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普通に生まれて当たり前に育ち、極々平凡に日常を生きる。  作者: 梓川 由紀
面倒な予感・・・
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馬と鹿に失礼である。

 万屋本部を出た紅とカレンは仲睦まじげに腕を組んで街へと繰り出し、少なくなった日用品を買いそろえて消費した常備食も買い足し、ついでにブティックにも何軒か寄り買い食いをして休日を目一杯謳歌してから遅めの昼食を取りに万屋本舗まで戻ってきた。


 カランカラン


「いらっしゃま、あ~紅さんカレンさんお帰りなさ~い」

「ただいま、緑の魔女さん」

「ただいま、みどりちゃん。昼食をお願いしていい?」

「お~け~、空いている席でまててね~」


 来店を知らせるベルの音を響かせつつ店内へと入った二人を出迎えたのは緑の髪をショートカットにしゴシック調の侍女服のようなキッチリとした露出の無い深緑の制服と白いヘットドレスが付いた万屋本舗の制服を身に着けた少女だ。

 彼女は緑の魔女、草木を育てることに特化した魔女で質のいい薬草とハーブ、美しい花を育てておりそれを売って生計を立てている。食堂で使われているハーブや香辛料も緑の魔女産だ。

 渡し屋ギルドのパーティー万屋が運営する食堂、万屋本舗のホールスタッフは食い詰めたパーティーメンバーやメンバーの紹介を受けたヒトがアルバイトで行っており給金は良いので何気に人気がある。


 その人気の職を勝ち取った緑の魔女は本来であれば食堂で働く必要がないほど稼いでいるのだが、ヒトと話す事が好きなので本業の合間に息抜きがてら店に立っているのだ。

 因みに可愛らしく笑うその笑顔に釣られてやって来る常連がそれなりに居るので立派な看板娘の一人だ。


 席に着き今日の戦利品や入ったお店について話しながら待っていると、ゴン!っと音がしそうな勢いで皿がテーブルに置かれた。


「お待ちどうさま、さっさと食べてよね。忙しいんだから」


 勢い良く皿を置きつつも音のおの字もさせず素早くテーブルに食事を置いて高飛車にそう言い放ったのは、美しいプラチナブロンドの髪をハーフツインテールにした少女だ。


「お、早かったな」

「ありがとう、アリスちゃん。冷める前に食べるね」

「話過ぎて冷たくなったらうまさが半減するもんな」

「冷たくなってもハナさんのお料理は美味しいわ!」

「ええ、知ってるわでも」

「暖かい方が美味いもんな、忠告してくれてサンキューな」

「っ!ごゆっくり!!」


 本心を紅達に当てられた事による羞恥心で顔を真っ赤にしながら速足に立ち去った彼女は、緑の魔女と同じパーティーメンバーでありアルバイトであるアリス・ランドルフ、ツンデレなきらいがある吸血鬼だ。

 プラチナブロンドの長髪と釣りあがった真っ赤な目、豊満な体を包むキッチリとした露出の無い深緑の制服と白いヘットドレスが似合うキツイ美人だ。誤解されがちだが彼女は優しく思いやりがある子供好きで、いくつもの孤児院を経営し寄付も行っている。

 ここでのバイトも少しでも多く金銭を稼ぐ事とうまい賄い。不定期に行われるハナさんお料理教室の情報が目的でアルバイトをしているのだ。


「あいかわらずツンデレだな」

「可愛いわよね」

「あの対応が人気らしいな、さて食べるか」

「そうね。冷めないうちに」


 ツンデレアリスを見送った二人は彼女の忠告通りに冷めないうちに食事に手を付けるため手を合わせたのだった。



      ※       ※       ※



 食事を終えてデザートまで食し、ゆっくりとお茶を飲でいた二人はバイトを終えて今まさに帰ろうとしていたアリスを捕まえて三階会議室、つまり朝二人が厄介物を置いていった部屋まで来ていた。


