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準備

 大豆屋で無事に醤油と味噌を手に入れた紅達はその後何事もなく店を出て解体場まで戻ってきた。

 中に入れば相変わらずの凶悪面でガイルがカウンターにどっしりと構えている。


「ガイル戻ったぜ」

「おう、解体なら終わってるぜ、量が有るから直接取ってきてくれ」

「分かった。カレン行こう」

「ええ、ガイルさんお邪魔するわね」

「ああ」


 カウンター内で凶悪面を晒しているガイルと気軽に挨拶してそのまま紅とカレンはカウンター脇から奥の解体室まで入っていく、姫鬼達は先程と同じようにその場で待っているらしく奥には入らずその場にとどまった。


 奥へ続くそれなりに長い通路を抜けると大きな倉庫の様な場所に出る。巨大な倉庫内にはこれまた巨大な台があり、その大きな台の近くには小さめの台が3台配置されている。巨大な台は解体物を乗せ、小さな台は小分けにした肉や解体用の刃物を載せる台として使われており、今も複数人が利用している。

 大1小3のセットが複数並ぶ程の空間で二人が目指すのは大量の肉と植物が山積みされた一際巨大な台とその前に佇んでいる人物だ。


「カガリさん」

「カレン様、紅様、御待ちシてオりまシタ」


 解体物の前に佇んでいた人物、カガリにカレンが近づきながら声を掛けると、カレンの声に振り返ったカガリは綺麗なお辞儀をして二人を迎える。


「どんな感じだ?」

「ハイ、完璧ナ血抜きガなサレていたノで良質な肉と魚介が大量でス。植物も食用部位と素材部位と分けテあります。不要な部分は処分でヨロシいでしょうカ?」

「ええ、お願い」

「承りまシた」


 カレンの言葉にもう一度綺麗なお辞儀をして答えるカガリに、にこりと笑顔を見せてからカレンは台の上に山積みにされた食材に手を向けて術を発動させた。

 円形の黒いものが台の上、食材の下に一ミリの狂いなく出現する。と同時に食材はその穴に落ちて行き、数秒もかからず台の上から食材は一つ残らず消えることとなった。


 カレンが使ったのは異空間魔法の一種で四次元収納だ。カレンが袖下に展開している異次元収納と同じで原理で同じ効果があるが、袖下のものは一度に一個づつしか収納できないの対してこちらは一度に何個でも収納できるため複数収納に向いている。

 しかし四次元収納は異次元収納よりも消費魔力が極端にでかい。これは一瞬空間を開ければいい異次元収納に対して、四次元収納は常に空間を開けていなければならない為である。なので多用する者はあまりいない。


 加えて任意の場所に出入口を作るのには精密な術のコントロールを必要とする。なので慣れない者は変な場所に出入口を設けてしまい無駄に疲れるともっぱらの話題だ。

 手が届かないとか出し入れに面倒な場所に出ただとかはまだ可愛げがあるが、ひどい時だとお腹に出入口が開いたとか足元に空いて落ちたとかなんとか、慣れない人が使うときは周囲の了承を得てから使いましょう。


