番外 バレンタイン
バレンタイン、それは男女の甘酸っぱくもほろ苦い思い出、らしいでデスネ!
え?なんか最後がおかしい?だってしょうがないじゃない。いままでそんな経験無かったし、私にとってバレンタインは家族にチョコ菓子を振る舞う日であって思い出を作る日じゃないもの。
強いて言えば家族分とは別に一人分作るぐらいだし、それも身近な相手にあげるものたから特別感はないわね。
個別で作ったチョコを渡す相手?もちろん紅よ。普段お世話になってるパーティーの皆には市販品をあげちゃうわ。
だから世間一般で言われている苦悩も甘さもない。少女漫画や恋愛小説の中に出てくる渡すときのドキドキも受け取ってもらえなかったときのショックも分からない。
だから、
「だから、そこまで思い悩む理由が分からないのよね」
「あ゛ーもう、これだからナチュラルリア充はダメなのだわ!」
「自覚ガおありデありまセンからネ」
「?」
「「はぁー」」
二人に揃ってため息をつかれる理由は分からないけど取りあえず一発はたいても良いかしら?
などと思いはするが、重力に負けてテーブルになつく友人二人を更にめり込ませる気にはなれずやめておく、かわりにそれぞれの頭をひとなでしてお茶のお代わりを淹れにカレンは席を立った。
カレンが狂とカガリを撃沈させたのは彼女と紅が借りているマンションのリビングでの事だ。紅と姫鬼は居らず女三人のみ家でお茶会をしている。
上記の会話で分かるかもしれないが、カレン以外の二人はバレンタインについて相談をしにカレンを訪ねてきたようだが、肝心の相談相手であるカレンはその悩みとは無縁であったらしい。
ちなみ本日は2月12日、バレンタインまであと二日という気合いを入れて取り組むならギリギリの日付だ。
追加の茶菓子を机に置き、淹れたお茶を二人のカップに継ぎ足してからカレンは席に戻り口を開く。
「二人はバレンタインどうするの?」
「私は姫鬼様にあげるのだわ」
「私ハ、パパに差し上げマす」
「あげる相手が決まってるのに何を悩んでるの?」
「「貰ってくれるかどうか・・・」」
「何故そこで悩む?」
頭を抱える二人にカレンは首をかしげたくなる。それぞれの相手は二人を溺愛しているのだから受け取らないはずがない。
だと言うのにこの二人はまったく・・・要らぬ心配でもしてるのかしら?貰えなかったら貰えなかったであの二人が面倒な事になるじゃない。あとカガリさんは故郷の親馬鹿たちにも何か送った方がいいと思うのよね。カロン君のために、じゃないと彼の命が危ぶまれるわ。
取り敢えず、
「何を渡すの?」
渡すように誘導しなきゃね!
「姫鬼様は洋菓子得意かしら?」
「パパはチョコお好きデしょうカ?」
「そこからかい!」
「「嫌いなものあげて嫌われたくない・・・」」
それはあり得ないから!
その後も要らぬ心配をする二人をなだめすかして渡す流れにもっていき、どうにか当日渡すように約束させた。確りと術的な縛りの有る誓約書まで書かせたので渡しそびれる事は無い。カガリには故郷の親たちにも渡すように言い含めその場で花束の受注をさせたので問題ない。で、ここまで来て次にぶち当たるのが、
「何ヲ渡したラ良いと思いまスか?」
「それなのだわ?!どうしようカレンさん!」
「どうと言われても」
これである。私よりも付き合い長いよね?そこで意見を求められても困るのだけれど・・・乗り掛かった舟だからもうちょっと付き合うけど。
「えーと、まず狂ちゃん」
「はいなのだわ!」
「姫鬼さんは洋菓子を食べる?」
「食べない事は無いのだわ。でも和菓子の方を好むのだわ」
「なら洋菓子はやめましょう」
好みがハッキリしているのならそっちに合わせた方が良いしね。
「でも、ちょこれーとは洋菓子なのだわ」
「ええ、でもチョコ菓子は必ずしも洋だけではないわ。チョコの風味がするお饅頭とかもあるし、そういった物を渡せばいいんじゃないかしら?」
「成程・・・お饅頭ってお家でも作れるかしら?」
愛しの婚約者に手作り品をっていうのは素晴らしいのだけれど私に和菓子の製造を聞かれても困るわ。寧ろ和モノは狂ちゃんの方が得意でしょうに、とわ言っても不安そうな狂ちゃんを放置はできないからヒントは出そう。
「そこは文明の利器に頼りましょう。今はインターネットという大体の事柄を教えてくれる魔法じみたものがあるのだから。スマホは持ってる?」
「勿論なのだわ!」
「スマホの検索エンジンを使ってチョコ饅頭の作り方って検索を掛ければ良いのよ。いくつか出てくると思うから作れそうなレシピを探してみなさいな」
「了解なのだわ!」
そう言って狂は物凄い勢いでスマホをいじり始めた。
あんなに高速に指を動かして攣らないのかしら?まあいいわ、取り敢えず狂ちゃん大丈夫でしょう。てんぱってただけだからヒントさえ出してあげればあとは自分で何とかするわ。元々お料理はプロ級に出来るからお菓子だってそこまで不得意ではない。はず・・・お菓子作りと料理は違うしヒトによってとは片方しかできないってヒトもいるけど狂ちゃん器用だから多分大丈夫よ。多分。
さぁあまり時間はかけてられないわ。私の制作時間が無くなるからね!
