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普通に生まれて当たり前に育ち、極々平凡に日常を生きる。  作者: 梓川 由紀
面倒な予感・・・
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魔法陣

さて、仕事の件はこれで一区切りとしよう。試作品を何個か作って二階の責任者に確認取ってからになるから今すぐにはどうしようもない。今はもっと他に決めねばならぬことが有る。それは、


「ドスさんをどこに泊めるかだな」

「寮に入るにも今から学校には行って即入学って訳にはいかないものね。入学手続きには数日かかるし、その間の繋ぎが必要ね」

「結局はそこに帰化するのう」

「「「うーん」」」


 結局そうなるのだ。結構な時間なので民宿とかは無理、ホテルは空いてるだろうけど安い所はもう埋まってるので却下、先立つものがない。

 出来るだけ安く済ますなら知り合いの家に泊めてもらうのが良いけどやっぱり時間的に頼み辛い。かといって家は昨日お客さん来たばかりだからなあ。しかも長期滞在を想定した部屋とか無いし、さてどうしたものやら。


「此処に泊めちゃえばいいんじゃない?」

「「ん?」」

「?!」


 頭を悩ませている三人に声を掛けたのは、


「お、副リーダーばんわ」

「こんばんは副リーダー」

「はい、こんばんは」

「・・・」


 魂が吹っ飛ぶほどの美人である副リーダーだ。


「話合いまだ続けてるんだね」

「はい、夜遅くまで会議室使ってしまって申し訳ないです」

「良いよ。珍しいお客さんみたいだしね。でももう遅いから帰った方が良い。夜更かしは美容の大敵だしね。カレンちゃんの綺麗な肌が荒れたら大変だし」

「それはまずい。カレン帰って寝よう」

「私に睡眠はあまり必要じゃないから平気よ。それよりアンさんのお泊まり先を決めないと・・・アンさん?」

「・・・」

「ん?飛んだか?」

「・・・」

「みたいね」


 初めて副リーダーのご尊顔を拝見したヤツと同じ反応が返ってくるので気絶に近い何かだろう。美人過ぎるのも考え物とは言うがパーティーメンバーは普通に接しているので慣れの問題だろう。

 聞くところによると数年かけて記憶が薄れ、思い出せないようになるまで生活もままならないほど精神的打撃を与える美人も存在するらしいのでそれに比べれば軽い物だ。 


「アンさんがこれだと話しどころじゃないわね」

「そう言えば副リーダーさっきなんか言ってたな」

「え?ああ、うん此処に泊めちゃえばって聞こえた様な?」

「うん、仮眠室あるし今日は遅いしとりあえずここに泊めて明日改めて話し合えば良いんじゃないかなって、どう?」


 ふむ、それもありだな。どっちにしろ当事者が気絶したから話し合いも出来ないし、今日の所は万屋本舗の仮眠室に放り込んでおくか、あとどうも話が雑談に転がっていくきらいが有るから説明とかもお願いできないだろうか、どうも狙いボケが留まる事を知らない。

 副リーダーは説明も説得も得意だし、エーデルワイドに合った学校も探してくれそうだし、ついでにこのまま万屋所属にしちゃえば良いんじゃなかろうか?


「って思うだがどう思う?副さん」

「副さん。面白い愛称だね。言いやすいならそれで良いよ。引き込んでいいの?リーダーの面通しはやった?」

「いいの?じゃ私も副さんって呼ぶね。リーダーは勝手に部屋に入ってきて出て行ったから大丈夫じゃない?ダメだったらその時点で放り出すでしょうし」

「勿論いいよ。そうだね。リーダーはそういう人だ。じゃあ起きてからの交渉はこっちでするね」

「「お願いします」」

「はい、お願いされました。じゃあ二人はもう帰りな」


 副リーダーは言葉に出さずとも大方考えを読んで答えを出してくれるのでたいへん楽である。しかも答えは正確だし、さすがは我らが副リーダー!

 麗しの尊顔をにっこり笑みの形にした副リーダーの好意に甘えることにして紅とカレンは帰り支度の準備をする。っと言っても特にこれと言った荷物は無いのでほとんだ手ぶらだ。部屋に張っていた用済みになった結界の類を解き、少しソニックブーム等により傷のついたカ所をちょちょいのチョイ!と直して準備は終わりだ。


「あ、そうだ。どうも大通りでお祭り騒ぎがあるみたいだから魔法陣使うといいよ」

「「はーい」」

「はい。良い子のお返事だ。お疲れさまでした」

「お疲れさまです。副さん。よろしくです」

「お疲れさまでした。副さん。よろしくお願いします」


 副リーダーとの挨拶の間にも大通り付近で爆発音がするがまあいつもの事だ。ギルド本部周辺は荒くれ物が多いので夜は騒がしい。

 大通り付近は消音と時戻りの結界が張り巡らされているので特にご近所迷惑にはならないし、朝日が昇るころには元に戻るので問題はない。

 ただ無駄に巻き込まれるのも癪なので副リーダーの言う通り万屋本舗内に設置してあるあっという間に家の前まで届けてくれる便利な一方通行の移動魔法陣を使って家まで帰るとしよう。