「相変わらズ見事なコントロールでスネ」

「うふふ、ありがとう。そういえばカガリさんはもう上がり?」

「ハイ、本日の業務ハ終了いタシました」

「なら家へ来ない?」

「エ?」

「カガリが他に用事があるなら断ってくれていいが、ないなら来ると良い。カレンも狂も喜ぶと思うぞ」

「ええ、カガリさんが嫌でないならお泊りしていって」


 カレンの術コントロールにパチパチと軽い拍手を送っていたカガリはカレンの言葉に手を止め、声を上げつつも動きを止めてしまう。

 掛けられた言葉に困惑してしまったのだろうカガリに紅とカレンが言葉を重ねると、動きを止めていたカガリがハッとしたように動き出した。


「嫌だなんテとんでもナイ!ぜヒ!」

「無理はしてないか?」

「ハイ」

「なら終わったら家に来てね!」

「すぐに行きまスネ!」

「またあとで」

「ハイ!」


 紅とカレンの言葉に弾んだ声で答えるカガリに手を振って別れ、姫鬼達の元へと戻った。


「っと言う訳でカガリさんも来るから」

「やったのだわ!ご飯の後は女子会ね!」

「てことは俺らは男子会?」

「俺らが集まって話す事あるか?」

「ぷぴぴ?(どっち行ったらいい?)」

「「お前は男認定」」

「ぴ!」


 姫鬼達と合流後、解体所を出て紅達はカレン名義で借りられている部屋へと向かう。道すがらカレンからカガリの参加が伝えられ、それにテンションの上がる狂と、女子会が開催されるなら男子会もすべきか?などと考える姫鬼と開いてどうするんだっといった紅の突込みと、性別不定のライからどっちに参加すべきかと声が上がったりしている。


 因みにスライム族は性別が無いのが普通だ。基本的に本人の心情次第で変形可能なので自己申告制だったりする。ので周りがいくらお前普段の性格的に女風呂に入れんだろ!っと訴えたところで女風呂に入れてしまう生き物だ。

 無論その場合は警察待ったなしの警察勤務の同族にこってり絞られるのがオチだ。


 そうこうしてるうちに部屋付きさっさと中へ、応接間を通してから部屋に入ってもらい。夕食の準備へと移っていく。


「何を作るつもりなのかしら?」

「基本的に焼き物にしようと思ってるの、鬼と人間だと味覚が違うし各自で味を着けてもらう感じね。お肉が大量だし焼き肉かしら?」

「焼肉!良いわね!ご飯はあるかしら?」

「2升(3キロ)位有れば足りる?」

「お肉を中心的に食べれば大丈夫なのだわ!」

「野菜も一緒に食べてね。キノコは半分は焼いて後は汁物にでもしましょうか、根野菜もあるから豚汁ならぬドラ汁?にしましょう」

「良いのだわ!海鮮も鉄板で焼くで良いのかしら?」

「貝類は網焼きで烏賊とか蛸は炒めましょう醤油バターが美味しいわよね。お魚はどうしましょう?」

「お刺身!捌き方だったら私が知ってるのだわ!烏賊や蛸も少しお刺身にしても良いかしら?」

「うん、良いよ。あらとか出るしあら汁も作ろっか」

「骨は良く焼いて御煎餅ね!砕けば振りかけになるし余る事は無いのだわ」

「「と、言う訳だからキリキリ働いてね!!」」

「「「イエッサー!/ぴー!」」」


 家についてエプロンをして材料を出しながらの女性二人の言葉に男子三名(一人は推定)は揃って返事を返す。

 普段台所を預かる事が多い人に逆らう事ほど愚かな事は無い。女性陣の言葉に従い男達は即座に大きな鍋やらホットプレートやら炭やらを出してくる。

 二人暮らしの部屋の一体どこに有ったのかなど聞くだけ無駄だ。元の部屋にはない部屋があるのは当たり前、物置の一つや二つ普通に増えるし今居る部屋にいくら物を持ち込もうが手狭になる様子が無いのは当然のことだ。


 BQセットが出て来たあたりでベランダと部屋の境の空間を歪めて中庭の様な場所を作りそこで炭を熾して貝類と甲殻類を焼き始め、その隣ではご飯用の簡易釜戸に火を入れたりなど、男性陣が力仕事全般を行っている。


 一方女性陣がいるキッチンでは色々な物が宙を舞っている。

 けして誤字でもなければ見間違いでもない。様々な器具や食材は意図的に宙に浮かされ使われている。

 カレンはまず最初に2升分のお米を洗って羽釜に入れて男性陣の方へ渡し、水道からの水を複数の水玉にしてその辺に浮かせ、いくつは沸騰させておく。


 次に汁物の下ごしらえをしていく、具材は根若(こんにゃく)、キャロ、五棒(ごぼう)、ボポト、長根木(ながねぎ)、――蒟蒻、人参、牛蒡、里芋、長葱によく似た食材で寧ろほぼそのままな味なのだがモンスターから採れたり、見た目が異なるため別の名称や字が当てられている食材――と冷蔵庫から取り出した大根にキノコ屋で買ったキノコだ。

