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大豆屋

 縁日商店街の中央付近に少し大柄な建物がある。そこが紅達が目指す場所『大豆屋』だ。

 大豆屋は近代デパートの造りの建物で中には豆腐屋をはじめ味噌専門店、醤油専門店、大豆油店のほか豆乳専門店やら豆腐料理専門店、果てはおから料理専門店等、大豆由来の店が所狭しと入った施設だ。

 所狭しと入っているにも拘らず中では狭さを感じない。これは商店街と同じような仕組み故にだ。


「えーと、どこにあると思う?」

「あー、2階か?」

「リットル売りってことは人間のお店でしょう?1階じゃないのかしら?」

「いや、中が捻じれてるから昨日は1階今日は2階、明日は5階とかあるだろ」

「ぷぺ!(迷路!)」

「人間のお店まで移動するなんて、相変わらず厄介なのだわ!」

「建物その物が迷い家だからね。何処に店舗があるかは建物の気分次第だからしょうがないわ」


 大豆屋と呼ばれる建物は普通の建物ではない。

 確かに空間の捻じれがあるため普通よりも数多くの店舗が入っているが、そんなことはこの商店街では当たり前だ。中と外の面積が一致している店など存在していない。そういう場所なのでそこはスルーするとして、大豆屋が普通ではないのはその建物自体が意思と自我を持つ隣人そのものであるからだ。


 その名も迷い家(まよいが)、迷い家とは訪れた者に富貴を授ける不思議な家であり、訪れた者はその家から何か物品を持ち出してよいことになっている。しかし誰もがその恩恵に与れるわけではなく、欲をもった人を案内したせいで富を授かれなかった者もいるなど、言い伝えは諸説ありそれをモチーフとした様々な作品が世に出回っている。大豆屋の迷い家はそのどれかをモデルとして何処かの誰かが気紛れに創り上げたヒトだ。


 建物そのものが迷い家なのではなく、建物に憑いているものが迷い家なので建物の外見は変えられない。しかし中は自由にできるので迷い家の気紛れで店の場所、内装、道の増減などが変わるので大豆屋は常に迷宮状態だ。


「何もない時は楽しいんだけどな」

「ワクワクするわよね」

「紅とカレンさんは気にしない派か、俺はイライラしてくるな」

「私もよっぽど暇なとき以外はイライラ派なのだわ!」

「ぴぷー。ぴ(ふまれる。怖い派)」

「「「「あー、どんまい」」」」

「ぴ~(泣」


 若干一名泣きながら頭に縋り付いているが、和気藹々と話しながらお目当ての店を探す。紅達は人間が経営している店を利用しているので他の妖怪経営店よりはあまり動かない。なので前回店があった場所を中心に探す事となった。

 妖怪経営だとしょっちゅう場所が変わるので探す方は一苦労だ。

 因みに、お店の人は迷いなく最短ルートで出入りができるように調整しているらしいので寧ろ楽らしい。

 閑話休題


 探し始めて5分頃


「相変わらずごちゃごちゃだな」

「あ、いつも使ってるお醤油屋さんなのだわ!」

「ああ、例の樽買いの?」

「だわ!」

「なんで探してないときは簡単に見つかるんだ?」

「物欲センサーかしらね?」

「ぴ?(センサー?)」

「欲しい物が欲しい時には手に入らない」

「しかし要らない時は滅茶苦茶出る」

「ぴー(なるほど)」


 探し(中略)10分


「あれって幻のおから料理専門店?」

「なにそれ」

「紅君知らないのかしら?お料理全部に必ずおからを使うお店なのだわ」

「ぴぴぺ?(おいしいの?)」

「中々美味しいって有名なのだわ」

「確か美味しくてヘルシーってそれなりに有名のはず、只とてつもなく見つけずらいって聞いたよ」

「なんでそんなの見つけるんだよ」

「物欲センサーじゃないかしら」


 (前略)30分


「あ゛ーーもう!お店が無いのだわ!」

「ほんと、イラつく場所だな。壊したい」

「壁を開けたらないかしら!」

「どうどう、姫鬼、狂、そんな事したら迷い家が怒るだろ」

「そうよ、それに壁は有って無い様なものだからお店の人に迷惑よ」

「ぴー(でも、つかれた)」

「あら、ライさんが溶け始めたわ」

「まじか、ライ顔の方には垂れてくんなよ?前見づらい」

「ぴ」


 捜し歩くことにイライラが募っているらしい鬼組と、ハリのあるボディーを維持するのに疲れて垂れ始めたライの様子を見るに、そろそろお目当ての場所に着かないとヤバいらしい。

 確かに普段目にしないものは見れたが、今そういうの要らない。というのが心情だろう。見つけやすいはずの店は見つからず、幻とまで言われた店は見つかっているあたりたいへん解せない。恐るべき物欲センサー。

 今にも堪忍袋の緒が切れそうな鬼二人と、頭部を覆う勢いで垂れているライをちらりと見やってから紅はカレンに目伏せをすると、カレンもこくりと一つ頷いてその意図を読み取った。


 コツリ、とカレンはその場で踵を一鳴らしさせ意識を集中する。意識を肉体から離し建物の外と内の境に入る。そして最初に建物の境に張り廻られた迷い家の意識に接触、内部に入り込んだことへの謝罪と見取り図を制作することをへの承諾を貰い、探している店を探し出す。探し出したら現在地と店までの最適ルートを割り出し、最後にもう一度迷い家の意識に接続してお礼を述べて意識を自身の肉体まで戻した。


「ん」

「どうだ?」

「あったわ。姫鬼さん、狂ちゃん、ライさんお店見つけたよ」

「は?」

「だわ?」

「ぴ?」


 大分ストレスが溜まっている三人に声を掛けると、クエスチョンマークを出しつつ三者三様の気の抜けたような返事が返ってくる。


「じゃ、行くぞ」

「そろそろ良い時間だもの、早く買って解体所の戻りましょ」

「は??」

「だわ??」

「ぴ??」


 しかしそんな三人には構わずクエスチョンマークを出しっぱなしの狂の手をカレンが引き、その後ろをライを乗せた紅が姫鬼の背中を押して進ませながら着いて行く。

 カレンの先導の元歩く事数十秒、一分にも満たない距離にお目当ての店、紅とカレンの御用達である人間経営の醤油屋『キッコマ』に到着した。それと同時にキッコマの隣に味噌屋『マルメ』もあったので本日の目的が一遍に終わる事となった。


「到着!」

「お、マルメもあるな、探す手間がない」

「はぁ?!」

「だわ?!」

「ぴ?!」


 紅とカレンは店の前に着くなり姫鬼と狂を離して店に入っていく、紅に至っては姫鬼の頭に勝手にライを乗せて首をボキボキ鳴らしながら歩いている。それなりに凝ったらしい。

 今まで散々探しても見つからなかった店があっという間に目の前に現れたことに驚愕する三人を見事にスルーし、二人は店内でいつもの醤油と味噌を買って未だポカンとしている三人の前に戻ってきた。


「おまえら何時まで間抜け面晒してる気だ?」

「買う物買ったし解体所まで戻りましょう?」

「「「・・・」」」

「どうした?」

「どうかした?」


 コテンと同じ方向に首を傾げながら姫鬼達を見てくる紅達に対してどうやって場所を特定したとか、なんで普通に道分かるんだとか、そんな早く辿り着けるなら最初っからやれとか、言いたいことは色々あるが一言、


「お前らふざけんな」

「なのだわ」

「ぷー」

「「?」」

「「はぁ~/ぴ~」」


 今一理解していない二人にため息しか出ない。

 これだから天然は!

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