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「――、―――!」


 なんだ?


「―――!」


 外が騒がしい。


「―――!!」


 一体何が?・・・!!そうだ。早く戻らないとカガリが、娘が!


 グラグラと揺れる頭で思い出すのは気を失う前のこと、娘の一大事だ。周りを見渡せば荷物が乱雑と置かれた狭い部屋だった。何かの倉庫だろうか?

 ドアノブをひねってみるが、当たり前の様に扉には鍵が掛かっている。閉じ込められているのだろう。しかしここの会社の奴は間抜けなんだろうか?カガリのソフトを創り上げた開発者であり、今現在の最新式のアンドロイドのソフト開発にも携わっているヤツを相手に電子ロックって、舐めてんのか?


 手のひらサイズの小型PCは取り上げられていたので腕時計に仕込んであるPCを立ち上げ、電子ロックと繋げてちょちょいのチョイで解除終了、そっと外を窺いみて誰もいないことを確認してから外に出る。


 しかし起きた時に聞こえてた騒がしさは何だったんだ?今はシーンと静まり返っている廊下をなるべく音を立てない様に、しかしできる限り素早く移動する。ロック解除のついでにハックした地図によるとこの辺は昔使われていた旧社らしい。

 今は使われていないが、昔カガリ達の製造をしていた頃は使われてた建物だな、改装されてはいるがちらほら見覚えがある。


 地図と昔の記憶を頼りに取り敢えず現在使われている本館へと向かう、今カガリがどこにいるのか探さないといけない。

 探し出したらカガリを連れてこんな所さっさと出よう。それで有り金持って日本にでも行って、どうにか暮らす術を見つけよう。

 上手くいく確率がどんなに低くてもこんな場所に居続けるより確実にカガリの為になる。老い先短い俺にどこまでしてやれるかは分かんらん。でもやれるだけやろう。それがみんなとの約束で俺が親としてカガリにしてやれることだ。


 歩く、歩く、歩く、歩き続ける事しばらく、微かに聞こえてきた足音と話し声、どこか緊迫しているような声の主は俺がいる通路のすぐ側まで迫る。


「おい!どういうことだよ!」

「知らねえよ!!」

「ただの人形を壊せって命令だったんじゃなねえのかよ!なんであの人形は壊せないんだ!」

「知るか!壊せないんならヒトが入ってんじゃないのか?!だっておかしいだろあんだけ大量の銃火器で撃ってんのにあんな、あんな旧式ロボットがどうやっても壊せないなんて!」


 騒がしい声は通り過ぎていく、話の内容からカガリの事だろう。既にぶっぱなしやがったってわけだ。胸糞悪い。銃火器を撃ったってことは中庭か?

 中庭の見える位置まで進むが、いつも通りにしか見えない。流石いに銃火器を撃てば景色は変わる筈だ。それがないなら地下か?確か名ばかりの射撃訓練場があるって話だったがそこはほとんど使われないらしいが他に手がかりもない。取りあえず行こう。


  歩く、歩く、歩く、歩く、人に見つからない様に地下へ向かって歩き続ける。

 騒がしい。目が覚める前に聞いた騒がしさだ。この音を聞いた?監禁場所からここまでかなりの距離があるのに?いや、今はどうでもいい。カガリの安否が知りたい。

 進み続ける事しばらく、広いその場所に出た。


「何故だ!何故壊せない!!」


 そこは広く狭かった。矛盾しているが矛盾していない表現だろう。射撃場らしく広い部屋は、しかし様々な銃火器を所狭しと置かれたせいで狭く感じた。

 そして、その中央には、


「これだけの銃火器がありながらなぜガラクタ人形一つ壊せないんだ!!」


 俺たちの大切な娘が居た。


 視界が真っ赤に染まりそうだ。

 大切な娘を取り囲む銃火器とそれを操作する人間たち、その人間たちに当たり散らす見覚えのある顔、さっき俺を撃ちやがったクソ野郎だ。

 カガリの周辺には大小さまざまな大量の穴、大方銃の弾がヒトであるカガリには当たらず横にそれて行ったものだろう。 世界の強制力を覆すすべを人間は持たない。世界にヒトとして認められたカガリは殺せない。それを認められない上司も国も大嫌いだ。愛国心とかどうでもいい。娘を否定する国に愛など抱けるわけもない。だから、


「カガリ」

「パパ?」

「おいで、一緒に行こう」

「ウン」


 出て行こう。お前たちが認めない我が子を連れて、この子が幸せになれる場所まで行こう。

 カガリを中心に半円になっている人間と銃器の間を抜けてその中心へ、ペタリと座り込んでいる愛娘に手を差し伸べる。


「―――!!」


 外野が何やら喚き散らしているが、知った事じゃない。

 どうせ世界の強制力が働いて殺せないのだ。ならば堂々と出て行こう。ここから、この会社から、この社会から、この国から、いきやすい場所まで出よう。ここに娘の幸せは無い。


 俺が差し伸べた手を掴んだカガリを引き起こしてやりぎゅっと抱きしめる。

 冷たく硬い金属の感触は、それでも娘の体であるというだけで大切だ。女の子なのだからとママたちが着せていた白いワンピースは泥だらけで編んであげた三つ編みもボサボサだ。

