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普通に生まれて当たり前に育ち、極々平凡に日常を生きる。  作者: 梓川 由紀
面倒な予感・・・
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試験

 目を瞑り深い呼吸をする。

 深く息を吸い込む度に外を把握し、深く息を吐き出す度に自身の内側を俯瞰的に視る。


 エーデルワイド・スリンプ・アンドロダスは封印から目覚めて日が浅い、なんせ解かれた翌日なのだから当たり前だ。

 そして封印から解き放たれたモノは本来であれば色々な部分に不具合が生じる。それは封印という行為が危険因子を隔離するために用意られるからだ。

 しかし彼女の封印は対象を痛めつけたり弱らせたりするタイプではなく相手を諫め眠らせる封印だったため体や精神への不具合はなくいたって健康で解かれて直ぐにソニックブーム巻き起こすぐらいには元気であった。

 それでも何百年も続いた封印はそれだけで中身に影響を与える。故に彼女は万全ではない。


 しかし、


「10歩先に結び目を確認、解析・・成功、空間魔法の一種と断定、術の解除作業を開始・・・・・解除に失敗、しかし術の収集に成功、術を解析・・・成功、解析に成功した術を応用して再度結び目を解除・・・成功」


 深い呼吸を幾度か繰り返したエーデルワイドはその目を開き、その場を見透かす。美しいルビーの瞳が魔力を宿して爛々と輝く様は高密度の魔力を完璧に制限していることのあかしだ。

 魔力を宿した瞳は高位の隠匿が施された術を見つけ出し、自身の持つ知識でその術を解析し系統を割り出し解除を試みる。

 一度は失敗するもののその過程で得た情報から術その物を解析しなおして逆算的に解除方法を割り出して解除に成功してみせた。


 解除した途端にガラスを割ったような甲高い。しかし不思議と不快感を感じさせない音が鳴って廊下をループさせていた術が解けたことを知らせた。


「へえ、凄い」

「うむ、この位はわけない。これでも我は純血種だからのう。それ相応の実力はあるぞい」

「空間に作用する術は古今東西。力の消費が激しくて制限が難しいせいで高難易度術に指定されているけど、アンさんは普通に手が出せるのね」

「うむ、我は魔法に長けておるからのう。空間魔法は我の時代でも扱いの難しい魔法であった。我であるから使えるっといった認識をしている者居ったし、それを間違いだとも言えん位には難しい。理論上は瞬間移動や時空移動なんぞも出来はするが我でも扱えんかったよ。おんしはどうじゃ?」

「うん、時空魔法はまだ手付かずよ。けどゲートって呼んでる魔法は使えるわ。瞬間移動みたいに瞬時にって感じでは無くて行く場所と今居る場所を繋ぐ穴をあける魔法ね。瞬間移動はどっかに挟まったら怖いから机上だけよ」

「そのうち使うと?」

「出来たらね。ゲートが有ると使えなくていいかなって思ってあんまり研究が進まないんだけど、ロマンの一つだと思って」

「うむ、その気持ちはわかるぞ、もし本格的に研究するのであれば我にも声を掛けよ。一度は成功させてみたい術故協力は惜しまんぞ」

「ありがとう。その時には声を掛けるわ」

「うむ」


 何ともお気軽に、まるで今度お茶でもしようとでも約束するようなお気軽さで話してはいるが、実際の内容は高難易度の術の研究である。見た目幼女の中身熟女以上の美ロリと容姿不明の和服女の会話とは思えな・・・否、ある意味怪しいヒト達が怪しい会話をしていると思えばしっくりくるだろうか?

 とにかく女性二人がするには不釣り合いな会話をしつつ二人はループし続けていた廊下を先に進む。


 そうしてしばらく進んだ先にあったのは、


「扉ね」

「扉だのう」

「「・・・でかい」」


 デーンと行く手を阻む扉だ。

 廊下に突如現れた端から端までピッチリと閉まった扉は枠も無ければ蝶番を取り付ける壁もない。壁に扉の絵が描かれているっと言われた方が納得できる。しかしソレは壁でも絵でもなく扉だ。なぜなら向こう側から扉越しの音が聞こえ、ヒトの気配がする。

 少し慌てた風なのは廊下のループを超えるのが想定より早かったためだろうか?


