彼ヒト
「ここか?」
「ああ」
監視カメラを弄り記録させず、人目を避けるため光学迷彩や光の屈折による物体の誤認を使って人の記憶に残らない様に車を走らせる事数十分、辿り着いたのは港の倉庫街にあるコンテナの一つだ。
中にはカガリ他姉妹機たちを制作した時の仲間たちが全員揃い踏みだ。既に国に喧嘩を売る覚悟まで確りとしてきたらしく、コンテナの奥の方がすごいことになっている。
それもそのはずなんせ何かあってカガリを会社から連れ出すとき、つまり今回の様な事があったときには親全員でカガリを守る事をいつの間にやら決めていた。
役に立たなくてよかった約束は役に立ったので、出来ることの全てをやり切ってしまう事にする。なんせ彼らは職人気質な開発者達だ。アンドロイドの完成は彼らの変た否、個性豊かな人々の尽力によるところが大きい。
加えて彼らは親バカだ。ついでストッパーも存在しないわ頭のネジが軽く飛んでいようが気にしない。大体こうなると止まる気も止める気もないので被害甚大だ。事後収集に当たらねばならないヒト達はドンマイ!としか言いようがない。
あとの世で革命と言われ教科書に乗り、事後処理に当たった当時の警察官やら政府関係者が悪夢にうなされる騒動が起こった。
『彼らはヒトである』をキャッチコピーに人間以外の自我有る者達をヒトとして、隣人として国が受け入れる事を願って行われたその騒動はかの国だけでなく、世界が変わり始めるきっかけになったと言われている。
もっとも裏事情を知っている者からするとただの親馬鹿たちの抗議活動なのだが、かの国がひいては世界がヒトを受け入れるきっかけになった事は事実だ。
※ ※ ※
『彼らはヒトである』略して彼ヒト騒動が終結した頃、その国に降り立った者が居た。
ソレはヒトの存在を認めないその国において歴史上初、国に降り立った人外として初めて記録されたヒトであった。
彼ヒト騒動が公式上終結し法律が改正されたことによって人間以外の者たちが大手を振って歩けるようにはなったとはいえ、差別意識が根強いこの国の中で人外である事を大っぴらに出して出歩くものは居ない。
そんな街中を当たり前のように艶やかな紫地に銀の蝶が舞う美しい着物に真っ白なベールを被り顔を隠したヒトが行く、その姿はとてつもなく人目を引き人々の記憶に焼き付いた。なんせそのヒトは歩くことなく宙に浮きながら道を進んでいるのだ。此処まであからさまな人外もそうはいるまい。
着物の人外、カレンは周りからの視線を丸っと無視して首都の大通りを進む、時折気になる店があるのかショウウィンドウの前で止まるが、止まられた方の店の店員は皆一様に逃げてしまうので話しは出来ない。
もっともそんなことは気にもしていないのかカレンは当たり前のように立ち去ったり、時には中に入ってきたりするので店員たちも中にいた客たちも悲鳴を噛み殺しながら店内で出来るだけカレンから遠い場所を通って逃げ回っている。
今回足を止め、中に入った小さなアンティークショップでも同じことが起きており、当然買い物なんで切る筈も、
「あ、これいいわね。すみませーんこれ幾らですか?」
「ひぃ」
「ちょっと、あなた店員でしょ?ちゃんとレジ番ぐらいしてちょうだい。客商売の風上にも置けないわ、私だからいいけど短気なヒトだったらお店ごと爆発されちゃうわよ?世界ルールは自我有る生命を守ってくれても無機物は守ってくれないんだから、あなたの対応一つであなたの周辺が焼け野原になるか、何事もなく去っていくかが決まるのよ?シャンとしなさい!」
「は、はい!」
無いのだが、怯える店員に説教をかましてレジまでこさせ、仕事をさせる事に成功していた。凄い。
「じゃこれ幾ら?」
「20$です!」
「ありがとう、良い感じだし買っていくわ」
「は、はい!」
店員が商品を包んでいる間に店員の方に手を寄せ過ぎないように気を付けつつ20$丁度をレジに置く、不用意に近づくとまた怯えて商品が受け取れないと困るので距離感覚は大事にしつつなので少し気疲れするが仕方ない。
包み終わった商品を恐々と差し出してくるのでゆっくりと手を伸ばしそっと受け取る。
一応客商売だという自覚が生きているのか、はたまたちゃんと接客しないと説教されたときに聞こえた焼け野原が利いているのか、笑みらしきものを浮かべつつの接客に笑いたくなるのを堪える。笑ったら多分逃げる。