 服はあとで新しいの買ってあげよう。髪は編み直してやろう。最後のママが居なくなる前に厳しく指導されたので男伊達らに三つ編みは得意なのだ。


 抱きしめた体を離して手を引いて歩きだす。

 ろくなことを言わない外野の言葉はすべて無視をして銃と人間の間を通り抜ける。

 強制力は意識外から来た攻撃すらも防いでくれるが衝撃や音まで防げない。しかし意識内の攻撃に関しては強く意識すれば衝撃や音すらも防ぐことができる。暴言なんかがいい例だ。自身の精神を汚染する害意であると強く意識するとその言葉は聞こえない。だからこそいけ好かない上司の言葉は耳に入らない。

 目の前で銃を構える輩を拒絶し、遠くで銃を構えているらしい人間――地図のハック中に見つけた狙撃手配置図より――からの攻撃も拒絶して無駄に大きな会社を後にする。


 本来なら逃亡用の資金やら経路やら手段やらを講じなければいけないのだが頭に血が上っていてそれどころではなかった。

 多少考えなしではあったがまあ大丈夫だろうなんせ、


 キキーー!!


「っとに考えなしだなお前!!」

「そんなんでカガリちゃんを守れるの?このおバカ!」


 会社の前で大きな車が急停車した。

 その中から顔を出すのは以前会社を解雇された同僚の男女だ。


「すまん、でもどうせお前らもこっち見てたろ?」

「「見てたけども!!」」

「なら大丈夫だと思ったんだよ」

「・・・はぁ~」

「・・・まったく」

「ん?」

「しょうがねぇなぁ」

「しょうがないわねぇ」


 首を傾げる俺に二人そろってため息をつかれた。ムッこれでも同僚たちは信じてるんだ。頭が良くて抜け目の無い奴から徐々に解雇されてるのにはとっくに気付いてた。だからこそプログラムし出来ない俺は最後まで残れたんだ。他の奴らは外からいつかの為に色々と準備をしていた。

 ソレが実らないことを願ってたが、実ったものはしょうがない。

 迎えに来た同僚の車に乗り込む、会社を出てくる前にセキュリティーシステムの誤作動を起こして社内の人間の足止めなんかをしておいたが、あまり長くはもたんだろう。さっさと離れた方が良い。

 カガリを後部座席に俺は助手席に乗り込むと車は素早く発車する。


「あ~ん、カガリちゃん久しぶりね!会えて嬉しいわ。お洋服が泥だらけになっちゃったわね。あとで綺麗なの用意してあげるからね。髪の毛もボサボサ、櫛持ってるからとかしてあげるわ」

「ママ」


 乗り込んで早々にカガリに構い倒すのはまぁしょうがない。彼らは早い内から会社を追い出されたので娘に会うのは久々なのだ。


「可愛い娘に銃を向けるなんざ何考えてやがる。しかしよくどこも壊れすに連れ出せたな、腕のいいスナイパーとかだとカガリだけ狙い撃ちとかしてきそうだが、居なかったのか?」

「ああ、それh「きゃー!!」!?」

「な、なんだ!敵襲か!?ミサイルでも撃ってきたか?」


 意気揚々とカガリを構いだ押していた女から悲鳴が上がる。隣でハンドルを握っていた男が慌てて周辺を確認するが、ヘリが追ってくる気配はない。

 当然だ。なんせヘリやら車やらのコンピューター制御ものはウイルスを流し込んで壊してあるので追って来れるはずがない。

 いつかこんな事があったときの為にチーム全員で決めておいた事なので抜かりはない。主任てほんとに悪魔のような人だよな。


 男もそれに気付いたようで舌打ち一つで動揺を収めると、悲鳴を上げた後部座先の女へと文句を言おうと口を開きかけるが、それよりも早く女は声を上げる。


「ちがうわ、カガリちゃんもう一回言って」

「ママ、ダイスキ、パパモ、ダイスキ」

「!?!!!???!」


 女に乞われ、カガリはもう一度女へと先程と同じように話す。

 これに驚くのは男も同じだ。一緒に会社を出て来た男は兎も角、運転席でハンドルを握る男は初めて聞く、それはプログラミングによる受け答えではない。カガリ自身の言葉だ。


「音声じゃないの!プログラムじゃないのよ!」

「分かってるよ!俺だってカガリの親だぞ!それぐらいわかる。おい、もしかして」

「おう、カガリはヒトだ。ヒトとして自我が確立した。だから奴らはカガリを殺せなかった。もっともカガリをヒトとして認めずに殺そうとしたけどな」

「成程、それで今回の脱走劇か」


 納得したように男は頷いてバックミラーで後部座席を見る。

 そこでは感極まった女がカガリに抱き着いて優しく頭を撫でているのが見える。ちょっとずるい。

 あとで頭を撫でてやろうと心に決めて、仲間内だけで通じる通信回線を開いてそこに今の一連をやり取りを報告しついでに、


「カガリ俺の事は好きか?」

「ウン、パパ、ダイスキ」


 の一言の後に切ってから運転に集中する。うん、嬉しい。娘が可愛い。

 にやけそうな、寧ろにやけた顔ではあったが運転はたいへん快適なドライビングだった。

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