興味
始まりは世界統一から一週間たったある日だ。
周囲は唐突な変化に戸惑い右往左往していた。なんせ今まで話の中にしかなかったヒト達がそこに居るんだ。好奇心に刺激され話しかける者、恐怖しおびえて逃げ惑う者、中には早々に自分たちが術を扱える様になったと気付いた者も居た。
そんな混乱が渦巻くあの頃、俺たち家族は避難所に避難していた。まあ普通の対応だな。
何が有るか分かんないし、何が危険で何が安全かなんて分りもしない。でもいつまでも籠ってはいられない。そんな不安が何となく周囲に漂っていたが、俺はその頃統一時に突如町中に現れた塔に興味津々だった。
それは今で言うダンジョンだった。白亜の塔は入り口は一つで四方にそれぞれ一つ窓があってソレが縦に等間隔で並んでおり、塔の先端は雲を突き抜けて先が見えなかった。その塔は何も分からなかった当時からしたら不気味の一言だった。
ん?今と見た目が違う?当たり前だ。ダンジョンを弄れる奴に言って見た目を変えて貰ったからな、そんな雲を突き破るデカい塔なんぞ邪魔だろ。影が出来るし飛行物が気を遣うし有翼種にも不評だ。
そもそもダンジョン内は空間が捻じれてるんだから外見を伸ばす必要が無いんだよ。アレはただの見栄えだ。だから今の大きさに落ち着かせた。あの大きさなら極端な影が出来ないし普通に上を通過できるからな。
あと今の石レンガになったのは雨風で汚れるからだとさ、白いとすぐに汚れが目立つからって自主的に変えたらしい。自動洗浄機能でも着いてれば話は違ったんだろうがそんなものは無いんだと、多分元の世界だと空気が綺麗で雨に塵や埃があまり含まれてなかったんだろうがこっちは科学の進歩で空気が汚れてるからな、数回の雨ですぐに汚くなったんだとさ、だから汚れの目立たないグレーの石レンガ製にしたらしい。
っと今はそんンダンジョンあるあるはどうでもいいんだよ。
つまり昔のダンジョンは白亜の巨大な塔でさ俺の好奇心をそれはもう刺激したんだ。そんでもって俺はその当時5才で好奇心旺盛なお年頃でな、しかもダメと言われると余計にやりたくなる困った年頃だった。
ん?今も変わらない?はっはっは、良い意味として受け取っておこう。好奇心旺盛なのはいい事だからな。
まあもう予想は付いてると思うが、好奇心が抑えられなくてな。両親にも兄ちゃんにも姉ちゃんで内緒で塔に行こうとしたんだ。
そう、“行こうとした”だ。いや、行けなかったんじゃない。行ったぞ?ガッツリと中まで入った。ただ一人じゃなかったんだよ。
ふっ、蛙の子は蛙だし、オタマジャクシが蛙になるのが必須だな?
いや、オタマジャクシが鳥になった事例は聞いてないから。あとあれはオタマジャクシに見えただけで実際には水鳥の雛だったんだろ?
とにかく!俺は一人でダンジョンに行ったんじゃない。兄ちゃん姉ちゃんと一緒に行ったんだ。
※ ※ ※
決行は夜だ。だって大人に見つかったら止められちゃうじゃないか。
あんな面白そうなものを前に止まれなんて無理だって!まあ兄ちゃんと姉ちゃんに見つかったのには驚いたけど一緒に行くって、こういうのアレだろ?同じ穴のムジナッて言うんだろ?この間本で読んだ。ところでムジナってなんだ?今度調べよう。
兄ちゃんセレクトの冒険の準備は完璧らしい。
ライトと巾着に入ったお菓子、水筒に入ったジュース、糸、チョーク、あつい服、いつもの靴、いい感じの棒!
「準備まんたん!」
「兄ちゃん準備ばんたんだよ」
「あれ?」
勢い良く宣言しているが言葉が違うぞ兄ちゃん。多分汚名返上と名誉挽回みたいなノリの間違え方してる。
「おかしいるの?」
「お腹すくじゃん」
「ごはんの方がいっぱいになるよ?」
おっとココで冷静な姉ちゃんがボソリと正論を口にした。そうだなお菓子は美味しいけどお腹には溜まらないからな。
そしてこの流れなら言える!
「ジュースも喉かわくよ?」
「えー、じゃあ何もってくの?」
「おにぎり」
「お茶」
「普通のえんそくっぽい。シートとあまぐも持っていく?」
遠足ではないと思うだけど、あとなんでその二つなの?