『ちょっもう来てるぞ!?』

『え、うそカレンさんが手出しした?』

『魔力反応的にカレンさんじゃないから編入生だろ。てか扉の前に居る!』

『『『『えええぇぇぇぇぇ!?』』』』


「ふむ、少し待った方が良いかのう」

「うーん、そうねぇ。ちょっと待っててもらえる?聞いて来るわ」

「む?うむ、どう聞くかは知らぬが任せよう」


 扉の内側から聞こえてくる言葉を受けてエーデルワイドは立ち止まり同行者に聞く、するとカレンは一度首を傾げた後一つ頷き扉の向こうに聞いて来ることに決めたらしい。如何扉を突破する気なのか少々気になるところなのでその様子を観察しつつ自身のヒントにするか、それとも背を向けておいて自力で突破するか少々悩みどこr


「ごめーん入るよー』

『『『『ぎゃあああああ!!!』』』』

「おふう」


 まさかの扉に頭から突っ込んでいった。

 目を背ける暇もなくカレンは普通に扉向こうに頭を無造作に突っ込む、しかしソレは扉を破壊したとか、扉が幻術だったとかではなく単純に意図的なトンネル現象を起こしているのだ。

 トンネル現象、それは壁に投げ続けたボールが壁の向こう側に行ってしまうっといった粒子レベルの話だ。

 今の世界ではその原理を元に術や技で可能にし、災害場所での救護活動や緊急時に使われる道具としてのみ使われている。と言いうのも一般的になると空き巣や覗きなどが簡単に出来てしまうのでその製造法は極秘となっているのだ。

 既存の物も盗難防止の為に敢えて大型になっておりヒト一人では持ち運べず、目立つ見目と時空魔法による運搬を拒絶する術が仕込まれているのでいるので持ち運べない仕様となっている。

 それで災害時に使えるのか?っと思うが色々諸々考えられているので特に問題ないらしい。


 兎にも角にもカレンはそれを特に何のサポートもなく身一つで簡単に行い、扉の向こうへ頭だけを突っ込むという事をしているのだ。

 ・・・その技術が有れば瞬間移動の事故も防げるのでは?と思いはするが見える場所に突っ込むのといきなり壁の中に転移するのではちょっと違ったらしい。


 閑話休題


「こんにちは」

「あ、カレンさんこんにちは」

「びっくりした。幽霊かと思った」

「驚かせてごめんね。編入性と一緒に此処まで来たんだけど、どうしたらいい?待つ?」

「あ、えっとカレンさんから見てすぐ突破出来そうですか?」

「この扉の?うん、出来ると思うよ。空間魔法に手が出せるし、廊下も気づいてから1分もせずに解除で来てたし」

「うーん。そうなると我々の測定は要らないかな?」

「そうだね。将来有望の編入生でいいかもねー。私学長のとこ行ってくるわーー」

「頼んだ―。ってことで扉を開けられたら終わりです」

「分かったわ。じゃあそう伝える」

「お願いしまーす」


 扉の向こう側では色々仕掛けていたらしいが、カレンの言葉を聞いて白旗を振ることにしたらしい。

 真っ白のハンカチを持った一人が物凄い速さの早歩き、いわゆる競歩でドップラー効果を伴いながら学長室に向かい。一人はカレンに同じものを振りながら終了条件を言い渡し、他の面々は撤退準備を素早く進める。

