番外 年末年始のご予定は?
それは渡し屋ギルドのパーティーである万屋の本拠地でのことだ。
本拠地の一階部分にある食堂、万屋本舗では年末に向けて掃除を始めている時期でクリスマス目前でもあるその日、カレンの姿はその本拠地にあった。
何故本拠地に居るかと言えば請け負う仕事がなくダンジョンへ行く必要もない。相方の紅も登校日で家に居ないため比較的暇だったためだ。
暇を持て余したので家の掃除でもと考えもしたのだが生憎、家の掃除は昨日紅と一緒に大掃除も兼ねて済ませてあるのでする必要がない。故に本当に暇だったので普段何かとお世話になっている万屋本舗の大掃除に参加したのだ。
そこでは普段食堂にお世話になっているものや、討伐や素材収取などの肉体派以外の者、即ちつくる者たちが大集合する形になっていた。
普段顔を合わせない者同士もいるがそこは同じパーティ、どこかしら似通った所があるので大きな騒動が起こる事もなく――食堂のラスボスを怒らせたら食堂出入り禁止になる為起こさない――複数のグループに分かれて一階の食堂から上の会議室まで幅広く掃除をしている時だった。
「え?年末年始の予定?」
「はい!紅さんと何処かに出かける予定とか立ててるんですか?」
そう言ってカレンを見上げながらキラキラとした目で聞いてきたのは同パティ―の一人で黒の三角帽をかぶり黒のローブを着込んだ小さな魔女だ。
真っ赤な赤毛を二つに分け三つ編みにし、そばかすが目立つ顔には特徴的な星を閉じ込めた大きな青色のクリクリとした瞳の彼女は薬師の魔女、どんくさそうな見た目に反して薬師としての腕は超一流と言われる魔女だ。
魔女は名前を名乗る事も呼ばれることも好まないため通り名だけで個人を判断する。そのため彼女の本名は分からない。しかも魔女は外見をも簡単に変えてしまう者も居るので基本的に信用ならない。
などと言われはするが物理とヒトを見る目だけは確かなパーティーリーダーが加入を許可したので特に問題は無いだろう。
実際、薬師の魔女は甘味に頬を緩め、可愛らしい物を好み、イケメンに目を奪われ、恋に恋する様な見た目通りの可愛らしい女の子だ。
そして薬師の魔女が話しかけた人物、カレンは万屋内でも有名だ。実力はさることながらその側にいる男からの熱烈すぎる求愛もゾッとする様な執着も、それらに気付いているんだかいないんだか不明ながらも満更でもなさそうな様子も含めて有名なのだ。
要するに、これは掃除中に唐突に始まった恋バナである。
「また唐突ね」
「だってお二人とも普段から仲いいじゃないですか、ならクリスマスとか元旦とかどっか行くのかなって」
「そう言うくすりちゃんは?予定無いの?」
「私はクリスマスは魔女集会ですし今年の年明けは丁度その夜にしか咲かない花を採るのに忙しいです!」
「魔女集会、聞いた事はあるけど良く知らないのよね。どんなことするの?」
「色々ですよ。基本的に互いの生存確認しつつ交流を深めて遊んでます!って私の事はいいんですよ!カレンさんたちは何かないんですか?!」
「何かって、特には何も・・・クリスマスは海底都市で一泊二日の旅行に行って元旦は紅の家族も連れて空島に初日の出を見に行きつつ2、3日旅行かしら?お参りだけは地元の神社に行くけどね」
「海底都市ってアトランティスですか?」
「ええ、あそこが今の時期一番綺麗でしょ?空島はラピタよ」
「そ、そうですか」
「ええ」
特に何も、とは?
クリスマスには海特有の美しさとライトアップによる幻想的なイルミネーションで話題のアトランティスに、元旦は某アニメ映画で有名な天空都市に似ていると話題になり今や日の出と夕焼けの絶景スポットとして観光地にもなっている日本上空に浮かぶ空島ラピタ(誤字にあらず)だと?
