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みず

「さて、ライさん。申し訳ないのだけれど血抜きだけお願いしていい?」

「ぴ(うん)」


 一度仕舞った地竜を地面に置き直しながらカレンはライに頼む、血抜きは早ければ早い程肉が傷みにくいのだ。

 まだ少し唖然といながらもライは体を槍の形に変形させる。それをカレンが地竜の心臓に突き刺して先ほどと同じ要領で血抜きを行う。

 唯一違うのは地竜のすぐ側にいつの間にやら置いてある大きな三つの樽だろうか?出所は勿論カレンの袖下だ。

 地竜の側で待つこと数秒、胸部の穴から真っ赤になったライが這い出てくる。


「ぴぴー(ただいま)」

「お帰りライさん。この樽に入れてもらっていいかしら?」

「ぴ!(うん!)」


 水分を大量に含んで重そうなライをカレンは重力操作で持ち上げ、側に用意した樽に近づける。

 するとライは体の一部を樽の中に入れ、そこから血を吐き出して樽にためていく、樽は耐水、密封、内部拡張、時間停止の術が施してあるので中に入れた物は腐らず鮮度も落ちず、見た目の倍以上に入る。鮮度命の輸送を仕事にしている者にとっては喉から手が出るほど欲しいであろう物を無造作に取り出す辺りカレンは規格外だ。


 大樽三杯に血が並々と入ったのを確認するとライを下ろし、蓋をしっかりと締め、袖下の中に展開している異次元収納に地竜と共に仕舞い込んだ。


「さあ、ここから離れましょう。少量とは言え血の匂いをばら撒いたからまた来るかもしれないし、他にも回らないといけないもの」

「はいなのだわ。また不意打ちは嫌なのだわ」

「だな」

「ぴ!」


 カレンの言葉に異論は上がらず姫鬼たちはドラゴンの巣をあとにした。



     ※      ※      ※



 ドラゴンの巣を離れカレン達が向かったのは第68層は内部のほとんどが水没している海のエリアで魚類、甲殻類、頭足類等の水中で生息できる魔物が出現する。

 そのため水中呼吸や水中を自在に動ける機動力が無ければ身動きすらままならない。

 そんな場所にやってきた理由は勿論、


「蛸擬きが居るな」

「蟹はいないのかしら?」

「ぴー?(魚は?)」

「取り敢えず蛸を狩りましょうか」


 魚介類の確保である。

 ・・・ドラゴン二体に魚介も獲るとかどんだけ食べるの?とは思うかもしれないが、鬼はたいへん燃費の悪い種族なのだ、しょうがない。余りは備蓄か万屋本舗に流れるのだから無駄にもならないし大丈夫だ。多分。


「蛸・・・どう仕留めるんだ?」

「さばく時に目の間を包丁や千枚通しで突いて生き締めにするのだわ。だから目の間が急所だと思うのだわ。同じ要領で良いんじゃないかしら?」

「成程」


 姫鬼の疑問に狂が蛸の生き締め方法を元に急所を割り出す。例え魔物であろうとも生物故に急所は存在する。普段見る動植物と生態が似ていても不思議ではない。

 納得した姫鬼はさっそく眉間を狙う算段をする。


「縛って突き刺すか」

「お手伝いするのだわ」

「おう、縛るから刺してくれ」

「任せるのだわ!」


 にこりと可愛らしく笑って承諾した狂をバッチリと視界に入れつつ姫鬼は蛸を縛る術を編み上げる。

 悠長に話していて襲われないのか?と思うかもしれないが、蛸そのものとの距離は遠い。此処に居るのが規格外な人物だからこそ確認できているだけで蛸自身は自身の存在に気づかれているとは露程にも思っていない。