「室内だから」
「要らないと思う」
「じゃなしで、もうほかはない?」
うーん、多分色々と足りない気はするけどそんなに長く入るつもりもないし、
「良いんじゃん?」
「うん、すこしみてかえってくる」
「面白そうならもっと準備しておく入ろうな!」
「「うん」」
「よし!しゅっぱーつ!」
「「おー」」
という訳で子供たち三人はお菓子をおにぎりに、ジュースを麦茶に変えて避難所から出て塔の前まで移動を開始した。
避難所を出て塔に行く道すがらにたくさんのひとがいた。ネコみたいな耳の大人と小太りな大人、羽が生えた天使みたいな大人とか居たけど誰にも見つからずに塔の前まで移動することに成功した。やったね。
あとは、
「こっそり入るだけ」
「兄ちゃんは口にチャック」
「コクリ」
塔の出入口には扉が無い。その入り口から少し距離を開けてバリケードが張られ、そのバリケードを背に不安そうに前と横を向いて立っている人間の見張りが4人いる。
人間は、どうあっても意識の空白というものが出来る生き物だ。しかも見張りという単純な作業委は得てして気が弛んでしまう。ソレがたとえ未知の塔の出入口であってもそこにバリケードが有るっという安心感もから気が弛むのは必須、しかも素人の見張りなど気休めでしかない。
そんな気休めでしかない見張りの意識の隙を見つけて三人子供は軽やかにそこを通り過ぎて行った。
そうして入った塔の中は暗くなかった。
ぼんやりと壁が光ってる。これならライトはいらなかったかも、次からは抜いて来よう。その分食料とか武器とか持って来たい。
「明るい」
「コクコク」
「あ、兄ちゃんもうチャックいいよ」
「ぷっはー!面白そうな感じだな、どこまで行く?」
「うーんおうふくで二時間、それ以上は母さんに見つかるからムリ」
「「あー」」
うん、あの人は最強だと思う。今日も良く抜け出せたなあって思ってるし、寧ろ見逃された?一週間避難所に籠りっぱなしでイライラしてたの見透かされたのかな?
なら尚更ケガしないように帰らないと、次は見逃してもらえない。
中が入り組んでいる可能性を考えて出入り口付近に糸の端を設置する。この時見張りから見えない様に糸にちょっと工夫する。うん、多分バレない。
分かれ道ではチョークで目印も書く、糸とチョークは迷宮探査の基本らしいからな!
兄ちゃんを先頭に姉ちゃん俺っと並んで俺が糸を垂らし兄ちゃんが目印を残しながら進む、途中で階段もあったが今回は登らない、下手に登ったら時間内に帰れなくなるからだ。場所を覚えて次の機会にしよう。
「なんで上にしか行けないんだ?」
「上に伸びてるからじゃない?」
「ちか室とかあってもいいじゃん!」
「うーん」
確かに上るばかりじゃ詰まんな、
「ここほかとちがう」
真ん中に居た姉ちゃんが唐突に壁の一カ所を指してそう口にした。
「かくし部屋?」
「「!!」」
その発想はなかった!流石姉ちゃん!!
言われてみればその壁は他とちょっと違う。軽く叩いてみても音が軽い。コレは古典的な空洞の証!!そうと決まったら壁を開ける方法を探さねば!!
此処だけ違うならここが入り口の筈!!
5分後
「うー、あけかた分かんない」
「ここが入り口だと思うんだけど・・・」
「・・・こわす」
「「さんせい」」
今から思えば単調だが開かないし時間ばっかり過ぎるせいでイライラしてたせいでそんな端的な方法を取ってしまった。ダンジョン主には申し訳なかったと反省している。後悔はしてないがな!!
兎も角その時俺らは姉ちゃんの意見を採用し壁を壊すことにした。
ドンガラガッシャーン
「ふー、壊れた」
「さすっが俺のいい感じの棒!」
「道ある」
兄ちゃんセレクトのいい感じの棒はその威力をいかんなく発揮してダンジョンの壁を壊しその奥のかくし通路が姿を現した。
ん?なんでいい感じ棒で破壊不可とまで言われる超硬度なダンジョン壁を壊せるのかって?それはな、その棒が魔力をたっぷりとこめたダンジョンすら砕く硬度と鞭並みの柔軟性を帯びた兄ちゃん特性のマジックアイテム『いい感じに仕上がった棒』だからだ!