どっちも予約一年待ちの宿しかないって噂ですよ?そんなところに飛び入れで行けるわけないよね?ならそれ一年前からの計画ですか?
「予約してたんですか?」
「さあ?」
「え」
「数年前に紅がクリスマスに海底都市に行きたいって言いだしてね?渡し屋の仕事も始めてた頃だからお金もあって一緒に行こうってホテルの予約もしてあっるからって言われてね。今更断れないのでしょう?観光スポットなだけあって綺麗だし楽しかったのよね。それから毎年チャックインと一緒に来年分の予約も取るようになったのよ」
「へ、へー」
仕事始めた頃ってあんまり稼げませんよね?稼ぎのほとんど費やしたんですか?と言うか最初の年とかどうやって部屋取ったんです?相当コネとか必要だと思うですけど、紅さんの交友関係にリゾート地関係者とかいるんでしょうか?て言うかそんなカップルの聖地とも言えるような場所へクリスマスに旅行に行くってことはこのヒト達恋人なんでしょうか?
「家族はいいのかって聞いたら元旦は空島のラピタの旅館を予約してるからそっちは家族と行くって」
「カレンさんもご一緒ですか?」
「うん、最初は家族水入らずなんだからって言ったんだけど私も家族だから一緒じゃなきゃ意味ないって、おば様たちにも同じこと言われちゃったから私も一緒に行ってるわ。勿論紅だけにお金を出させるなんてさせてないわよ?元旦分は半分づつ出してるわ。クリスマスだけは男のプライドだから全額出させて欲しい言われてしまったからホテル代はお願いしてるの」
「そ、そうですか」
「ええ」
家族公認の仲じゃないですか!これはご両親への挨拶も済んでいると見るべきですよね?つまり既に婚約者の様なものなのでは?
しかし普段のカレンさん達の様子を見るにご本人に気付かれないうちに外堀を埋めているだけっと言う可能性も捨てきれない?そもそもすでに家族認定されているのにその辺を軽くスルーするカレンさんも凄いですね。
これが天然という物なんでしょうか?それとも故意ですか?もし意図的なら相当な小悪魔ですね!カレンさん!
しかし紅さんも凄いですね。リゾート地のアトランティスのホテルをランクは定かではありませんが一泊二日分全額出し、尚且つ観光地かつ元旦のラピタの旅館を半分とは言え出すとは相当財力がないとやってられないのでわ?そんなに稼いでいたでしょうか?実はその他の部分で相当節約でもしているんでしょうか?
っとそこは問題では無いですね。
「なら年末年始は大忙しですね」
「そうね。大掃除も前倒しで終わらせて旅行の準備をして、郵便物とか溜まらない様に連絡入れたり少しバタバタするわね」
「でも楽しみなんですね」
「わかる?」
「はい!だってさっきからずっと笑ってますもん!」
「あら、そうだった?変な顔とかしてない?」
「全然!楽しそうですよ!」
「うふふ、そうね。楽しみだわ」
「本当に仲がよろしいんですね」
「長い付き合いだもの。不仲ではやってられないわ」
ベールから覗く艶やかな赤い唇は嬉しそうな弧を描く、これだけで彼女が幸せなそうなのが見て取れるような幸福そうな笑顔だ。
カレンさんが紅さんからの重過ぎる想いに気付いているかは分かりません。なんせ天然なのかとぼけているだけなのか判断がつかないからです。目元が隠れているとそれだけで真意は分かりずらいのです。
ですが、
「カレンさん幸せそうです」
「そう?」
「はい!とっても幸せですよ!」
「うふふ、ありがとう」
「はい!」
カレンさんが幸せなら問題ないですね!
紅さんみたいに深く愛してくれる誰かがいて、更にご自身は強くてカッコ良い。でも可愛い所もある貴方は私の憧れです!
そんな貴方に幸せな年が訪れますように!
良いお年を!




