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昔々でもない話をする前に

 ある日の事。


「ふと思ったんじゃが」

「ん?」

「渡し屋ギルドはどうやってできたんじゃ?」


 現代初心者、エーデルワイド・スリンプ・アンドロダスは万屋本部の二階に自己制作の服を複数点卸し、ついでに一階の食堂で食事をし、更についでに三階の会議室にて自身とつながりのある先輩渡し屋たちと一階での食事の時に出会った先輩、即ちリーダー、副リーダー、影、カロン、アリス、緑の魔女との交流中に素朴(?)な疑問を口にした。

 その疑問に対する答えは、


「「「「・・・・・・・」」」」


 上記の通り誰もが沈黙してエーデルワイドから目をそらし、合わない様に明後日方向に顔を向ける。といったものだ。


「んん?」


 あまりに不自然な周囲の反応にエーデルワイドは首を傾げ、唯一顔を背けずにいたカロンへと顔を向けた。


「どうしたんじゃ?」

「さあ?俺も渡し屋ギルドの創設話は知らないかな」

「そうなのか?」

「ああ、俺は5年前からで創設は10年ほど前だって聞いてる。世界統合後1年未満に出来たらしい」

「ふむ、ずいぶんと迅速じゃのう」

「ああ、詳しくは知らないが、確か中々に壮絶な騙し合いと駆け引きの皮をかぶった勘違いによる国盗り(未遂)だったと聞いたが」

「かんちがい?」

「なぜか思惑と別方向に勘違いされていつの間にやら政治のど真ん中に置かれかけたのをなんとかギルド創設に落とし込んだらしい。創設当初のメンバーに聞いても詳細は話してくれねえんで知らねえが、色々あったらしい」

「ほう」


 つまり今顔をそらした者たちはその創設当初のメンバーかそれに近しい者達なのだろう。そこまであからさまに黙りこくられると寧ろ聞き出したくなる。

 その考えはカロンも同じなのか二人は目を合わせる。


“聞き出そう”

“そうしよう”


 目だけで会話した二人は頷き合い。目線を合わせようとしないメンバーに声を掛けようとしたその瞬間、


「説明して進ぜよう!!!」


 バーン!っと大きな音を立てながら扉を開いたのはこの場に居なかった先輩である如月紅とその後ろから当たり前のように顔をのぞかせるカレンだ。


「如月、扉が哀れな姿になっとるぞ」

「ん?ああ、悪い悪い『戻れ』はい終わり」


 唐突に表れた紅に驚きつつも勢い良く開けられたことにより木片となった扉を指さしてエーデルワイドが指摘すると、紅はそちらを見てしまった。といった顔を一瞬した後何の苦もなく時間を操作して扉を元に戻した。


 ・・・この間まで時間操作難しいとか言ってなかったか?今呪文も解析も計算もなく適当な簡易術を言葉に込めて放っただけで木片を数秒前に戻した気がするのじゃが?


「特訓のせいかねぇ。ガラス容器を犠牲にしたかいあったわ」

「カレンの手製ガラス容器を目の前で砕かれて直せって言われた時のあの絶望よ。直すしかないよな」


 おふぅ。愛する女性の捨て身(?)の特訓かそれは直すしかない。習得もするはずだ。

 確か我も時間操作を習得したきっかけは我が子が大切にしていた人形を直すためだからな。うん、分かるぞ、愛はときに実力を超える。

 更にはあの子が摘んだ花を枯らさない為に永久時間停止を覚えたりもしたな懐かしいのう。


「紅」

「なんです?副さん」

「説明は構わない。しかしこっちに振るな、巻き込むな」


 にこにことそれはもう見惚れるしかないぐらいに綺麗な笑みを浮かべた副リーダーは驚くほどに怖い。

 多分染み出ている黒い空気と冷気のせいかな、うん。美人が起こると本当に怖いのう。

 副リーダーの隣に居るリーダーが腕を摩りながらきょろきょろしているが出所はあんたのお隣じゃ。首を傾げるんじゃないぞい。


「うっかり機密とかペロるかもしれないんで居た方が良いと思が?」

「ペロらない。細心の注意を払ってくれ」

「大丈夫です。お茶の準備は万全です」

「お茶菓子もあるわよ」

「・・・なんで準備万端なの?」


 流れる様に話を聞く場を整える紅と何処からともなく取り出したお茶セットで入れた紅茶を入れるカレン、入れられたお茶は各々の目の前に重力魔法で運ばれている。


 この魔法で運ぶという動作、何気なくやっているが実は呆れるほどに繊細なコントロールが必要だ。

 まず第一に重力を操る魔法は難易度が高い。

 時空や時間ほどではないが扱いが難しい上級者向けの魔法で下手をすると術者の重力があべこべになって建物の側面に叩き付けられるか、魔力切れを起こして地面にたたきつけられるか、空に落ちてそのまま大気圏を突き抜けてしまうかのどれかだ。