 昔リーダーが何処かで見つけて便利そうだからと言って見様見真似で設計図を書いてそれを元に魔導士ギルドが作ったのが元で、現在は冒険者ギルドと渡し屋ギルド、運送ギルド、魔導士ギルド其々の本部と万屋本舗に設置されている。

 しかし其々の本部の魔法陣は不安定でいつ壊れるか定かではなく一日に一、二回しか使えないようなおんぼろ仕様なのに対して万屋本舗の魔法陣は新品同様だ。

 なんで各本部は直さないのかな?


 え?なんでうちに有るのは新品なんだって?万屋本舗にあるのはリーダーの設計図に副リーダーが手を加えることによって完全復活した代物だからだよ。おかげでパティーメンバーは使いたい放題だ。


 難点は二つ、一つ目は一方通行なため行く事は出来ても帰る事が出来ない事、二つ目は制作方法が難しくて量産できない事だ。だが一度発動させれば魔力は魔法陣を循環し続けるものだから魔法陣が損傷しない限りは使える。要するに理論上は永久機関でもあるのだ。経年劣化で壊れるけど。

 それはメンテナンスすれば特に問題ないしなにより便利だよね。いつか作れるようになって家に設置するのが目標だ。


 会議室を出た紅とカレンは上行の階段に足を掛け、二歩目が踏むのは次の階、そういった魔法が掛けられた階段を二、三階上った先にある部屋へと入る。


「うーん、いつ見ても綺麗な魔法陣だよな」

「そうね。無駄も歪みもムラもない。まさに完璧な魔法陣よね」


 二人が入ったのは頑丈な石造りの部屋で、足元から仄かに光っている。その光っているのが件の魔法陣だ。

 二人は魔法陣に入ることなくしばしその陣を眺める。


 完璧な魔法陣、それは万全に引かれた陣形に完全な魔方式を当てはめ、均一に魔力を循環させる魔法陣のことで、この魔法陣が随時展開できれば魔法の威力が最低でも1.5倍上がるって言われてるぐらい魔法陣は重要なのだ。

 しかし、事実上人間には完璧な魔法陣は作れないとされ、魔法文化の世界では神代にて神々のみが操ったとされる幻や伝説の類とされている。


 今ではパソコン処理で万全の陣の下書きを描けるため元の世界よりは難易度が落ちたとはいえ難しいものは難しい。

 いくら万全の陣をパソコンで描くとはいえ紙のままでは使かえない。使うときは空中に魔力で描くか地面に特殊なインク等で描くのだからどうしたってヒトの手が入る。そうなると歪みが生じるのは必須だ。

 故に今でも万全の陣を描くことは難しいのだ。さらにそこに完全な魔方式、何を発動するのかを示す式を陣を崩さない様に書き込み、完成した魔法陣に均一にムラなく途切れることなく魔力を必要量流し続けるのはもはや神業だ。


 そんな神業の結晶みたいな移動魔法陣が万屋本舗では使いたい放題とはこれ如何に?


「特に完全な魔方式が難しいんだよな、多分配置の問題だとは思うだが、この間は陣が崩れて大変だったな」

「ね、うっかり異界生物呼び出しかけたものね」

「クトゥルフ的な奴な、アレはまずかった」

「久々に本気だして撲滅しちゃったのよね。つながった穴の向こう一面びっしりで穴じたいもスシ詰め状態だったから追い返さないと閉まらなかったし」

「ちょっと向こう側も燃えたけど大したことないだろ。水音してたし」

「燃える水でない限り無問題よ。そもそも相手の体力が一定まで減ったら沈下するタイプだもの」

「なら大丈夫だな」

「ええ」


 そうのんきに会話して二人は魔法陣の中に入り帰宅した。その先はいつも通り、遅くはあるが夕食を食べ、風呂に入り、まったりとして眠気が来れば部屋に引き上げて眠りにつく、いつも通りの一日の終わりだ。


 二人は知らない。

 ある時暗闇と死と暴力が蔓延る世界に眩しい光に満ちた穴が開いた事を、その先の光を求めてその世界で猛威を振るう災害がごとき実権を握る強者がそこに群がった事を、その者たちが悲鳴を上げて火に巻かれたれ瀕死に陥った事を、その暴力の化身達をその世界の異端であった知恵ある弱者達が屠り、実権を握り弱者が虐げられない世界に代わった事を二人は知らない。


 混沌の世界が変わる切欠を招いた事を二人は知らず。そしてこれからも知る事は無い。

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