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南無

 遠くで悲鳴が聞こえる気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。幻聴であろう悲鳴をカレンは完全にスr『ギャーー!!』・・・スルーする。彼には運が悪かったと諦めてもらうしかない。南無阿弥陀仏。

 未だ聞こえる気がする悲鳴に心の中でそっと合掌してからサクッと目の前の事に意識を切り替える。


 カレンの目の前には先程までジャンが座っていた席に1人の女性が座っている。

 彼女は、定義上ロボットだ。人間に酷似しながらも動かない表情と人間にはありえない肌身からアンドロイドではなく、ロボットに分類される目の前の女性こそが、ジャン達の愛娘『カガリ』だ。


 エメラルドグリーンの長髪、翡翠の瞳、灰色のボディー、およそ人間味の感じられないその姿、しかしながら彼女を一目見たその瞬間から愛されている事はすぐにわかる。

 シワ一つない真っ白なYシャツの襟元には落ち着いたワインレット色のサテンのリボンを結び、襟ぐりや袖口には細かなレース、ボタンは光沢の美しいパールで高級感がある。

 シャツのリボンと良く似たワインレットのフレアスカートの腰部分には大ぶりな同色のリボンが着いたたいへんエレガントな組み合わせだ。

 その服装を見ただけで相当溺愛されているのが分かる。服装だけでもアレだが、髪は艶々に手入れされ丁寧に編み込まれ、瞳には無垢な色が浮かび、ボディーにも光沢が見える。毎日欠かさず磨き続け、愛されてきた証だろう。つまり何が言いたいかというと、


「溺愛ですね」

「勿論!」


 そう言う事である。

 あまりの手入れ具合に思わずこぼした言葉はチーフと呼ばれた女性を筆頭に、その場にいた人たち全員に胸を張って肯定された。

 うん、親バカどもめ!傷ひとつ付けることなく連れ出せるといいなあ。


「えー、こほん。初めまして、私はカレンと言います。あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「ハジメ、マシテ、カレン、ワタシハ、カガリ」


 親バカ達からの圧を受けながらもカガリと会話を始める。とは言っても聞くことは大体決まっているので質問内容は単純だ。

 まず初めに名前、少し長ったらしい聞き方をするのはどの程度まで此方の話を理解できるかを図るためであるので仕方がない。

 名前の次は生年月日、趣味、好きな物、嫌いな物、出来る事、出来ない事、やりたい事、やりたく無い事、行ってみたい場所、行きたくない場所、小さいながらも多くの事を聞く。


 カレンからの矢継ぎ早な質問にカガリは拙い片言の言葉で答えて行く、悩みながらも考え、思考している様ではあるが、殆どの質問に『わからない』との返答だ。

 しかしその答えを出すまでに時間をかけていることから、ゆっくりとではあるがきちんと自分で考えている事が分かった。

 少し意地悪ではあるが似たような質問を言い回しを変えておこなったり、普段使われない言葉で聞いてみたりと、カガリの理解力等も同時に調べた。


「ありがとう。長々とごめんね」

「イイエ」


 やり取りを一通り終えると、カレンはニコリっと笑ってお礼の言葉と共に質問をやめる。

 二人の会話が終わったと見るやカガリが母親たちから構われまくっているが、多分何時もの事だと思われるので、気にしないことにする。あと何長々と独占してるんだ的な視線がビシバシ飛んでくるが、そちらも気にしないことにする。


 さて、受け答えから見るに自我の確立自体は随分と前からしていたかも?

 『わからない』の回答も質問の意味が解らないじゃなくて答えが無い。みたいな感じだったし、表面化したのが彼ヒト運動前ってだけでそれ以前から自我はあったと思う。

 多分きっかけは最後の親との離別、それがショックで或いは伝えたいことがあったから。かな?精神年齢的にはだいぶ幼いけど知識の蓄えはあるし、親たちの会話等を見て日々学んでるようだからスムーズな会話はそう遠くない内に出来きそうね。


 あとは道徳方面の教育かな、これは日本で学校に通ってもらった方が良いかも、今の日本の教育機関すんごいから、まじで。

 生徒がおいたしようものならたとえ自分よりも大きな獣人だろうが、骸骨だろうが、魔王だろうがこってり絞るからね。日本の教師、てかそういうヒト位しか残ってないから。おかげで今教育機関は慢性的な人手不足なんだよね。よくうちにも臨時教師の依頼来るし、最初は教員免許ないからって言ってたけどリーダーの一存でメンバー全員教員試験受ける事になってうち何名か受かったから今そっちに掛かり切りのもいるしね。

 万屋の評価はうなぎのぼりだけどそろそろ過労死しそうなのよねえ、まあでももう少しすればどうにか成りそうって副リーダーが言ってたから大丈夫でしょう。


 とにかく、カガリさんには日本の学校に行ってもらうとして、同行者の人はどうするのかしら?

 今の日本では亡命してきたヒトとその同行者にはどこかしらのギルドに加盟をしてもらえば戸籍の代わりになるから移住は出来るとして、後は職?学校もタダじゃ無いし生活するには先立つものも必要だし、職安やらギルドやらで仕事を探してもらうしかないかな?


 実際に考えるのは本人たちだけどこれだけ大きな会社で技術者として働けてたなら案外すぐ見つかるかもね。例えばウチとか。

 日本に着いたらリーダーに会ってもらうし、その時に勧誘受けるかもね。あのヒトってば連れてきたお客さんをいきなり勧誘するとか結構あるし。


 まあ、なんにせよ同行者の説得がうまくいくといいのだけれど、


『ギャーーー!!』

「パパ?」

「気にしないでカガリ、只の話し合いだから」

「そうよカガリちゃんが気にすることないわ、クッキー食べる?」

「ハイ、ママ、イタダキマス」


 モグモグ


「オイシイデス」

「「「「きゃー、可愛いわー♡」」」


 うん、そろそろ帰りたい。

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