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キノコ

 ギルド本部の建ち並ぶ場所から少し離れたアーケード街、あまり奥行きや幅があるようには見えないその場所には幾人ものヒトが出入りしているのが見て取れる。

 それだけの賑わいがあるのであればさぞかし狭くごった返しているかと思うが、そんな事は無い。何故なら


「相変わらず中と外が一致しない場所だな、ここは」

「ああ、初めて入ったときは驚きで固まった覚えがある。現代日本じゃないって」

「アーケードの終わりと始まりの部分を起点に空間が捻じれてるからね。異空間の様なものだもの当然よ」

「おかげで入った瞬間景色が変わるから面白いのだわ」

「エキゾチックで綺麗よね!」

「だわ!」

「ぴ!」


 中の空間が捻じれ、外から見た時とは広さも雰囲気も全く違うからだ。

 アーケード街であるにも関わらずそこには雲一つない夜空が見える。しかし星も見えないほどの地上の明るさによって薄暗さはない。

 炎が揺らめく提灯が無数に架かり、人魂の様な不安定に揺れ動く光の玉が浮遊し、店々が灯す光によって幻想的で非日常な様子がまるで縁日の様な賑やかさを感じる場所、それこそがここ『縁日商店街』だ。


「取り敢えずはキノコからかな?」

「賛成だわ!売り切れたらショックだもの!」

「人間にはまだ浸透してないから売り切れは無いと思うけど」

「そうか?人間は兎も角、他種族はあんま気にせず買って行くからな、早めの方が良いだろ」

「ぴぴ?(どこにあるの?)」

「少し奥側ね」


 賑わいを見せる商店街をライを乗せた紅と腕を組んだカレンが先頭を行き、その後ろからはぐれない様に付いていきながら姫鬼と腕を組んだ狂が着いていく。

 傍から見たらダブルデートに見える構図だが、ちゃんと思いが通じ合っているのは姫鬼と狂だけだ。

 前方の二人はいい加減に恋人でもないのに腕を組んで歩くのはおかしいことに気付くべきではないだろうか?


 などと思うのは内情を知っている少数派だ。知らない者たちは一様に仲睦まじいカップル二組と+αを見て微笑ましげに見送るか、舌打ちをするか、+αに首を傾げるかの三択だ。


 そんな周囲など軽やかに無視、或いは気付かづに歩き続けると彼らのお目当ての店、髑髏と鎌が目印の死者のキノコ屋に辿り着いた。

 白い塗り壁に青い瓦屋根、赤い格子の丸窓と扉、軒先には六角形の灯籠が灯る中華系の建物の横に、髑髏と鎌の印とキノコの絵が描かれた看板が出ている。

 何も知らなければ怪しさ満点のその店の戸を紅は戸惑うことなく開け、カレンと共に中に入る。


「ごめんくださーい」

「チリリン」


 カレンの声に答える様に即座に返ってくるのはベルの音、見ればカウンターには顔まで覆うフードの付いたローブを着、黒い革の手袋をつけた指先まで黒で覆われた人物がベルを片手に座っている。ベルを鳴らしたのはその人物だろう。

 死者が運営しているお店なので当たり前の様に店番は死者だ。全身が布で覆われているのはお客が驚かない様にという配慮で、黒いのはロードへの尊敬を表しているらしい。

 おかげで中々に怪しさが漂った店になってしまっている。が、そんな事は露程も気にせずカレンは店番をしている死者に声を掛ける。


「こんにちは無毒な食用キノコってまだありますか?」

「チリン」

「良かった。何があります?」


 カレンの問にフードの死者は一つ頷くとベルをカウンターの上に置いて奥へと入っていった。

 丁度それと入れ違いに店内に入ってきたのは姫鬼と狂だ、縁日商店街の人波によって遅れてしまったらしい。


「キノコ有りそうなのか?」

「ああ、今取ってきてもらってる所だ」

「良かったのだわ!どうやって食べようかしら?」

「ホイル焼きに、バター炒め、キノコ汁でもいいわね」

「ぴぴ!(おいしそう!)」


 和気藹々とした雰囲気で話しながら待っていると、カウンター奥の裏手から荷台を押しながらフードの死者が出てくる。


「?」


 荷台の荷物をカウンターに置こうとして紅達の後ろに居る先ほどまで居なかった姫鬼達に気付いたらしい。コテンと首を右に傾け、左に傾け、もう一度右に傾けて固まってしまった。