・・・うちの兄ちゃんは理数系で細かい作業が得意でな、統一直後に術が使えるって発見してから子供特有の発想を利かした発明をしまくったんだよ。
え?なんでそんな早くに分かったのかってそれは兄ちゃんがお年頃だったからだよ。ファンタジー小説片手に呪文唱えるのとか一度はやらない?丁度そんなのやってた時だったんだよ三人で、ほらライトノベルの金字塔と有名な某ラノベとか流行ったし、ファイヤーアローって言いながら手をかざしたらなんか出た?!ってなったんだ。
その瞬間俺らの性格が出たな、兄ちゃんは魔道具とか作れないかなってその辺の棒とか着てる服に色々し始めて、姉ちゃんは足の擦り傷治したりケガしない様にできないかなって自分の足に集中し始めて、俺は空き缶を撃ち抜き始めたんだよ。
そうして出来たのが『いい感じに(仕上がった)棒』『(防御力の高い)厚い服』『(早く歩ける)いつもの靴』『(いつまでも伸びる)糸』『(いくらでも書ける)チョーク』『(たくさん入る)水筒』『(中身が腐らない)巾着』だ。
チートと言ってやるな、子供の発想力が故の勝利だ。ありったけの魔力で『こうしたい』って念じながら弄ったせいで理屈を捻じ曲げて出来ちまったんだ。込められた魔力が膨大なのせいで強度も上がってたから今でも使えるぞ、まあ今から見れば本当魔力効率が悪いガラクタだけどな、当時9歳児が作るには出来過ぎた逸品だった。
んでもって姉ちゃんはヒーラー、医療知識なんざないから多分自然治癒能力を上げるタイプだったんじゃないか?小さい傷を瞬く間に直してさらにケガしない様に結界張ってた。それも理屈とか分かんないから取りあえず肌の上に結界を着るような感じ?転んでも階段から落ちてもケガしないようにしてたらそうなったらしい。
で俺は普通に撃ちまくった。後ろからバンバンと火を飛ばしたり風飛ばしたり氷飛ばしたり、当たんないのが癪だから当たる様にどこに何が有るか把握できるように試行錯誤した結果、めっちゃ当たる様になった。多分空間認知機能を鍛えてたんじゃないか?今は意識しなくても当たるから良く分からんが。
で、そいつらが自重も無しにいろいろ持ち寄って探索に出かけました。どうなると思う?
「これぞ正にスライム!!」
「顔にかかったらできし」
「よし、蒸発させよう」
ジュッ!!
「ゴブリン!」
「くさい」
「凍れ!」
バキン!!
「骨が動いてる!」
「何でつながってるの?」
「粉々になれ!!竜巻!!」
ビュン!!
「よろい着たブタ?」
「ブタが立ってる」
「鎧の中で爆ぜろ!!」
バン!!!
ハッキリ言おうオーバーキルも良い所だった。
なんせ近づけない様に魔法で一掃し、近づいても結界に阻まれ攻撃は当たらない。逆に破壊不可とまで言われるダンジョンの壁を破壊する棒で滅多打ちだ。何と言うか10歳未満のお子様たちには容赦がなかった。
次々と現れるモンスターをサクサクと躊躇なく倒して突き進んでいった。
しかし物事には限度があった。
「もう引き返す時間」
「えー」
「しょうがない」
「うー、分かってる。疲れたしまた来よう」
「ん」
「じゃ戻ろう」
そう、本人たちが定めた制限時間が迫っているのだ。一時間と少しでだいぶ暴れはしたが所詮子供、疲れ始めていたのもあって帰る事に異論もなく、子供たちは踵を返し糸を辿りはじめる。
はずであった。
「あ?」
「?」
「なに?」
踵を返した先には一匹のモンスター。
ソレは今までとは明らかに違った。
ソレは一言で言うなら二足歩行の牛だ。しかし想像する様な黒と白の牛でも茶や黒の牛でもない。
金色の眼と黒に近い青い体を持ち蹄と二本の角は漆黒、手は人間と同じように五本の指があり長い身の丈ほどの黒光りする戦斧を持っているそれは俗に言うミノタウロスと呼ばれる種であった。
「GuRaaaaaaaaaaaaa!!!」
筋肉隆々の体に無数の古傷を負いながらもその様は百戦錬磨の戦士、ソレが上げた雄叫びは強く、雄々しい覇気を持っていて子供たちの体を竦ませのに十分すぎる位であった。
「っ!」
「!!」
「くっ!」
彼らの潜在能力が高かろうが所詮は何の訓練も受けていない子供だ。強者から与えられたプレッシャーを上手く受け流す術など持ち合わせていない。
故に今までと明らかにレベルの違うソレに三人が動きを止めるのも無理からぬことであった。
しかし、しかし戦場でソレはあまりにも致命的だ。その一瞬の硬直は即座に死に繋がる。故に、三人の命はそこでミノタウロスに潰される。
本来であれば、
「Ga?!」
助走をつけて三人に飛び掛かろうと身構えたミノタウロスはしかし一歩も踏み出すこともなくその雄叫びを途切れさせる。
「「「?」」」
雄叫びが止み体の硬直が解けた三人は不思議に思いその巨体を見る。
ミノタウロスは目を見開き、自身の胸を凝視していた。その目線の先に目を向けると、そこには白く細い手が生え脈打つ何かを持っていた。