「ちょっと何なのよ!!」

「ごめんねアリスちゃん」

「ちょっと見てもらいたいものが有ると言うか」

「立ち会ってもらいたいというか」

「だから何なのよ!!」


 碌に説明もなく連れてきたが故にキィキィと声を荒げるアリスをなだめすかして例の箱の前に立たせた。


「!!!?!?!」

「あ、わかる?」

「分かっちゃうものなのかしら?」


 そのとたんの変化は顕著であった。

 開いていた口を閉じて息を殺し、身じろぎすらせずに紅とカレンにより厳重に封じがされ過ぎて地の色すらも分からなくなった手のひら大の物体を凝視している。


「こ、こここれ!?」

「中身が吸血鬼だって言うのは引取り屋に確認してもらったのよ」

「ただどんな奴か分かんなくてな、同じ吸血鬼なら何かわかるんじゃないと思って」

「行き成り連れてきてごめんなさいね」


 代わる代わる話す二人の言葉も聞こえないのか、じっと箱を見つめていたアリスはパッと顔を上げ、


「わ、わた、わたし、かえりた、かえりたい!」

「「え、もう封開けちゃった」」

「!!!?!?!」


 ビシッと固まった。

 そんなアリスをよそに封じの解かれた箱はその姿を現す。


 ソレは赤と黒で出来ていた。

 ソレは血の様な赤い箱に血を煮詰めたような黒で蔓薔薇が描かれていた。

 ソレは封じが解かれたことを喜ぶようにカタカタとガタガタと揺れて揺れて揺れる。

 そしてソレは、


 パタン

「「「・・・」」」

 パタパタ

「「「?」」」

『開かないー!』


 パタパタと蠢くのだった。

 多分扉になっている部分を下にして置いたせいだろう。明らかに他と違った装飾だったのでそこを隠すように下向きにしたせいで開かないらしい。少し可哀想な事をした気分だ。


『開けよ!』

「ファイト」

「あなたならきっと開けられるわ」

「哀れだわ」

『開けよ!そこに誰ぞいるのなら我の尊顔を拝見する名誉をあたえようぞ!』

「「「・・・」」」


 うわ偉そう、そうだ無視しよう。そう三人の心は一つとなり目を合わせてうなずき合い、声を無視しすることに決定した。


「下で茶でも飲むか、奢るぞ」

「そうね。無理に連れてきちゃったんだものスイーツも付けるわ」

「パフェを所望するわ」

『開けよというのが分からんのか!』

「抹茶?チョコ?イチゴ?」

「バラ」

「バラパフェね。あれ美容にいいのよね」

『開けよ!』

「あれ酸っぱくないか?」

「馬鹿ね。そこが良いのよこれだから男は」

「否定できんな、男と女は味覚が違うから感じ方が違うし」

『開けよ』

「そう言えば女性の甘くておいしいは男性には甘すぎるんだったかしら?」

「人によるでしょ」

「だな、男でも信じられないぐらいの甘党はいるし個人差だろ」

『・・・』

「それもそうね。おじ様は甘党だし」

「親父は確かに甘党だな、あんこドカ食いとかやってたな」

「クリームはやって無かったわね」

「脂っぽ過ぎて腹いっぱいになるらしい」

「それ、既にやった事あるんじゃ」

『開けてくださいぃ』

「「最初からそう言え」」

『はいぃぃ』

「はぁーバッカみたい」


 悉くの無視が効いたらしい箱の中身は泣き声に近い声を出して下手に出始めた。無論嘘もあり得るのですぐに箱から出さず部屋に何重にも対魔、対物理、対精神、対アストラル界、対摂理などの様々な結界を張り巡らせ、更に同じものを箱の周辺にも張り巡らせてから、箱の縁を棒でついて扉部分を床から離した瞬間、箱はカタカタと揺れ、バン!!!!っと勢い良く開き、


「我こそは吸血鬼の王なり!皆ひれ伏すがいい!!!」


 中身が生意気な口を開いた瞬間パタン!!と勢い良く紅とカレンによって閉じた。


『あれ!?閉じられた!?!?』

「よし、下で茶にしよう」

「そうね」

『待って!待って!』

「約束通りパフェ奢るね」

「いただきます」

『待って下さいぃぃ出来心ですぅ相手してくださいぃぃぃ』

「「次は無い」」

『肝に銘じますぅぅぅぅ』

「はぁー」


 バカ(漢字で書いたら馬と鹿に失礼である。)な中身をこれから相手にするらしい。

 再封印してはダメだろうか? 

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