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普通に生まれて当たり前に育ち、極々平凡に日常を生きる。  作者: 梓川 由紀
面倒な予感・・・
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王様

 当たり前だが再封印はしなかった。

 ここでミソなのは『出来なかった』ではなく『しなかった』という所だろうか?なぜなら中身が面倒そうなので再封印しようとするとその中身はそれはもうすごい音量で泣いて喚くのだ。

 勿論音は確りと遮断していたが結界内で泣き声がソニックブームを起こすほどに反響していたのだからその音量は推して知るべしである。結界を張っていなければ会議室の床や壁に亀裂が入るところだった。


 しょうがないので中身が疲れて泣き止むまで待ってから話を聞くことにしたので、泣き止むまで一階の万屋本舗でお茶なう。

 それにしても泣き止まないなあ。泣き止むまで上に行くつもりがないのに泣き止むどころか更に泣きわめいている気がする。早く泣き止まないかなあ。


「まだ泣いてんな」

「ええ、大音量みたいね。結界が揺れてるわ」

「「早く泣きやまないかなあ」」

「鬼だわ」


 優雅にお茶を飲みつつ時には目の前の茶菓子をつまみつつ、紅とカレンは時折二階に意識をやって様子を確認しては、変わらないことを軽く嘆く様に顔を見合わせ肩をすくめる。

 それを幾度か繰り返す二人に同席してご所望のバラパフェを食べていたアリスは半目になって二人を非難する言葉を吐いた。


「何言ってんだよアリス俺は人間だぜ?」

「そうよアリスちゃん私も鬼族じゃないわよ」

「そう言う事言ってんじゃないのよ。アレ、どう考えても放置されてるから泣てるんでしょ?それをさらに放置するとか、ただのヒトで無しじゃない」

「「いやあそれ程でも///」」

「照れんじゃないわよ!褒めてないから!寧ろけなしてるから!こんのヒトで無し!!」

「「えへへへ」」

「その照れ笑い止めなさいよ!!」


 非難の目も言葉もおふざけで返される事にキィキィと言い返してアリスはパフェのアイスを掬い口に含む、その冷たさと甘さに癒されながらチラリと天井を見上げた。


「本当にいつまで放置しておくつもりよ」

「泣き止むまでだな」

「ええ枯れ果てるまでね」

「枯れ果てるって・・・」


 カレンの口から飛び出した単語にぎょっとするアリスにカレンは笑みを一つこぼす。


「今あの吸血鬼は久しぶりに外に出たテンションと昔封印されたときのショックと悲しみ、あとは昔演じていた外面が混ざってごっちゃになってるのよ」

「ごっちゃになる?」

「ええ、言ってたでしょ?吸血鬼の王様って」


 そう言えば『我こそは吸血鬼の王なり!皆ひれ伏すがいい!!!』とか言ってた。そう言った直後に蓋を閉められてたけど確かに聞いた。

 因みに蓋を閉めても普通に部屋の扉を閉めたようなものなので封印にはならないが、大音量の声を遮断するには役立っていた。


「でもあれって信憑性ないわよね?」

「普通はな、けど今回に関しては本当だと思うぞ」

「え゛」


 あんな変なのが私たちの王って複雑だわ。

 声に出さなくともアリスの顔にそうハッキリと書いてあるのが読み取れる。確かに中々にアレな姿であったので分からなくもない。


「ふふ、アリスちゃんは素直ね。顔に出てるわよ」

「だって」

「大丈夫だろ」

「え?」

「そうね。あの王様は暴君でも愚王でもないもの」


 恐らく言動も行動も情けない仕草も全てあの場にアリスがいた為だろう。正確には自身の守るべき民である吸血鬼だからではあるが、一瞬だけ見えた眼光も気配も鋭く抜け目のなさを感じた。

 己の庇護下にある吸血鬼であるアリスに恐怖や畏怖を与えないために敢えて情けない様子を見せたのだろう。

 封印が解かれて一瞬で外の様子を察知して咄嗟に演技をし、回りを把握するための時間稼ぎをしつつ、敵か否かを見極める事が出来てしまうあたりかなりの賢王と見るべきだ。


 だからこそ封印された理由も意味も理解している。そしてそれは残酷な事実すらも理解しているという事だ。

 なんせ箱に施された封印は古く、軽く見積もっても数百年前に施されたものだ。例え長寿の吸血鬼と言えど当時を生きた者は天寿を全うしている。当然彼の王はその事に気付いている筈だ。

 故に今は友人、家族、恋人ありとあらゆる知人に置いて行かれた悲しみを思う存分発散させてやるべきだろう。


 それにちょっとやそっとでは壊れないことで有名な義務教育の教科書を結界内に入れておいたので落ち着けば読んでくれるだろう。あとは読み終わった頃に会いに行けばいいが、その時アリスを連れて行くかどうか悩みどころだ。


 吸血鬼であるアリスが要れば穏便かつ平和的な話し合いは出来るだろう、しかし本音は引き出しづらくなる。

 なんせ彼の者は王なのだ。王が悩みや弱味、困惑を民に見せてはいけない。

 何故なら上が迷い戸惑えば下もまた混乱する。賢王とは、名君とは常に正しく迷いなく、毅然としていなくてはいけない。そして彼の人物は間違いなくそれに当たる。

 例え直接知らなくても時代が違っても吸血鬼は吸血鬼、彼の王の民だ。弱さをさらけ出すとは思えない。


 とはいっても、このままアリスに帰れと言っても聞いてはくれないだろう。意志が強く責任感の有る彼女のことなので最後まで付き合うと言い出すのは目に見えているし、穏便で平和的な話し合いには居てもらった方がいい。さて、どうしたものか。

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