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普通に生まれて当たり前に育ち、極々平凡に日常を生きる。  作者: 梓川 由紀
面倒な予感・・・
58/92

重い

 つぼみ園にて、仲が良いんだか悪いんだか微妙な二人が寒くも熱くもない会話を繰り広げている頃。

 とある学園の校門に黒地に金の細かな刺繍が施されたローブで全身を隠した怪しいヒトと白から水色のグラデーションの着物に青銀の帯を締め、白いレースのベールを身に着けて手に日傘を持った人物が立っていた。


「・・・まぶしい」

「アンさんファイト」


 怪しい全身フードは昨日出会った古代者の吸血鬼エーデルワイド・スリンプ・アンドロダスだ。今現在は太陽の眩しさでしおしおである。こんなんで昼間の学園に通えるのだろうか?

 この先不安になりそうなエーデルワイドにエールを送る着物の人物はカレンだ。


「くそぅ、おんしのそのでたらめな力で太陽を隠せんのか」

「無理難題とは言わないけどバタフライ効果よ」

「むー、雲を増やすだけで良いんじゃが」

「今日は洗濯日和という事で」

「吸血鬼には厄日じゃ」


 現代では自然に干渉する術はあまり好意的にとらえられない。勿論ひどい干ばつや山火事で一時的に雨を降らせる事や、大雨による川の増水土砂崩れ防止のために雨雲を散らすなり蒸発させ、山の中の水を減らすなどそういった自然災害を未然に防ぐor最小限に抑えるために使われることはあるが、個人の願望の為に世界そのものに干渉するのはご法度だ。

 やるならバレない程度の規模か隠匿の根回しをしてからになる。こんな学園の前で突発的に雲を量産するのはナンセンスだ。


「それよりいつまでも校門に居ても仕方ないし、中に入っちゃいましょう」

「うむ、建物の中の方が光も弱いからのう」


 エーデルワイドは吸血鬼らしい言葉を口にしてカレンの言葉に賛同し校内に足を踏み入れた。

 その際にカレンと行動を共にしてからずっっと自身の周りに漂っていた致死量未満の呪いがなぜか急激に致死量に達するほどの濃度になりはしたが、悪寒が酷くなるだけで済んだのはまあ強制力のなせるわざだろう。


「うーむ、愛は恐ろしいのう。統一者とやらには感謝せねば」

「アンさーん?置いていくわよー」

「今行くぞー」


 呪いに身震いしている内に先に進んでいたカレンに呼ばれ、エーデルワイドは駆け足に追いかけていくのであった。


 そも何故二人が行動を共にしているのか?それは約1時間前に遡る。



 ※        ※         ※



 昼には少し早い時間に万屋にやってきた紅とカレンは一階の食堂部分、万屋本舗に入った瞬間に副リーダーから送られてきた一瞬の思念により呼ばれたことを感知し食堂部分を通り抜け、昨夜使っていた会議室へとやってきた。


「二手に分かれて」

「だが断る!!」

「いいわよ」


 そして入って直ぐに前置きもなく放たれた言葉に紅は速攻で断り、カレンはあっさりと承諾したのだった。


「決断が早いの!?事情を聴く前から断る如月も如月なれば、即決で請け負うカレンもカレンじゃぞ?」

「カレン、何で承諾しちゃうんだ?朝も置いて行かれて俺は結構さみしいんだが?」

「朝はごめんて、副さんが言うなら必要なんだと思ったからよ。それに何日もって訳じゃなさそうだし」


 何気に黒い物が染み出る笑顔でカレンに迫る紅だがカレンはごくごく普通に迫ってきた顔を押し返し、ついでの様に紅の頭を軽くなでながら返す。

 染み出る黒い物に気付いているのか、いないか。はたまた只の慣れなのか。兎にも角にも黒い笑顔は成りを潜め、陽だまりで喉を鳴らすご満悦な猫の様に紅が大人しくなる。心なしか部屋が明るく、暖かくなったようにも感じられるのは気のせいだと思いたい。


「ああ、カレンには分かった?うん、別に何日持って話じゃないよ?数時間ぐらい。夜には帰れると思うよ」

「思うかよ。確実性が欲しい。カレンと半日も離れてたら気が狂うわ」


 昔よりも悪化したような気がするカレンへの執着を普通に口にするあたり既になんかダメな気がするが、その執着を向けられている相手は聞いていないのか、紅の頭を撫でたことにより荒れた髪を直すべく両手で紅の頭を触っている。直すどころか更に荒れているような気はするがされている本人は実に幸せそうだ。