「あ!大丈夫なのだわ、私達カレンさん達と一緒なの!」

「ええ、そうなんです。一緒に買うので大丈夫ですよ」

「・・・(コクリ」


 普段一組づつしか来ない所に二組の男女が時間差で現れたせいか混乱してしまったらしい。思考停止に陥ってしまったフードの死者が何に困惑しているのか察した狂が言葉をかけ、カレンが同意するとフードの人物は安堵したように頷くと、運んできた荷台からカウンターに荷物を出していく。


 出て来たのは種類別にキノコが1~3本づつ入った箱だ。

 箱に入っている種類が今用意できるキノコ、本数は在庫の数を表している。

 1本は殆ど在庫がなく2パックで終わり、2本は4~5パックある。3本は10パック以上ある。といった具合だ。

 因みに1パックはよくスーパーで見かける感じを想像して貰えればいい。その辺を基準にパック詰めしているので包装がよく似ている。


「結構あるみたいだな」

「舞茸があるのだわ!」

「狂ちゃん舞茸好きだっけ?」

「うん!キノコは大体好きなのだわ!」

「ぴー!(ぼくも!)」

「舞茸は買いだな、あとはエリンギと?」

「えのき、椎茸、マッシュルーム」

「なめこ!しめじ!タマゴダケ!」

「ぷぴ?(まつたけ?)」

「も、あるね。じゃあ今のください」

「チリン」


 結局並べられたほとんどを1本、2本は全部、3本は半分は買うことになった要するに殆ど買って行くことになったのだ。

 本当に今日の夜分だけなのだろうか?

 ちょっと引くほどの量を大量にお買い上げ、料金は一旦カレンが出して後で帳尻を合わせることとなった。


「チリン」

「ありがとうござました」

「チリン」

「はい、また来ます」


 代金を支払い、商品を受け取るうと、ベルを鳴らしフードの死者は深くお辞儀をする。『ありがとうございました』と言いたいのだろう。それに笑って礼を述べるともう一度ベルが鳴る。こちらは『またのご来店を』っといった意味だろう。ベルと身振りだけでの意思疎通ではあるが何となく意味は通じる。

 カレンは死者の言葉も通訳していたのでちゃんと聞こえているのかもしれないが態々通訳を頼むことの程ではない。なので何と言っているかわ分からないが、言いたいことは分かるので特に問題に思った事はないので大丈夫だろう。

 最後にぺこりと頭を下げて紅達は店を出る。


「キノコは手に入ったし次は何処だ?」

「大豆屋さんかな、お醤油欲しい。あと味噌もついでに」

「樽か?」

「いや、家は樽では買わないから」

「だわ!?樽で買わないで間に合うの?」


 そんな馬鹿な!っとでも言いたげに目を見開くのは普段台所を預かっている狂だ。


「狂ちゃん、家そんな濃い目の味付けしないし常備菜作る時はそこそこ使うけどそれも作り終わったからそんな要らないよ」

「へー、家は月に一度樽買いなのだわ」

「家は半月に一度リットル買いだよ」

「ぷぺ?(家でちがう?)」

「当然、それぞれの家庭や種族で違うからね」

「鬼は濃い味付けを好むから買うときは樽買いだな、場合によってはそのまま飲むやつもいる」

「醤油を?」

「醤油を原液で」

「それは凄い」

「わたしや姫鬼様しないのだわ。でも濃い味付けが好きだからリットル買いだとすぐに切らしちゃうの、だから樽買いなのだわ」

「人間はそんな事したら血圧が上がって早死にしちゃうからね。適切に寧ろ少なめにしてるわ」

「ぴー(へー)」


 鬼は人間とは体の構造が違う為味覚等色々好みが違うのだ。鬼にとっては味噌醤油を樽で買うのは当たり前で、ひと月でそれを使い切るのも当たり前、人間ではちょっと考えられないが鬼には普通、よくある種族ギャップだ。

 新たな種族ギャップに驚きつつも歩き続けて向かうのは大豆製品を一手に取り扱っている複合店『大豆屋』を恋人二組と+αに見える一行は目指すのだった。

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