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普通に生まれて当たり前に育ち、極々平凡に日常を生きる。  作者: 梓川 由紀
面倒な予感・・・
49/92

準備

 あの時代から生きているものは神と称されるモノと生ける死者だけらしい。


 感情のまま泣き喚き、暴風となっている我の力を見事に抑え込みながらその力が我を傷つけぬ様に相殺するという何とも高度な結界をあっという間に張ったものはこの場に居ない。

 気配をたどるに下の階に居り、そこには我が民たる若い吸血鬼もいる。

 他にも複数の気配を感じるがいずれの気配も我が民に危害を加えるものはいないらしい。あの者たちが置いていったこの教本が記している通りこの世界は我が生きたあそことはずいぶんと変わったようだ。


 我の生きたあの場所は壮絶だった。

 吸血鬼は派閥の違う血族たちとの争いに明け暮れ、更には絶滅寸前まで人間たちに狩られてしまい。気付いた時には生き永らえたものなどほんの一握りとなってしまった。


 我らの派閥は無意味な殺戮を良しとしない派閥であっため当時、吸血鬼狩りを生業とする教会と協力関係を築き何とか生き残っていた。

 勿論そんな我らを非難する同族達はごまんといた。人間に狩られるより同族に殺された数の方が多いぐらいだ。

 それでも、我らは人間と共にありたかった。


 我らははぐれだった。人間を友とし、愛し子とし、愛する伴侶とする。そんな人間を愛したはぐれが集まってできた派閥だった。

 その中で最も力が強く血が濃い純血の吸血鬼である我が皆を守り庇護する王となることはなにも可笑しくはなかった。


 気紛れに子供を拾った。

 生まれたばかりで泣いてばかり、粗末な布に包まれただけのみすぼらしい赤ん坊を気紛れに拾った。意味はない。大きくなったら血を啜って捨てる一種の遊びだ。健康な者の血は美味い。だから健康に健やかにストレスなく育てて飲み干す。時たま吸血鬼内で流行る遊びで我にとっては意味の無い暇つぶしだった。


 けれどアレは、あの子は私を母と呼んだ。


「まーま」

「誰ばママだ。ご主人様と呼べ」

「ごしゅ!」

「言えてない」

「ごしゅさま!」

「言えてな、言えた?」


 気紛れだった。


「ねえねえママ」

「誰がママだ!」

「他に誰もいませんが?」

「ムキー!いつか食べてやる!」

「まだ青いから勧めない!」

「誰が今食べるつった!」


 だって暇つぶしだったの。


「ねぇママ」

「誰がママだ」

「私もう十分大人よ」

「はぁ?そんなちんちくりんで何言っての?」

「16歳なんて最高じゃない?」

「何が?」

「食べごろよ!」

「ぶほぉ」

「わ、ママ汚い何で咽てるのよ」

「うっさい!」


 でも、


「ママ食べないの?」

「・・・」

「私もうすぐ死んじゃうよ?」

「・・・」

「ママ」

「・・・」

「私ママに食べて欲しい」


 愛してしまったの。


「・・・・・食べないよ」

「なんで?タダ死んじゃうよりママの糧が良い」

「娘を食べる親なんていないよ」

「娘・・・」

「80年あったんだ。いつでも食べれた。食べなかったのは情があったからだ」

「ママ」

「私にあんたは食べられないよ。バカ娘」

「ママ、大好きよ。先に死んじゃうから食べて欲しいって思うくらいに大好きなのママ」

「ああそうさね。私もだよ。あとほんのちょっとでも良いから生きて欲しいって思うぐらいには愛してるよ愛娘」


 私の愛しい愛しい愛娘、あの時代の人間にしては随分長く生きた。

 吸血鬼にとって人間の一生なんてあまりにも短い。それでもその短い期間に築いた思い出も感情も消えやしない。おかげで私は人間が食べられなくなった。

 だから作ったの、人間を食料と見なせなくなった者たちが集まる場所を派閥を居場所を私は、我は創り上げた共存の派閥を!