 こんにゃくを一口大に千切りって沸騰させた水玉の中に放り込んで下茹でし、キャロ(人参)、ごぼうは、ボポト(里芋)、大根は一口大の乱切り、きのこも一口大に切り、長ねぎは小口切りにそれぞれ切りつつその辺に浮かしたボウルに入れていく、その間に念力やら重力操作やらを駆使して大鍋で薄切りにしたドラゴン肉を炒める。

 炒めた肉に切った野菜とキノコを入れてさらに炒め、いい感じに火が通ったら水玉の一つに時間短縮を掛けて時間を早め、昆布と鰹節を入れてひと煮立ちと弱火にして煮て出汁を取る。を数秒も掛からず終わらせただし汁と水を鍋に入れて野菜に火が通るまで煮る。を術で処理しながら玉根木(たまねぎ)紅天狗(べにてんぐたけ)、ピーマグ、塔唐土(とうもろこし)等の鉄板焼き用の野菜を切る。


 などなど同時進行で料理が進んでいく、基本的に食材は自身の手で切り炒めたり煮たりは片手間に術でおこなっているらしい。

 実質複数の腕や体を同時に動かしているようなものなので、処理能力が足りなければ廃人に成りそうなものなのだが、まあそこはカレンだからで納得できてしまう範囲だ。


 ちょっと常人には真似できないやり方で調理していくカレンの横では狂がある程度扱いやすい大きさに解体された魚介を更に食べやすい様に切っていく。

 マグロに似た赤身の魚から鯛に似た白身、ブリやらハマチやらに似たもの、烏賊や蛸は美味いとされる部位を刺身にして他は炒める様にぶつ切りにしたりと綺麗に切り分けていく、よどみなく動くさまを見るに魚捌きは余程手慣れているのだろう。

 次から次へと盛り付けてはカレンへ渡し、異次元収納にしまってもらい次の魚を貰う。魚が尽きれば甲殻類の捌きに入る。

 時間短縮を掛けて貰った熱湯玉に一つまみの塩を入れて蟹を塩ゆでし、水洗い。はさみと足をもいでふんどしを剥がし、甲羅を取り外して皿に盛る。とこれまた見事に処理していく、得意云々ではなく板前かと目を見張るほどの腕前だが、すべて愛する婚約者の為に習得したものなので世には出ない。惜しい。


 魚介の解体中に出た甲羅や頭、小骨を鍋に入れてカレンに渡す。カレンはそれに水を入れて火にかけ、時間短縮を掛けてじっくり煮込んで出汁を取り、殻等を取り出し味噌を溶かしてほぼ同じタイミングで出来たドラ汁と同時進行で作っていたハサイ――白菜に似た野菜――の間にドラゴン肉を挟んでぶつ切りにして土鍋に敷き詰め顆粒だしを振りかけて煮て作ったハサイ鍋共々異次元収納へと仕舞う。

 汁物と魚介の処理は終わった。次に取り掛かるのは焼き物だ。

 とわ言ってもそれほど手間では無い。キノコやソーセージを入れバターを落としたものや、魚と野菜、軽く火を通して切れ目を入れた芋類などをアルミホイルで包むだけだ。


 そうした細々とした事をしている内に時間が一時間ほどたった頃に全ての準備が整った。あれだけ大量の食材を一時間足らずで捌ききった二人の手際はお見事としか言えない。途中常人には出来ない工程がいくつも入っていたが気にしない。気にしないったら気にしない。


 最後にサレカの葉――サニーレタス的な野菜――を洗ったら準備完了である。

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