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カフェ

 その後の行動は早かった。

 カロンの携帯端末に航空券を転送し、全ての荷物をカレンの異次元収納に詰め込み、カガリには申し訳ないが大きなスーツケースに入ってもらった。なんせカガリは未だ戸籍の無い非市民、パスポートも戸籍もない存在を飛行機に乗せられないので荷物として搭乗してもらうことになった。

 もっともスーツケースの中はカレンの術で中の空間を捻じ曲げ、可能な限り広げてあるので立てはしないが座った状態で寛ぐくらいの広さを確保できた、なので窮屈な思いはしなくてすむ。更に内部気圧と内部温度を一定に保つ術と、内部から外を見たり軽く操作すれば中から声を出したりできる様にする術もかけてあるので中々快適な空間となっている。

 小さいながらも快適な部屋になったトランク内は愛情という名のクッションが敷き詰められたたいへんファンシーな小部屋となり、その中で彼らの愛娘がきょとんと首を傾げて座っている状況が出来上がったのはまあ仕方の無い事だ。

 そしてそこで写真撮影会が急遽開催されることになったのも当たり前といえば当たり前だろう。カレンはもう突っ込まないことにした。


 ・・・スーツケース内の拡張以外は自分たちでしかもスームーズにおこなえてたし私の手伝いっているのかしらっという思いがひしひしとして来る。あーもう本当に帰りたい。今から帰るけど。道中何にもないといいなあ、え?フラグだって?フラグってたたき折るためにあるんでしょう?


 などと考えつつカレンはカガリの親たちを引きはがしてふたを閉め、スーツケースに隠匿の術を掛けて目立たなくさせてから重力操作で浮かせ、気配を現地に合わせる。


「おおー!」

「すっごい!」

「違和感を感じない!」

「見た目変わってないのに!」

「そういう技術なので」


 わーわーと騒がしい周りに適当な返答をしつつカロンの様子を見る。先輩方から色々と言われたりポカリと叩かれたりしてはいるが別れの挨拶も済んだようだ。


「では皆さま、これにて失礼いたします」

「写真は努力します」

「パパ、ママ、バイバイ」

「ばいばいカガリちゃん!大好きよ!」

「テレビ電話も可だぞ!カガリの成長を逐一報告しろよ!カガリ大好きだ!」

「カガリに不自由させたらタダじゃ置かないからな!愛してるぞカガリ!」

「呪殺の本とか読んで勉強しとくから口だけじゃないよ!覚悟しとけよ!カガリちゃん愛してる!」

「怖っ!?」


 一部アレな言葉も混ざってはいたが概ね愛情たっぷりな見送りを背に受け、カレン達は社外へと出る。

 日もとっぷり暮れた道を歩き、ある程度会社から離れた大通りでタクシーを拾い空港へ、搭乗時間までまだ余裕があるが不測の事態を考えて早め早めの行動をする。

 周辺住民の噂話やら挙動などを鑑みるにこれといった不穏さも見られないので特に問題なく出国できるだろう。


 カレンの予想は裏切られることなく、数時間後には三人は雲の上を飛ぶ事となった。



       ※       ※       ※



 数時間の空の旅を終え、カレンとカロン、鞄に入ったカガリは日本の航空に降り立つ、カガリの入ったカバンをめぐって空港側とひと悶着あったが、事情の説明と万屋からの手回しによりほどなく解放され、三人は無事に日本の地に足を下ろすこととなった。


