信用と信頼
その後もヒトに紛れて生活する死者たちや特性を生かして社会に溶け込むスライム等の意思疎通のできる魔物たちや元から日本にいた人外たちの話をいくつかすることになった。
どの話もにわかには信じがたいと言われたが、日本では事実ばかりだ。
「私共の国では考えられないお話ばかりですね」
「その様ですね。ではこれはさらに信じられないでしょうね」
「何がです?」
「実は日本では今ある法を実行しようという動きがあります」
「それは何です?」
「結婚です」
「はい?」
何を言ってるんだコイツは?
っと言った感情がありありと伝わってくる顔で声を上げたのは目の前の男を含む部屋にいた全員だろう。
実は応接間の様な部屋に居るのはカレンとそれに応対する男だけではない。部屋には所狭しと男の同僚たちが居り、隣の部屋にも入りきれなかった人間たちが居るのが分かる。
それだけカレンの話す日本の現状、或いは他種族の差別意識について聞きたかったのだろう。
カレンが語った日本の現状が予想以上にカオスで引いている者たちもいるが、今はどうでもいい事だ。
その引いている者たちも含めて話を聞いていた者たちは思っただろう。『なぜ今更結婚の話し?』っとしかしよく考えて欲しい。今話しているのは日本の柔軟過ぎる異種族の受け入れについてだ。ただの結婚についての話ではない。要するに、
「異種間婚姻を可とする法律ですよ」
「「「「「「「「「「はい!?」」」」」」」」」」
そういう事だ。
世界統合当初、日本では同性婚が認められていなかった。それは道徳とか種の存続の為とか色々言われていたが、要するに日本で同性愛者が表立った行動をしなかったためだろう、実際日本では大っぴらにカミングアウトする者も少なく肩身が狭い。しかし同性愛者の数はけして少なくない。8人に1人はそうだと言われている。
分かりやすく言うとAB型の血液の人や左利きの人に出会うのと同じくらいの割合だ。ね?けして少なくないでしょ?
だというのに日本では同性愛者たちは冷遇されていた。それ故に異種間恋愛、及び異種婚姻など認められるはずがない!っと思われるかもしれないが、実はそうでもない。
世界統合により科学の発展が今までの比では無い勢いで伸び続け、遂に先日同性でも子を儲けられる技術が一般化された。要するに種の存続の為という意見を黙らせる技術だ。
さらに争いが出来ないため様々な種族が仕方なく共存を始める。するとお互いの悪い面だけでなく良い面も見えるようになった。そうすると互いを見る目が変わっていき、恋愛関係に発展することも多くなってきたのだ。
そうすると頑なに他の血を入れることを嫌う種や家以外は種族、同性を問わずして結婚願望を抱くようになる。
そうしたヒトたちの働きによって今現在日本では性別、種族に関係なく結婚できるように法を改正する動きが高まっており近々採決される予定だ。
「そう驚かれる事でもないでしょう?他種族の方々とうまく折り合いが取れるようになり理解が進み、彼らは未知の存在では無くなりました。共に生きる隣人です。その隣人と友となり恋人とならない保証はない。現に今数多くの性別、種族を超えたカップルたちにより国が変わろうとしているんですから」
「そうかもしれませんが、同性愛すら認めなかった国が異種間を認めるとは思えないのですが・・・」
「ふふふ、国の中枢を担う者もヒトですもの、彼らの中にも味方が居るんですよ。それに、変わる時は一気に変わるものですよ。この国の様にね」
「・・・そうですね」
そう、徐々に変わる時もあれば一気に変わる時もある。世界統合などが起きたのだ。その変化は計り知れない。今カレンがいるこの国が他種族の基本権を主張する者達が現れ、その主張が勝ったように。日本の法律に変化が生じるのは別におかしなことじゃない。
「さて、前置きはそろそろ良いでしょうか?本題に入っていただけますか?彼ヒト運動リーダーにして、この国有数のアンドロイド制作会社の元主任、ジャン・ジャック・フォールド様?」
「・・・本名とか何処で調べたんです?」
「私の所属するパーティーには優秀な人材がいますから」
ニコリっと口元に不敵な笑みを浮かべ、カレンは目の前の人物、ジャンの名前を口にする。自己紹介すらされていないのに相手の本名を知っているのは先に言った通り、同パーティー万屋のたいへん優秀な情報員によるものだ。
カレンの名前を聞きつつも自分たちは一切名乗らない当りカレンの事を警戒しているのだろう。実際今まで誰一人としてたどり着けなかった場所に辿り着いた人外だ。仕事を任せるのであれば優秀だがもし自分たちの敵になりうるのであれば脅威以外の何物でもない。
その警戒心から自分たちの情報を与えたくなかったのだろうが、生憎とカレンは依頼主についてそれなりに情報を集めていたのだ。なんせ今まで人外を頑なに拒否し続けた国に人外であるカレンが行くのだ。自身のパートナーはそれはもう事細かく調べて必要そうな情報をピックアップしてくれたので素直に感謝した。
しかし、まさか彼ヒト運動の構成員を全て調べ上げ、何故革命を起こすに至ったかまで事細かに調べ上げるとは思は無かった。うん、相変わらず優秀過ぎる子ね。解り過ぎると腐るって言うし腐らないといいなあ、同じ次元で話せるお友達が出来ないかなあ。