 同じ気持ちの者はそれなりに居った。様々な派閥から離反した人間との共存を望む者たちが集まって徐々に大きくなり、仕舞いには吸血鬼の四大派閥の一つとなった。

 大きな派閥ならば庇護の力が欲しい。ましてや我らの派閥には共にいる事を望んだ人間も抱え込んでおる。

 故に我らは教会と提携した。他の派閥を売るような行いではあったが、共にいる人間たちの保護をしてもらい。殺戮を楽しむような下種の居所のリークや狩りを手伝った。

 むろん最初のころは上手くいかなんだが年月と共に軌道に乗り、吸血鬼と人間が共存する国を創り上げるに至った。

 我は力ある者としてその国の王となり、知恵ある者達と国を治めておった。


 幸福だった。

 民たちは笑顔に溢れ人間と吸血鬼のハーフが当たり前に道を駆け回る。その光景に友は盟友たちは満足げに頷いた。

 あの景色がいつまでも続くのだと、誰一人として疑っていなんだ。あの時までは、


「キャーーー!!」

「たすけて」

「ママ、パパどこ」

「坊や!坊や何処!」


 国は火の海に包まれた。

 長く繁栄した人外の国に人間が危機感を持ち、そこに付け込んだ敵対した派閥の吸血鬼と他の種族の人外たち、吸血鬼たちは昔敵対して時には狩っていた者たちの生き残りだ。因果応報と認めよう。しかし、


「くたばれ化け物!」

「化け物に身を売った人間の敵め!」

「死ね」


「俺の妻は化け物なんかじゃない!」

「やめて!私の坊やに触らないで!」

「子供に手を上げるお前らの方が化け物だ!」


 それ以外の者たちは許せない。

 人間たちよ我らがお前たちに何をした。慎ましやかに穏やかに暮らしておった我らを責めるなど、この100年お前たちを襲ってなどおらぬのに、なぜ責められぬばならぬ。何故幼き子供たちを殺す。



「滑稽だな、同じ人間すらも殺すなんて」

「ハーフとは言え子供をあんな簡単に手にかけるなんて、人間は怖いな」

「良いじゃないですかおかげで我らは国を得られる」


 他種族よ貴様ら何一つ関わらぬ我らを襲ってなんとする。我らの築いた楽園を終の棲家を奪うなど、どれほどの年月と苦難、犠牲の果てに築き上げたと思っているのだ。


 許せぬ、許せぬ、許せぬ!

 憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!


 スベテガニクイ


 生き残った者たちを避難させたあとのもぬけの殻となった国で我は暴れた。

 いまだ破壊を尽くす愚か者どもを骸を蹴りつける無礼者を血が赴くまま、衝動のままに殺して殺して殺して殺した。

 そうして幾日も殺し続けた我を他は恐れ討伐に乗り出いし、それすらも返り討ちにし続けた我は疲れてしまった。


 故に、殺すものが尽きて廃墟に立ち尽くした我の元に盟友の一人が封印の箱を持って現れた時何も言わずに受け入れた。

 痛ましそうな顔をした友には悪いが安心したのだ。これでもうこの世界を娘が生きた世界を憎まなくて済むのだと、だから大人しく薔薇の箱に封印された。

 封印の中からでも盟友たちが箱を大切に扱っているのが分かったが故に我は憎しみから少しづつ解放された。

 そうして長い年月、夢うつつに過ごした末に全ての憎しみが風化した。その折にこうして目が覚めたのだ。


 世界は我が眠っている間に変わったらしい。生ける死者の中には我が盟友が誰か居るかもしれない。

 我らの楽園がその後どうなったのかも気になる。我は国を廃墟にしてしまったが復興しのだろうか?それとも我のせいで流れる事になったか、封印の間の事は殆ど分からない。ただ封印の薔薇箱を粗末に扱われたことも悪意を持って扱われた事が無かっただけだ。

 それ故の希望だろう。どうか、友と民たちが健やかな生と穏やかな死を迎えられたことを願ってやまぬのだ。


 下にあった気配が上がってきたな、我の気が落ち着いたのを見計らってきたか、やはりただものではない奴らよ。

 封印が解けてすぐは動揺しまくって取り乱してしまったからな、碌な話もできなんだ。

 今度は冷静に話し合わねば、そうして可能ならば旧友たちと愛娘の墓を探そう。残っていないならばそれはそれで新しく見晴らしの良い場所を探して建てるのもいい。

 少しでも我らの築いた歴史の跡があれば心の拠り所としては上々だ。

 我を知らぬ世界で我も知らぬ世界を一人生きる準備をしよう。

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