 カレンが扉から頭を引き抜く頃には既に撤退し始めているあたりとても行動が早い。

 そんな彼らの行動力に感心しながら体の一部を扉の中に残さない様に注意しながらカレンは体を引き抜き、エーデルワイドに向き直った。


「聞こえた?」

「うむ、扉を開ければよいのだな?」

「そう、多分開ける頃には誰もいないけどそのまま学長室に行けばいいみたいだから私が案内するね」

「うむ、頼んだ。では開けるか」


 カレンの言葉に一つ頷いてエーデルワイドは取っ手を掴んで軽く押し引きする。当たり前だがまっっったく動かない。

 そもそも蝶番も枠も鍵穴もないコレは取っ手と見た目、そうして創作者の意図から扉ではあると判断するが通常の扉ではない。


 しかし扉は扉、開かないのであれば鍵がかかっているはずだ。

 その鍵が物理的か魔法的要因かを探るために扉に手を当てて超音波上に魔力を流し込み、ソナーの様に戻ってくる反応から物理的、魔法的トラップの様子は伺うが、


「反応ないのう」


 そもそも物理的な施錠の後もない。ので物理法則に則った鍵ではないらしい。となると魔法を利用した鍵だと思われる。

 しかし魔法と言ってもその種類は多岐にわたる。先程のループする廊下は明らかに端と端を繋いでいたので空間魔法だと特定できたが、この扉に関してはそうではない。


 向こう側の音が聞こえ、カレンが向こうに頭だけ出して会話をしていた点からさほど厚さもない。つまりこの扉自体に不可思議な魔法を掛けているとは思えない。

 或いはエーデルワイドに感知できない魔法といった可能性も無きにしも非ずではあるが、古代者のしかも純血の吸血鬼に気付かせない魔法とかそうそう在るものではない。そもそもそんな難易度ではどんな生徒も解けなくなってしまうので試験として崩壊している。よって今回はその可能性を除外とする。


 そうなると一般的な常識の範囲内として認識されている魔法で、尚且つ操作で来ても不自然ではないレベルの魔法となる。

 もう一度魔法の超音波で今度は扉の外を調べる。


「む?」


 魔法聴覚に音を捉える。

 ソレは扉を魔術的な五感で感知した場合にのみ聞ける音で、しばらく聞けばそれが一定の法則を持っている音、即ち音楽である事が分かる。

 そしてその音階の内のいくつかは不自然に飛んでいる。ことから考えて鍵の形状は『音楽』、鍵は『音』であると推測する。

 多分開け方としては飛んでいる音に正しい音を入れて音楽を完成させることなのだろうが・・・。


「ん?どうかしたアンさん」

「うむ。解除の大方の見当は付いたのだが」

「だが?」


 この鍵は魔法的なようでいて物理的な鍵だ。方法としては演奏に近いだろう。

 魔法、音魔法と呼ばれる分野の技術で物理的な音楽を完成させなければならない。

 この扉は初歩的な音魔法が扱え、完成させる音楽を知っていれば開けられる。勿論エーデルワイドはごく初歩的であれば音魔法を扱えるし、嗜みとして音楽知識もあるので通常であれば簡単に開けられるのだが、


「我、この曲知らんのじゃが」

「あら、困ったわね」

「うむ、困った」


 エーデルワイドはその肝心の曲を知らないのだ。

 眉根を寄せてエーデルワイドがカレンを見上げると、カレンも頬に手を当てて小首をかしげながらエーデルワイドを見返す。二人ともあまり困ったようには見えないが、本人たちは困っているらしい。


「うーん。下手に手助けしても評価にならないし」

「カレンは知っておるのか?」

「最近の流行り曲だから街中で流れてるもの、サビ部分なら口ずさめるわ」

「困ったのう。我は昨日目覚めたばかりじゃ、最近の曲は知らぬ」

「そうよねぇ。・・・そもそもどんな鍵だか何でわかったの?」

「うむ、方法は簡単じゃ、まずは普通に開かない事を確かめるじゃろ?」

「うん」

「次に内部を超音波上にした魔力で調べ上げて物理的な鍵でないことを確定するじゃろ?」

「うん」

「超音波で物理的にも内部的にも何も見つからないのであれば扉の外側を魔法的五感で視れば音に気付く、あとはその音に着目すれば良いのじゃ」

「なるほど、それで音楽による解除だって分かったのね」

「うむ、しかし曲を知らなんだせいで解除できぬとは、一般常識的な問題じゃのう」

「でも、それ以外は問題ないし、昨日の今日で今の常識を身に着けるのは無理が有るから合格で良いんじゃないかしら?」


 そうカレンが口にして扉を見る。エーデルワイドもつられて同じようにそこを見ると、


「む?扉が消えた?」

「ああ、通って良いみたい」


 綺麗さっぱり扉が消えて普通の廊下が続いていた。音も気配もなく消える扉とは?


「良いのか?」

「うん、探り方とか推察の仕方とかが良かったんじゃない?向こうが開けてくれたなら良いって事よ」

「成程のう。してあの扉は何処に行ったんじゃ?」

「さぁ?」

「む?」

「意思を持った建物の構造なんて考えるだけ無駄よ。コロコロ変わるんだから」

「そ、そうか」

「ええ」


 きっぱりと言われてしまえば口も挿めない。カレンが気にするなというのであれば気にしない方が良いだろう。気にしたくなったらそのうち自分で研究すればいい話だ。

 そう思いなおして、エーデルワイドは先導するように先に歩き出したカレンの後に付いて行ったのだった。

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