「なんじゃか如月が随分残念なおの子に見えるのじゃが?」

「諦めなよエーデルワイド、紅はこういうやつだよ。カレンさえ絡まなければ常識的だし心も広いヤツだけど彼女が絡むと途端に心が狭く面倒臭い残メンなんだ」

「ざ、ざんめん?」

「残念なメンズ」

「な、なるほど」


 もっともな評価だ。カレンに対してゴロゴロと喉を鳴らしながらもエーデルワイドと副リーダーに唸り声をあげるという妙な器用さを発揮する猫の様な紅の評価はだいぶ残念だ。


「ねえねえ副さん」

「なんだい?カレン」

「私たちに何させたいの?」

「軽いお使い。紅にはアリスにエーデルワイドの事を伝えて来て欲しいんだ。カレンにはエーデルワイドが通う学園への付き添い。もうどこに通うかは決まってるし連絡もしてあるからその場所に連れて行って書類の手続きの見届けをお願いしたいんだ」

「見届けるだけ?」

「うん、書類は読める筈だから自分で確認してサインしてもらって、こっちで説明だけはしてあるから」

「了解です」


 紅の髪をイジイジしながらのカレンとのやり取りが済んだ副リーダーに次に声を掛けるのは別行動に納得のいかない紅だ。


「なんで俺がアリスのとこ行くんですか?あと副さんが学園まで行けばいいじゃないですか」

「残念ながら私は忙しくてね。あとその学園男子禁制だから紅は行けないよ?だからカレンが帰ってくるまでは大人しくしていなさい。ついでにアリスへの説明でもしながら気でも紛らわせるといい」

「えー」


 副リーダーの言葉に紅は不満たらたらに返すが幾ら不満を口にしても副リーダーの決定に逆らえるものではないので渋々了承する。事実副リーダーは多忙で一体いつ寝ているのか疑問に思うほどだ。

 副リーダーが種族柄睡眠を必要としないなら心配はいらないが、どうも普段の会話から睡眠は生命維持活動に必要なものらしいので心配だ。倒れられると色々な仕事がストップするしついでにリーダーが情緒不安定になっていつも以上の胡散臭く鬱陶しくなるのでそれも困る。

 もっとも倒れる前に副リーダー命のリーダーがどうにかするのは分かっているのでそこまで深刻に心配はしていない。

 しかし、多忙な副リーダーの負担を少しでも軽減するのは吝かではない。吝かではないのだが、


「こっそり付いていくのもダメか?」

「ダメ、学園をぐるりと囲う壁に高度な結界が張られてるから侵入は難しいし、何か危険がある訳でもないのに学園側の許可もとらずに侵入は問題の元」

「見つからない自信はあるけど?」

「紅なら見つからずに侵入も離脱も出来ると思うけどダメ、誠実さの問題」

「ぶー」

「紅、副リーダーの命令は?」

「ぜったーい」


 カレンにもダメ押しされた紅は渋々付いてくのを諦め、カレンに随時会話ができる携帯の様な道具を渡すことで決着がついた。


「重いのう」

「そうだろ?カレンが特に抵抗なく応じてくれてるから特に問題は起きてないけどね。まかり間違って拒否なんてされた日には世界危機だよ」

「世界を巻き込める器なのか、物騒じゃな」

「ねー。二人にはいい感じで収まってほしいよ」

「・・・収まっておらんのか」

「今だにただの昔馴染みだって」

「ええぇ」


 紅のカレンへの矢印が重過ぎる件についてエーデルワイドと副リーダーが話している横では、カレンに渡す通信用の道具を紅がその辺の紙に血を一滴たらしたインクで何かやら書きこむことによって作っている。

 本来そういった道具は魔力伝導のいい素材を魔力巡回の良い形に加工して計算した魔術式を刻んで作るので大変に時間がかかるものなのだが、それが物の数秒でお手軽に作られているという魔道具職人が血涙を流すような所業が行われている。


「・・・天災は罪よな」

「そうだね。でも暴れなければ問題ないよ」

「・・・おんしらだけは敵に回したくないのう」

「ふふふ、エーデルワイドももううちの一員でしょ?」


 半目になったエーデルワイドに副リーダーは綺麗に笑いながら答える。一瞬その顔に見惚れるも一日の内で随分と耐性のついたエーデルワイドはそう言えばそうだった頷いた。


「そうだったのう。ちょっと前に正式加入したのう」

「そうだよ。忘れないでね。何か困った事が有ったらいつでも来てね。あと洋服もちゃんと卸して、たまにギルドの仕事もしてね」

「うむ、心得た」

「アンさーん。準備できたから行こうか」


 副リーダーとの会話がひと段落下あたりでカレンがエーデルワイドに声を掛ける。隣に居る紅は未だにギリギリと歯軋りしそうな顔ではあるがもう引き留める気はないらしい。


「む、了解した。では副リーダー殿行ってまいる」

「うん、いってらっしゃい。落ち着いたら顔出してね」

「うむ」

「じゃ、いってきまーす」


 副リーダーの言葉にエーデルワイドが頷きカレンが挨拶をして二人は万屋本部を後にしたのだった。

 その時からエーデルワイドの周辺には致死量未満の呪いが纏わりついているのだが、しょうがない事として早々に諦めるのだった。

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