「んー、やっと日本に着いたわね」

「ああ、空港で止められたときは終わったと思ったがな」

「無機物とは言え自我を有するヒトだからね。誘拐かなんかだと思われたんじゃない?依頼書と本人同意書があったから誤解は解けたけど」

「パパ、ダイジョウブ?」

「ああ、カガリ大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」

「ウン」


 トランクから出て外を見まわしていたカガリに心配されて、げそっとした顔から一転、笑顔で受け答えするところはさすがだ。

 娘に心配掛けまいと笑う所はたいへん親らしい、でも顔色が少し悪いしこれじゃあ説得力がないね。ふむ。


「少し休憩する?」

「え?」

「ギルドまでまだあるし、タクシ―移動するにも少し落ち着いてからの方が良いかと思って」

「あー、すまん。そうしてもいいか、結構くたびれた」

「わかった。なら空港内のカフェでお茶でもしましょう。一息ついたらタクシーと電車で移動ね」

「分かった。カガリごめんな、俺のせいで足止め食っちまって」

「?パパ、ダイジ、ワルクナイ」

「カガリ・・・なんていい子なんだ」

「はいはい」


 すぐに親バカモードに突入しようとするカロンをいなして空港内の比較的空いているカフェを選び腰を落ち着ける。


 えーとメニューは紅茶、コーヒー、ジュース、オイル、酒、うん普通だね。空港だからもっと物珍しい物があるかと思ったけど、一般的な品揃えだったわ。


「なあ」

「なに?」

「酒って何?」

「お酒はお酒よ。水が飲めない代わりにお酒を飲む種族が居るからね。普通にメニューに載ってるのよ」

「ふーん、オイルは?」

「機械系統のヒト用、人間と同じ物を摂取できる種もいるけど出来ない種もいるし、そういった機械系のヒトのために燃料に出来るオイルの提供をしてるの」

「へー、アルコール液とかバイオ燃料とかが飲食店のメニューに載ってるの初めて見た」

「カロン君の国じゃないかもね。カガリ嬢はオイル派?分解派?」

「分解派、だから普通に俺らと同じものが食える。カガリ何か気になる物はあるか?」

「?」


 カロンに話を振られても意味が分からないのかカガリは首を傾げるばかりだ。まだ食の好みがないか、食そのものに興味がないかのどちらかだと思われる。

 因みにオイル派、分解派の下りは燃料の話でオイル等の直接燃料になる物を摂取するのかそれとも摂取した食物を燃料に変換するのかの確認だ。

 直接燃料を取り込むオイル派の方が効率的には良いのだが、人間たちと共存するのであれば分解派の方がとっつきやすい。なんせ同じ席で同じ物を食べられるので親近感を持ちやすいからだ。

 故に共存肯定派の国出身の機械系は分解派、否定派の国出身の機械系はオイル派が多い。カガリの出身国は否定派だが、親バカ達が共に食事したいと言う私欲の為に分解派となっている。


「カガリ嬢は味覚を有しているの?」

「ああ、五味の感知機能と基準の味覚情報が入ってる。しかしそう言えばあまり好みを言われた事が無いな」

「まだ、自分の好みが分からないのかもしれないわね。取りあえずオレンジとリンゴのジュースを頼んでみよましょう。カロン君は?」

「コーヒーを・・・・なあ」

「アイス?ホット?なに?」

「ホット、なぜ君付け?」

「そう呼ぶ度に微妙な顔をするカロン君が楽しいからよ」

「お、お前ぇ」


 しれっと言い放ったカレンをものすっごい目で睨みつけてくるカロンを放置し、カレンはジュース二つとホットコーヒー、チョコレートケーキ、ショートケーキを頼んだ。


「甘いものはお好きかしらカロン君」

「嫌いじゃないし、煮詰まったときはドガ食いしたりする。呼び方」

「そう、ならケーキを片方取るといいわカロン君、カガリ嬢はケーキお好き?」

「呼び方。チーフ筆頭に色々食わせたが甘みを嫌がった事は無いな、ただ辛いのは嫌がった」

「そう、既に食の好みが出始めているのね。良い傾向だと思うから焦らずゆっくり見極めるといいわカロン君、ケーキはあなた方二人の分よ」

「ケーキはいただくが呼び方」

「小さい事を気にしていると禿るわよ」

「禿ねーよ!ふっさふさだし!親父もお袋も毛根強いし!」

「お爺さまは?カロン君」

「しらねーよ。てか改める気が無い事だけは分かった!畜生!!」


 あまりにもしつこくやり過ぎたせいかカロン君が拗ねてしまった。まあいいや。

 丁度頼んだ品が来たのもあって拗ねたカロンを放置し、その隣に座っているカガリへの目の前にケーキとジュースを置く。


「さあ、カガリ嬢お好きな物を取ってください」

「・・・」


 無言の返答ではあるが、置かれた二つの皿とコップの間を忙しなく動く目線から興味がないわけではないらしい。

 じっと観察しているとどうやらチョコケーキとオレンジジュースを見ている秒数が長い。多分好みはこの二つだろう。


「チョコはお好きですか?」

「?」

「こっちの茶色のケーキに興味がありそうです」

「ソウ?」

「ええ、ですから食べてみてはどうでしょう」

「イイノ?」

「ええ良いですよ。ね、カロン君」

「勿論だ。食べたい方を選べ、あと呼び方」

「チョコ、ママガクレタ、イイ?」

「はいどうぞ、あとこちらのジュースもどうぞ」


 カロンの抗議を黙殺してカレンはチョコケーキに続けてオレンジジュースも進めてみる。


「オレンジ、スッパイ」

「お好きですか?」

「スキ?」

「飲みたいと思いますか?」

「・・・ウン」

「なら好きなんですよ」

「スキ」


 コクリ、と頷いたカガリの目の前にチョコケーキとオレンジジュースを置き、自身はリンゴジュースを取り、ショートケーキはカロンの目の前に置く、どうやらカガリはオレンジの酸味は好ましいらしい。


 黙々と食べ始めたカガリを横から写真を取ろうとして見事に失敗しているカロンごと写真に収め、出発前に交換したジャンへと送りつけてからカレンはジュースに口を付けるのだった。

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