などと自身のパートナーとして先日渡し屋ギルドに登録し、パーティー万屋に正式加入した紅の将来を案じつつ目の前を見る。
名乗っていないリーダーの名前を口にした事で解け掛けていた警戒心を再び抱かせてしまったようではあるが、そんなものは知った事ではない。カレンはこの場所に世間話をしに来たのではないのだからさっさと本題に移りたい。
先程これ見よがしに街中を練り歩いた事で街中には変な緊張感が漂っている。その緊張感に煽られて彼ヒト運動に反対だった人間たちの不満が爆発する前に依頼だけは受けておきたい。
一応、酷い暴動が起きないための緊張継続の為に街を歩いてくれ、という依頼でおこなった行動ではあるが暴動は起きるときは起きる。もし起きた時にこの国に居れば巻き込まれるのは必須、そんなのはごめんである。故にさっさと帰りたい。
「私はけして暇ではありません。それなりに忙しい身です。依頼がないというのであれば帰らせていただきたいのですが?」
「い、依頼はあります」
「では本題に入っていただけませんか?もし日本の現状を話す事が依頼だとおっしゃるなら態々外国のヒトを呼ぶ必要はありませんよね?何か、荷運びのような仕事では?」
「・・・」
ふむ、眉一つ動いてないけど部屋の雰囲気は変わったわね。ここにいる人間全員が同時に警戒心を強めたから気配が変わったんでしょう。
態々この国の人間には馴染みが薄い日本の人外に依頼したいとなると、
「この国にも多かれ少なかれ人間以外が住んでいます。今更その方々を国外へ出したいっといった内容ではないと推察いたします。彼らは人間との折り合い方を知っていますから、そうなると人間との折り合い方を知らないヒト」
「っ」
少し表情に出始めた、って事は考え方はあってるわね。となると人間とほとんど関わり合う事が無い。未だ神秘の残る場所に居た幻獣の類、或いは、
「最近生まれた。人外」
「っ!」
ビンゴ!
小さいながらも隣の部屋で何人かが息を呑む音が聞こえた。恐らく彼らの依頼は紅が調べた彼ヒト運動の原因になったロボット『カガリ』についてだ。
およそ30年前、彼らはアンドロイドの原型とも言われるロボットの開発に成功した。
人間を模した肢体は滑らかに動き、人工知能も素晴らしくまるで本当に会話しているかのようにスムーズで、適切な回答を7割の確率で出来るまでに至った。そう遠くない未来、映画やアニメに出てくるようなアンドロイドが出来るであろうっと誰もが期待に胸を膨らませ、小さな子供たちがその道へと至るきっかけにもなった。
その子供たちの中からカガリを創り上げた開発者たちに辿り着いた者が何人かいた。彼らは開発者たち本人から技術を直接学んだ、いわば弟子とも言える立場となる。その弟子たちは老い行く師たちに代わってカガリを守りながらも大切に進化させ、語り掛け、愛情を込めて接し、遂にカガリはヒトとして自我を確立した。
それは、元々あった人工知能が人間の中で得られる様々な感情を見て、学び続けたが故に起きた夥しいエラーの蓄積により生まれた自我だ。
カガリは人間の何倍もの時間をかけて人間の赤ん坊と同じように自我を形成していき、遂にその自我を外部に発信するに至った。それは奇しくもカガリの元に最後まで残っていた男がカガリの元を去らねばならなくなった日の事である。
娘の様に可愛がっていたカガリが自我を有し、ヒトとして世界に認められた。ならばそれを愛しく思い、守ろうとするのは当たり前の流れだろう。
親たちは愛娘を守るために国を変えたのだ。
しかしただ国のルールを変えただけでは娘は守れない。現にカレンが外を歩けば住民は怯え、不穏な空気が漂い何者かにつけられていた。不躾な視線や敵意も感じたことから人間以外を敵視しているのだろう。そんな国で自我が成立してばかりの赤子同然の人外が暮らすのは難しい。
そう考えれば彼らの依頼は、
「国外逃亡」
「!!」
っと言った所かしらね。
今あからさまに何人か反応したし、間違いなさそうね。あまり顔芸は得意ではないみたい。まあ表に立たないタイプの研究者なら当然かな?
「未だだんまりを決め込みますか?」
「いえ、そこまで言われてしまったのですから正直に話しましょう。ただし、一つ聞かせてください」
「何でしょう?」
「貴方は信頼できますか?」
真面目な顔をしてジャン氏は聞く、面と向かって相手に聞く事ではないと思うのですが・・・。
「渡し屋ギルドは世界統合後に出来た新しいギルドです。故に実績からなる信用はありません」
渡し屋ギルドは種族を超えたギルド、全ての種族から信頼と信用を得なければならない立ち位置、しかし過去の実績がないが故に信用が無い。無いのであれば、これからの為に信用してもらわないといけない。だからこそ、
「だからこそ、依頼人からの信頼だけは決して裏切りません」
だって信用の無い当ギルド、我らがパーティー万屋に依頼を持ち込んだのですから、答えない訳には行きませんよね?
ニヤリと不敵な笑みを口元に刷いてカレンはそう言い切った。




