもらわないと」」

「成程!」


 そういう問題じゃない!っと突っ込みを入れるべきなのだろうがそんな人物はいない。何故なら突っ込むべき兄妹は盛大に紅を後押しするつもりだからだ。

 もう一人の突込み可能なプロポーズされた本人は紅の言葉に一瞬呆けた後、何事もなかったかのようにスルーする事に決めたらしいので突っ込まない。突っ込んだら藪蛇。


「おっほん。脱出の件は一緒に行動するで良いかな」

「あ、はい」

「はい」

「おねがいします」

「初対面の私を信用するのは難しいと思うけどそこは私に気を許さない様にすれば大丈夫よ」

「「「?」」」

「今この世界では知的生命体は知的生命体を害せないから」

「「「??」」」


 えーともうちょっとかみ砕いてお願いします。

 三人の頭の上に?大量に浮かんだのが見えたのか、ベールの女性は少し悩んだ後にもう一度口を開く。


「えーと、つまり話せる人は許可なく他人に痛い事や酷いが出来ないんだ。だから私に気を許さなければ世界が君たちを守ってくれる」

「そうなの?」

「うん、そうなの。本当にそんな世界になってるの、だから君たちは私が危険だって思っていて、そうすれば君たちは大丈夫」


 そう言って彼女が笑ったのが分かった。初対面のしかも出会って数分も経っていない人の見えない表情が何故分かったのかは分からない。

 また、顔の見えない彼女を何故すぐに信じたのか、それも分からない。しかしこの時兄妹は誰も彼女を疑っていなかった。

 紅に関してはこの時すでに惚れてたしな。そう、この時であった女性が、


「取りあえず自己紹介ね。私はカレン、しがない人外でとある知人の頼みでミノタウロスの心臓を取りに来たの、短い間だろうけどよろしくね」


 如月紅の最初で最後の女性カレンだったのだ。

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