「次はカガリさん」
「ハイ」
「カロン君は普段お菓子類を好む?」
「・・・そウですね。仕事ノ合間に食べているのヲ見ましタ」
「チョコは食べてた?」
「・・・・・・・・カカオの香りがスル事もあるので恐らクは」
「なら特に問題は無いわね。普通にチョコレートを渡せば良いんじゃないかしら?」
「普通トは?」
「はい?」
「普通に渡すトハどういう事を言うのでショう?」
うん?カガリさんにとってカロン君はお父さんよね?父親にバレンタインチョコを渡すのってそんなに悩む事かしら?
「えーと、去年とかはどうしてたの?」
「去年はありガとうござイます。と言って手渡ししました」
「それじゃダメなの?」
「先日、解体小屋で特別なヒトにハ特別に渡すト話しテイる方が居ました」
「うん」
「パパは特別でス、生まレ故郷を捨てて私ト日本まで来てくレマした。だから特別あリガとうを伝えたいノです」
「それで?」
「ダから特別普通に渡シたいのデす」
えーと?一緒に来てくれたお父さんに特別感謝を伝えたいと、でも普通に渡したい。
つまりは『ありがとう』+『大好き』で良いんじゃないだろうか?
「去年は直接言いながら渡したの?」
「手紙でス」
「じゃあ今年は直接ありがとうって言いながら渡してあげたら?きっとカロン君喜ぶよ」
「本当ですカ?」
「うん、メッセージカードに大好きって書いて一緒に送ってあげるといいんじゃないかな」
「メッセージカード」
「うん」
「わかリましタ。ではさっそく美味しいチョコレートと完璧なメッセージカードを見繕ってキます」
「うん、いってらっしゃい」
表情筋は動かないはずなのに妙にキリっとした表情でカガリは荷物を持って速足で部屋を出て行った。出した紅茶は確りと飲んでいってくれて助かった。他人のカップに注いだ飲み残しのお茶ほど扱いに困る物もないのでありがたい。
颯爽と部屋を出て行ったカガリに続くように、目の前でスマホの画面と睨めっこしていた狂がガバリっと顔を上げた。
「決めたのだわ!」
「レシピ決まった?」
「うん!今から材料を揃えて練習しなくちゃだわ」
「そう、じゃあもうお開きね」
「だわ!カレンさん今日はありがとうなのだわ。絶対に姫鬼様に最高のプレゼントを渡すのだわ」
「頑張ってね」
「うん!」
そう言って満面の笑みを浮かべた狂はカガリと同じ様に自身の目の前のお茶を飲み干し、荷物を持って颯爽と部屋を出て行ったのであった。
「可愛いわねぇ」
目標の定まった二人を微笑まし気に見送ったカレンも自身の分のお茶を飲み干してテーブルの上を片付け始める。
テーブルが綺麗になったところでカレンはいつものフリル付きエプロンをして袖をたくし上げ、ベールごと髪を後ろで縛って調理準備を整えはじめた。
そしていつもの料理と違って計量器やら計量カップにスプーンといった器具をテーブル並べ終えると冷蔵庫からバターに小麦粉等を取り出す。此処までくればお分かりだろう。
「よし!今年も作りますか、クッキーとケーキ!焼き菓子は二日目が美味しいからね!」
女の闘いの始まりである。
もっとも、相手が受け取ってくれることは分かり切っており、尚且つ目の前で美味しいと食べてくれることが分かっているのでルンルン気分なのが友人二人との違いだろうか?
今年も愛しのあの子の為に惜しみない愛情を込めたケーキを焼こう。何やら周囲は引きつった顔をするが、受け取る本人はそれはそれは嬉しそうな満面の笑みで受け取ってくれるのでそれ以外は粗末ごとである。
ルンルン気分のカレンは気付いていない。如月家にはココアのクッキーを紅には大きなチョコケーキを渡している時点で何かがおかしいことを、あと惜しみない愛情とは言うがちょっとそれ過剰じゃない?っと思われていることを、そこまでしているにも拘らず何故プロポーズは受けないのか長年の謎扱いされていることを、本人は知らないのであった。