 そもそも蛸は保護色で身を隠しているので近づいても分からない筈のものを遠目で発見できているあたりが蛸泣かせなのだ。

 そんな蛸泣かせたちは蛸の意識外から行動を起こす。

 姫鬼が編み上げた術で蛸を触手一本動かせないほどぎっちりと縛り、驚きと混乱の只中に居る蛸へ狂が一瞬で間合いを詰めると目と目の間、その隙間に拳を打ち付ける。


「――――!!」


 動かない体に叩き込まれた重い一撃は見事に蛸の急所を捉え、一瞬のうちに絶命した。


「ぴー!(すごい!)」

「一発だね。じゃ回収」

「ぴ?(血ぬき?)」

「うん、お願い。蛸の血は使わないから流しちゃってもいいよ食べてもいいけど」

「ぴぴ!(りょうかい!)」


 姫鬼と狂のコンビネーションに拍手を送りつつ血抜きを開始する。ライは蛸の頭に見える胴体部分に自分の力で体の一部を突き刺すとスルスルと入りんで血抜きをする。

 蛸の血は薬になったり美味かったりはしないが、豊富な魔力を含んでいるので魔法陣を書く時のインクの材料として使われる事もある。ただにおいがちょっとアレだ・・・。

 魔力を抽出し固めれば純度の高い魔鉱石と呼ばれる魔力を結晶化させた石に出来るのだが、その技術はたいへん難易度が高いため出来る者が居ない。

 要するに扱いにくい代物なので捨ててしまうのが殆どだ。

 そうこうするうちに一回り大きく、青くなったライが出てきた。


「青?赤くないのだわ」

「ん?ああ、蛸の血はヘモシアニンという成分が血液に含まれているせいで青く見えるんだ。詳しくは割愛すが生物としての違いだな」

「へ~。不思議なのだわ」


 青い血のせいで一層青く見えるライではあるが、それも直ぐにいつも通りの色に戻る。どうやらそのまま食べてしまうらしい。


「あ、ライさん悪いのだけれど蛸墨の回収もお願いできないかしら?うっかり流れ出したら勿体ないわ」

「ぴぴ、ぴぺ?(たこすみ、おいしい?)」

「ええ、烏賊よりも蛸の方が美味しいのよ。ただ通常の蛸だと量が少なくて実用的ではないのだけど」

「この大きさの蛸ならそれなりの量獲れるな」

「あら紅、遅かったわね」


 カレンの言葉に被せる様に後ろから近付いて来た紅の声が重なる。


「ああ、ちょっと24層に行ってた」

「24層って森のエリアだよな?何してたんだ?」

「野菜採り」

「野菜?24層に野菜なんてあったかしら?」

「ぷぺ?(ないの?)」

「うーん、私は思いつかないのだわ」

「24層ってと植物系の魔物が主な場所だな」


 第24層、ジャングルのような木々と薄暗く湿った空気のエリアだ。主に植物系の魔物が生息している。


「何か良いの採れた?」

「マンドラゴラと根若(こんにゃく)、キャロ、五棒(ごぼう)、ボポト、長根木(ながねぎ)玉根木(たまねぎ)、ハサイ、紅天狗(べにてんぐたけ)、ピーマグ、塔唐土(とうもろこし)枝打豆(えだまめ)、サレカの葉位だな」

「良いんじゃない?」


 紅が上げたもので一通り集めるものは集まった。あとは普通に調味料といくつかの材料を買い足して帰るだけだ。


「24層でマンドラゴラが採れるのか」

「ぴ?(めずらしい?)」

「ああ、あまり多くは出回らないな、買うと割高だから採れるなら採っておきたいやつだ」

「なら少し分けるか、栽培はしないのか?」

「素人がやるには難しいな、その内手を伸ばしたいが今は環境がない」

「成程」


 マンドラゴラは錬金術とか薬制作とかでそれなりに使うのだが、需要と供給が一致しない代物だ。見つけ難く採り辛いせいで買うと高いし、栽培も難しい。大変厄介な代物である。

 話しながらも周囲への警戒は怠らず、貝やら蟹やら魚やらを片手間に狩りつつ紅達は階層の境界へ向かうだった。

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