 そんな繊細なコントロールが求められる上級者向けの魔法である重力操作を自分でなく無機物に掛け、尚且つティーカップを揺らすことも傾けることもなく、過度に持ち上げずに緩やかな速度で目的の場所まで運び、音を立てる事なく目の前に置く、数センチ動かすだけで頭が茹りそうな程に処理が掛かるその作業を一度に全員分同時に行っている。・・・ちょっと意味が分からない。


 カレンのその神業的な操作を見た直後に少し速度が速く、音を立てて着地した紅が操作する茶菓子運搬には少しほっこりした。

 ほっこりはするがやってることは荒っぽいだけで同じなのでやっぱり意味が分からない。こいつら何でS級じゃないんだろう?


「語る機会が来る!!っと啓示が降りたからだ」

「紅が用意してくれって言うから」

「そんな啓示忘れてしまえ・・・」


 ゲンドウポーズで項垂れる副リーダーをよしよしと撫でて慰めているのはリーダーだ。

 副リーダーの髪を乱さない様に髪の流れに沿うように頭を撫でている。なんだか良く分からないヒトではあるが撫でている本人が幸せそうなのは分かる。

 しかしさっきから喋らないなこのヒト。


「リーダーあの子止めて」

「✖」

「なんで?」


 身振り手振りでの副リーダーとのやり取りを見るに、こうなったら止まらない。と言っているらしい。

 なんで喋らないんじゃろ?


「あら?リーダーは本日喋れない日?」

「〇」

「しばらくなかったのに災難だな」

「コクリ」


 喋れない日、それはリーダーに偶に起きる現象で声が一切出ない日の事だ。どのぐらいの頻度でいつ発症するのか、理由も詳細も共に不明。詰まる所すべてが不明となっている現象だ。

 本人曰く体調が悪い事もなく、何処かが痛むこともない。声を媒体にしなければ魔法も使えるし、肉弾戦も普通に可能で精神面に影響もない。

 声が出ない以外に困る事が無いので普通に通常運転らしい。その証拠に本日も絶好調に何だかわからない掴み処のないヒトだ。声が出ないのに会話が可能なほどにボディーランゲージが上手い以外の発見はない。


「んじゃ渡し屋ギルドの創設、及びパーティー万屋の創設話を始める」

「あ、因みに部屋に結界を張ってあるので終わるまで出られません。入れはします。あと張ったのは私じゃないから解けないよ?」


 通常結界は張った本人が解く、偶にこんがらがり過ぎて解けない事もあるが結界を張った本人は大体解ける。

 他者が解く場合はその結界の成り立ちを知らなければ解けない。どんな目的で作られどんな役目でそこにあり、どんな手順を踏んで構成したのかを詳細に割り出して逆算的に解く。

 あとは無理やり破壊する方法もあるが、それをした場合中のモノが無事では済まない可能性が高いので普通はやらない。


 そしてこの部屋に結界を張った紅は誰ひとり逃がさん!!っといった具合に気合が入っている。しかも本人によると今日は最初っからこの場で話をする気で用意してきたようなので結界も念入りだ。

 副リーダーが絶望顔で項垂れていることからもう察しが付く、そんなに強固な結界なのか。


 唯一話合いで解かせることができるカレンに至っては『紅がやりたいなら良いんじゃない?』精神で放置するらしい。

 紅茶と茶菓子を片手に取り出した本を読み耽っている。

 読書しながら片手間に重力操作をおこなってお茶のお替りやら茶菓子の補充やらを行っているんだが、本当にその状態で本が読めているのだろうか?


「これだと壁にめり込む?もう少し出現場所を特定させないと・・・」


 『瞬間移動の概念』を片手にぶつぶつと呟いているので集中は出来ているのだろう。

 ・・・これだから天災は。

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