無特徴
不敵な笑みを浮かべるカレンを前にジャンはため息を一つ付き、
「力強く言い切りますね」
「だって今、将来のための実績作りの真っ最中ですから」
参ったと言わんばかりに表情を緩めたジャンに、カレンは先程の不敵な笑みを苦笑へと変えて、ギルドの本音を露とした。
「ぶっちゃけましたね」
「うふふ、だって根拠なく自信満々に信頼しろって言うよりも私は私達の為にあなた方の信頼に答えます。って言われた方が信頼できるでしょう?」
「確かに」
悪戯っ子の様な笑みを口元に浮かべてカレンが笑えば、部屋全体の空気が更に弛緩する。
妙な緊張感も変な不安も、カレンの言葉と笑みに払拭されたようだ。
「改めて、ご依頼をお聞きしてもよろしいですか?」
「もちろん。依頼は簡潔に言えば娘の国外逃亡、亡命です」
ふむ。想像したまんまだね。
状況から見るに、依頼内容は自我を確立したロボット『カガリ』の国外逃亡、及び逃亡先での安定した生活への足掛かりかな?
「娘さんの自我はどの程度安定していますか?」
「一歳児程度の受け答えは出来ます。しかし正確にどの位かと問われると・・・」
一歳児、随分幼いな。九十九に至らずに確立した自我は赤ん坊同然だから仕方ないと言えば仕方ないか、異様に高い警戒も幼い愛娘を思う親心故にかな?
でもそうなると、彼女一人を連れて国を出て行けば良いってものではなさそうね。
およそ30年前に作られたロボットなら体のメンテナンスも必要だろうし、幼い精神を安定させる為にも見知った人が必要になる。となると一人か二人は一緒に来て貰いたいわね。
「娘さんお一人での亡命は賛成しかねます。1、2人の同行者が欲しいのですが」
「同行者、ですか」
「ええ、娘さんは自我の確立から日が浅く、これから自我の成長が進むと考えられます。幼い娘さんにはおのれを無条件で愛し慈しみ、守ってくれる親が必要です」
「あなたh「私には親は務まりませんよ」」
言われかけた言葉を遮ってカレンはきっぱりと言い切る。当然だ。彼女はあくまでも仕事でここに居るだけだ。依頼完了後まで荷物の面倒を見る義理は無い。
何より赤ん坊同然のヒトなど扱いに困るばかりだ。
「・・・貴方ならお気づきだと思うのですが、私共はここを離れられません」
「まあ、そうでしょうね。さらに国は彼ヒト運動後の不安定な時でもありますし、でも1人位は大丈夫でしょう?」
隣の部屋を見やりながら問うカレンにジャンは諦めたように息を一つ付いて肯首した。
「・・・そうですね。確かに1人なら、最後まで娘の側にいたアイツなら大丈夫ですね」
「なら、彼を娘さんの同行者としましょう。ご本人からの承諾とあなた方の準備が整い次第国を出ます」
「急ぎですね」
「ええ、私自身暇でないと言うのもありますが、一番の問題はこの国の情勢です。出国禁止になって正規ルートが使えなくなる前に出たいので」
「なるほど」
彼ヒト運動を切欠に国の色々な所が不安定になっており、いつ出入国が規制されるか不明だ。
表面上何もない今のうちにカレンは帰国し、同行者の人間はパスポートを出して堂々と国を出る。ヒトである彼らの娘は複数の隠匿術を掛けて人間に紛れる。それこそ同行する人物の娘と偽ればいい。
「大体そんな感じで国を出ます。後は臨機応変に」
「曖昧ですね」
「柔軟なんです。硬いとぽっきり折れちゃうでしょ?」
「違いない」
実際上が硬いからこの国は下から折られたのだから。
「では、その人の説得はちゃんとしてくださいね」
「出来る限り迅速にいたしましょう」
「その人の説得が終わるまでの間に娘さんに会わせて下さい」
「了承しました。」
カレンの言葉を受けたジャンが承諾するのを見届けると扉近くの女性が部屋を出て行く、足音と移動する気配から察するに隣の部屋の奥まった所まで呼びに行っているらしい。
流石に話声は聞こえないが様子は分かる。女性は奥の椅子に腰掛る人型の前で何やら言い争いをしているかのような身振りをしだし、遂には細身の人間が椅子に齧りつくようにくっ付き、それを見てイラっとしたのか呼びに行った女性が男勝りにその人物を毟り取るかのような勢いでひっぺ剥がして、椅子に座った人型を懇切丁寧に横抱きで連れてくる。
細身と言え男性と思われる人物を引き剥がすとは、あの女性強いな。
こちらに戻ってくる女性の後を追って引き剥がされた人物も部屋を出てくるらしい。
生きと違い二人分の足音が近づき、部屋の扉が開いた。
「待ってくださいチーフ!」
「もう決定したっつてんだろうが!!」
たいへん男勝りな言葉使いで扉を蹴り開けた女性とその女性に追いすがる様に部屋に踏み込んできた細身の男性が一人、彼が同行者(予定)だろう。
可もなく不可もなく、ごくごく一般的で普通と称される特徴のない容姿の持ち主だ。寧ろ特徴が無さ過ぎるのが特徴?一度見失ったら二度と見つけられない気がする顔だね。
これといって弄った痕も無ければ化粧の気配もない。これ人工じゃなくて天然なの?逆に凄いわね。
ある意味人目を惹くその人物は部屋に入った途端、戻ってきた女性以外の人物に退路を防がれ、行く手を阻まれ、手を掴まれた。
要するに完全包囲された。
「では総出で説得してまいりますので少々お待ちを」
「はい。どうぞごゆっくり」
「え、主任?先輩方?」
「数名を残して他は説得(脅し含む)しに行くぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「え、ちょ、まって、まギャーーー!!」
いささか物騒な声が聞こえなくもない言葉を残し、ジャン・ジャック・フォールド以下十数名は無特徴の男を連れて部屋を出て行ったのである。
合掌




