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解体

 何事もなくダンジョンを出た紅達はすぐ側に建つ『冒険者ギルド解体専門出張所』へと向かった。

 出張所内に入ると紅達に気づいたカウンター内の大柄な男が気さくに紅に話しかけてくる。


「お、紅戻ってきたか、今日も大漁か?」

「おうガイル、ばっちりだ。解体は直ぐに出来そうか?」

「ガハハ!大量かそりゃぁ良い!解体はすぐに出来る。時間も聞いてたからな、他の奴は入ってねぇぜ?おーいカガリ!紅達のお帰りだぞ!」

「ハイ!」


 紅も男、ガイルに気さくに返す。大柄で凶悪面なため気弱な者は悲鳴を上げることもざらにあるが、ガイル本人は陽気で気の良い男だ。

 それなりの頻度で出張所を利用するのでガイル以外にも受付の名前と顔が一致し、気軽に話せる者はいるのだが一番親しいのはガイルだろう。

 凶悪面をくしゃりと歪ませ更に悪人面に磨きを掛けつつも豪快に笑った後、ガイルはカウンター奥に声を掛け、紅が指名した解体を行う冒険者を呼ぶ、ソレに答えるのは発音に違和感のある声だ。


「御待たセしまシタ」


 重量感のある足音と共にやってきたのは、エメラルドグリーンの長い髪を一本の三つ編みにし、紺色のロングスカートと襟元に青い石の飾りのついた白いYシャツを着た光をはじく鈍色の体を持ったロボットだ。

 人間を模した作りで四肢があり、顔にも目鼻が付いた。一見するとアンドロイドにも見える作りだが、肌の色だけは元の金属の色が出ているので括りとしてはロボットになるだろう。

 しかし造詣は整ている。手足は細くしなやかなで職人が作ったかのような美しい光沢を放ち、翠に光る眼は穏やかな知性が伺える。

 構造上表情を変える事は出来ないが、目には感情が乗り、感じたことを口にして行動することで、表情がなくとも確りとコミニケーションが取れる。感情を理解し、自我を有するれっきとしたヒトであり隣人である。


「こんにちはカガリさん」

「こんにちはなのだわカガリさん」

「コンにちハ、カレン様、狂様、本日もオ綺麗ですネ」

「ふふ、ありがとう、カガリさんも綺麗よ」

「ありがとうなのだわ!カガリさんも今日も綺麗に編み込まれた髪が可愛いのだわ!」

「アリガとうゴザイまス」


 違和感を覚える発音と少し無機質に聞こえる声ではあるが、確りと感情のこもった言葉で女性陣と楽しそうに話すカガリは普通の女性だ。

 三人はプライベートでも付き合いがあるので仲が良く、放っておけば何時までも喋ってしまうので、


「こんにちはカガリ」

「どうも、カガリさん」

「ぴーぴー!ぴぴぺ(こんにちは!かがりさん)」

「コンにちハ、紅様、姫鬼様、ライ様、本日は御依頼アリガとうゴザイまス」


 三人の話を遮らない様に声をかける。

 するとカガリも自然と仕事モードに切り替えてくれるのでそのまま仕事の話に移行する。

 楽しそうに話しているさまは見ていて微笑ましいので何時まででも見ていられる気はするが、解体してもらわなければ事が進まないので仕方ない。


「こっちこそ、受けてくれてありがとなカガリ、今日も頼む」

「ハイ、此方へどうゾ」

「俺らは待ってるわ」

「あんまりゾロゾロと付いていくのもお邪魔になるのだわ」

「ぷぺ(まってるね)」

「分かった」

「すぐ戻ってくるわね」


 紅の言葉に確りと頷くとカガリは解体部屋へと向かう。解体品を持つカレンと紅は付いていき、姫鬼達はその場で待つことにする。解体台に物を置いて来るだけなので時間が掛からないとの判断だ。

 その判断は正しく、数分もしないうちに二人は戻ってきた。


「お帰りなさいなのだわ」

「ぴぺ(おかえり)」

「ただいま狂ちゃん、スラさん」

「カガリさんなんだって?」

「一時間ぐらいで解体終わるって」


 出張所ではダンジョンに入る前に紅が出した依頼書により既に解体準備がされていた為、直ぐに解体が始まったのだ。

 カガリは迅速かつ的確、加えて繊細な解体をする。短時間で質の良い解体をする人気の解体者だ。その為普通なら予約を取るのも難しい。


 しかし、カガリは人見知りだ。

 初対面の相手と上手く会話するのは難しく、見た目から奇異の目で見られることも少なくない。冷静な観察眼を持つからこそ相手が自分をどういった目で見ているかも察せる。

 故に、カガリは仕事相手を選ぶのだ。自分に侮蔑や侮り、拒否や道具を見る目を向ける差別意識の強い者を断固拒否し、自身を興味はあれど否定や侮蔑の目で見ない、差別意識の無い者や少ない者からの依頼を受ける。


 結果としてカガリとの個人的付き合いと、差別意識が皆無な紅達は何の問題もなくほぼ毎回カガリに解体をお願い出来ているのだ。


「さてと、じゃあ解体の間に調味料とキノコでも買いに行きましょう」

「鎌印の?」

「そう、髑髏と鎌印の死者製キノコ」

「鎌印!死者さん達のキノコっておいしいから好きなのだわ!」

「髑髏と鎌って印のせいで毒キノコなんじゃないか疑惑を掛けられてるよな、普通に安全で美味いけど」

「ぷぷぺ?(なんでドクロ?)」

「実際毒キノコも売ってるんだよ、薬とか錬金の材料用とか毒キノコが主食の奴とかもいるし」

「ぴー(へー)」


 死者達が栽培する髑髏印のキノコは安全・安心の工場生産だ。

 大きく分けて種類は2つ、髑髏と鎌印の一般的な食用キノコと髑髏印の毒キノコである。

 毒を主食とするヒトもいるのでどちらも食用ではあるのだが、誤って買ってしまわない様に毒キノコ購入の際は証明書の提示が必要だったりする。

 閑話休題


「買い物はそこの商店街かしら?」

「ええ、そのつもりよ。キノコ屋さんや大豆屋さんもあるから一通り揃うわ」

「醤油とかも買うのか?」

「そろそろ切れそうなんだと、元々明後日にでも買いに行こうかって話してたし丁度いいだろ」

「ぷぷぴー、ぴぷ(商店街ふまれそう、肩かして)」

「頭の上は?」

「ぴー!(よろしく!)」


 紅がライに肩ではなく頭を貸すことが決定するとささっとライが頭の上に載ってバランスを取る。確りと安定したのを確認してから紅達はダンジョンの囲いの外、ギルドの立ち並ぶ区域から少し外れた場にある商店街へと向かった。

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