「これらこの町は私みたいなヒトが増えるのだから怯えてばかりではダメよ。毅然と構えなさい。なめられたら脅されて終わりよ。所詮誰も他を脅かす事は出来ないのだから。シャンとしなさい」
「は、はい」
「お説教ばかりでごめんなさいね。ただの老婆心よ、じゃありがとうね」
「あ、ありがとうございました!」
カレンの言葉をちゃんと理解しているのかは怪しいが、最後だけは怯え以外の色をのぞかせた店員の言葉を背にカレンは店を後にする。
実はこの時のカレンが話した人物が実はこの小さな店の店主であり、カレンからの説教、もとい忠告でありアドバイスであった言葉を元にヒトに対する接客の仕方を考案し、のちにこの町で唯一ヒトに物怖じせず商売をする店として有名になるのだがそれはまた別の話。
閑話休題
店を出てカレンは地に足を付けることなく進む、皆が皆カレンを遠巻きに怯えと好奇心の眼差しで見ていること自覚しながらあえて目立つ格好で、目立つ行動をする。
この国は既にヒトを受け入れることを表面上とは言え表明した国だ。これほど目立っても手は出されなる事はない。例え送られてくる視線の中に物騒な気配が滲み、尾行されていようともだ。
まあ、しかしお粗末な尾行に辟易してきたので尾行を巻いて目的地に行くことにしよう。そうと決まれば行動は早く気配を徐々に偽造していく、どれだけ注意深く見ていても分からないぐらいの速度で本来の自分の気配を薄めていき、その場に合った気配に移行していく事しばし、自分を見ているすべての目から集中が途切れたその瞬間、辛うじて目の前にあると認識できていた異国の人外の気配をこの国にある当たり前の気配に完璧に偽造する。
見た目だけであれば着物にベールというこの国では異常すぎる姿なのだが、今は誰ひとりとして振り向くことも気に留める事もない気配を身に纏い。カレンは目的地に向かって進み始めた。
辿り着いたのは巨大なビル、それは彼ヒト運動のきっかけとなった騒動が起こった会社の本社ビルであった場所であり、現在の隣人との共存を推薦する会の本拠地となっているビルだ。
彼ヒト運動とそれに付随する騒動によって彼の会社は信用が落ち株価が暴落、底値となったところをカガリの生みの親の一人の主任が買い上げて徹底的に人事をいじったもはや別物と言ってもよい会社だ。
ビル内部も当然いじり尽くされており、現代版迷宮と噂されるほどに複雑怪奇に魔改造されている。
そんな魔改造ビルにカレンは入っていく、入って直ぐはエントランスで受付がある。
受付には『来客の方はインターホンを押してください』との記載と共にボタンがあるので遠慮くなくぽっちとな。
ヴーヴーヴー
『侵入者を感知しました。総員襲撃に備えてください。繰り返します。総員襲撃に備えてください。ただいまより館内は侵入者迎撃に入ります。』
「ふむ?」
ボタンを押した直後にコレっと言う事は侵入者は私?一応依頼でここに来ているんだけどこれは嵌められたか、依頼主に試されているかのどっちかかな?
『侵入に告げる。貴公が我らが求めし者であるならば館内全ての仕掛けを壊すことなく我が元まで来よ。それを成し遂げた者に話がある。聞き入れられないのであれば即刻立ち去るがよい』
首を傾げるカレンの思考を肯定するように放送が流れる。つまりは周りに被害を出すことなく目的地までたどり着ける人物が欲しいと、しかもどこに行くかの指示もないってことは目的地を探しながら進めと、中々難儀だな何処にいる誰に辿り着けばいいのか分からないとか難題も良い所だ。取りあえずは目の前にある道を進む事にする。
通路を歩いてすぐに前後左右上下からセンサーやらレーザーやらを照射されてはいるがまあ気にしない。特に有害でもなければこれといった効果もない。多分監視システムの一端だろう。中には光熱レーザーも紛れてはいるがそういった物は避けるか鏡を使って逸らす。逸らす先に可燃物が無いことも確認済みなので壊してはいないはず。
しかし何もない。これはどこかの端末をハックして内部事情を洗ったほが良いんだろうが、生憎私にそんな高度なハック技術は無い。今まで受けた依頼とはだいぶ違うなあ、大体は力でゴリ押しできる代物ばっかりだったのに急にハイテク技術を求められても・・・取り敢えずヒトの沢山いる場所に行こうか。




